本部(11)
「げぇ〜、また訓練やるのかぁ」
楽しい気持ちがちょっと萎びる。
「イカの墨吐きを見た事だし、そろそろ再開してもいいだろう?」
ぶー。思わず下唇を突き出した。
せっかく、クラーケンで一儲けするとこ想像してたのに。
「・・・クラーケン」
「え!?なになに?クラーケンがどうしたんだよ!何かクラーケンがいる証拠とかあんの!?」
「・・・・・」
「なに?どうした?勿体ぶってる?」
「いや、わかりやすいな〜と思ってな。ハァ〜〜」
はてさて?なんで溜息ついてんだ?
「・・よし!ちゃんと訓練したら、クラーケンがいる証拠を探してやるよ」
「えー!マジで!?絶対だかんな!」
きたきたきたきたー!表彰が見えてきたー!!
「ヨッシャー!やるぞ!」
ウキウキしながらストローを咥えた。
ダメだ、興奮しちゃう。
呆れたような親父の顔にも気づかず、ニマニマしながらストローを吹いた。
フゥ〜
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・変化なし
「お前、ちゃんとイメージして吹いたか?イカは逃げるために墨を吐くんだぞ」
「わかってるよ!」
そうだ。命がかかってる時に、ニヤニヤ笑いながら逃げるヤツはいまい。
真剣に、真剣に、イメージするんだ。
クラーケンで金と名誉を手に入れるぞ!
グフフ
・・はっ!いかんいかん。
頭をブンブンと振って、妄想を追い出した。
俺はイカ。こいつは・・何にしようかな。
イルカ・・可愛いイメージだからやめよう。
アザラシもだ。俺の中では、両方ともラブリーなイメージだからな。そいつらに喰われるところなんて想像できないよ。
なら・・サメにするか。
サメが捕食してるシーンはテレビで何度もみたことがある。イカは食べてなかったけど、襲われるとこだけイメージできれば、よしとしよう。
えっと、俺はイカ。コイツはサメだ。
うわぁ〜、サメが来た〜、逃げなくちゃ〜
ダミーを作って逃げるぞ〜〜
フゥ〜〜〜 ふわわわん
何やら白い靄もやがかかってきた。
よおし、このままサメから逃げきってやる〜〜
カモン!ダミー!
・・・・・・・
・・・・・・・
あれ?
この重苦しい感じ。
「うおぉぉぉ!ついにイカでも成功したぞ!」
思いっきり拳を振り上げてガッツポーズをした。
「で、ダミーちゃんはどんな風にできてるのかな?」
自分で自分を見るってのも、不思議な感じだよな。
ワクワクしながら親父の方を見ると、そこにはヒモのような干からびた何かがあった。
ええぇ!?あ、あれがダミー!?
ひどい!あまりにもひどい!
俺だけど俺じゃない。ま、そこは当然なんだけど。
干し柿みたいな顔は目もうつろで、口開けてヨダレまで垂らしてるし、直視に耐えない。
うむむむむ。
納得できない。マ〜ジ〜で〜納得できない。
俺のせいなのか?ストローのせいなのか?
そもそもあれじゃ騙せなくね?
ってか、あんなのが俺のダミーだなんて許せん。
知らないヤツが見て、アレが俺なんだって思われたくねえわ。
他のダミーは作れないのだろうか。ちょっともう一回試してみよう。
「ジャジャーン!俺様ご帰還!」
「お、戻ったのか・・って、いつの間にかダミーも消えたな」
「なあ、あのダミーひどくね?」
「ハハハ!まあなあ。カッスカスだし、さすがにコレはないだろうと思ったよ。でも初めてだから、上出来なんじゃないか?」
「え〜?AJは、あんなもんじゃないの?」
「お、プロジェクターナノから戻ったのか。って、相変わらず失礼なヤツだな!」
そう言って左右のゲンコツで挟んでグリグリした。
「痛っ!痛いじゃん!やめてよー!」
「へえ〜。ナノにも梅干し効くんだな」
ビリビリッと電気を流してきたので、急いで手を離してかわした。触れてなきゃこっちのもんだ。
ナノが悔しがって、俺に雷撃を喰らわそうとする。
雷撃は触れてなくても喰らうので、急いで親父に張り付いた。親父が巻き添えを喰らうから、ナノも迂闊には攻撃できんだろ。
・・と思ったけど甘かった。
「AJのバカー!!」
ビシャァァーンッ!
「うっぎゃーーーーーー!!」「のわぁぁ!?」
俺は、親父を道連れに雷撃を喰らったのだった。
「・・つっ・・痛ってぇぇぇ・・な、なん・・で俺・・まで・・」
初めて雷撃を受けたのか、親父が呻いている。
「・・・フフ・・痛え・・だろ・・・」
自分が言い出しっぺのくせに、
「Aには悪かったけど、AJが悪いんだからね!」
と言ってプンスカ怒っている。
「痛ってえな〜。そっちから言い始めたんだろ、まったく。お〜、痛っ」
頭を撫でながら、ナノをジロリと睨んだ。
親父は頭に喰らった俺の巻き添えだから、俺との接触面から電流が流れたことになる。痛いは痛いだろうけど、頭よりゃ痛くねえだろ。
「それにしても、何で親父までナノの雷にやられたんだよ。どんな攻撃でもユニフォームに守ってもらえるんじゃねえの?」
「んあ・・ああ、それでいったら、お前もユニフォーム着てるんだから、父さんと条件は一緒だろう?」
「確かに」
俺の場合は全身タイツだから、守られてる感はゼロだけどな。
「最適最強の防具になるユニフォームも、金星人の攻撃からはガードしてくれないんだよ」
「え!?何で!?」
「金星人が善良だからだよ」
「???意味わかんねえんだけど」
「万が一、敵に悪用された時の安全策として、金星人の攻撃からは守らないようにプログラムされてるんだよ。もし、自分達で作った武器や防具が完全なもので、それが敵の手元にあったら手が出せなくなるからな。自分達の武器で自分達がやられるならまだしも、他の宇宙人、一番身近なのは地球人なんだけど、その人達に迷惑はかけられないから、ってことだ」
「なるへそ」
その後は、自分にも被害が及ぶ恐れがあることが身に染みてわかった親父は、こんこんとナノに説教をしていた。
「この隙に、ダミーの試作品を作りまくるぞ!」
ということで、俺はひとりで訓練を再開した。
これも全て、金と名誉のためだ!!




