本部(8)
「やったぜ!!」
背後から声をかけると、驚いた顔で親父が振り向いた。
「お!?おぉぉ〜!成功したな!!」
思わず親父とハイタッチした。
「良かった!マジでうまくいって良かった!!」
初めて自分の意思でストップINGの世界へ行って、無事に戻ってきたんだ。全然興奮が収まらない。
「なあ、俺すごくない?すごいよな!向こうに着いてすぐ戻ろうかとも思ったんだけどさ、親父が言ってたみたいに的を壊してみようかな、って思ってさ!靄が出てきて気が散りそうになったんだけど、頑張ってそのまま集中続けて、気がついたらあっちの世界にいたんだよ!なあ、すげえだろ?俺頑張ったよな!!」
「ハッハッハ!すごいぞアタル!やったじゃないか!よく頑張った!!」
子どもの頃のように、両手で頭をぐしゃぐしゃにされたけど、腹が立つどころかめちゃくちゃ嬉しかった。
「マジでやったよな!的もバッチリ破壊しただんだぜぃ!」
「ああ!お前が消えた少し後に、ターゲットがちゃんと破壊されたよ!父さんはお前のいう世界に行けないから、手伝ってやることもできないし心配してたんだけど、全然問題なかったな。初めてなのにすごいぞ!感覚的にはどんな感じだったんだ?」
「あっちにいる間は、周りの空気・・空気なんかな?あれ。それが重いんだよ。でもこうやったら動きやすくなったから、的の側まで行って叩いてみたってわけ。コイツを振り回すのもゆっくりにしかできなかったから、ちゃんと的が壊れないかもと思ったけど、触っただけでも壊れて良かったよ」
説明しながら、ストップINGの世界でやったみたいに、水をかき分ける動きをして見せた。
「周りが重い?」
「うん。トロミの中にいるみたいなんだよね。水よりもっとトロッとしたものの中に沈んでる?浮いてる?みたい、っつーか」
「そうか。行ってみたいもんだな〜」
羨ましがられるのも悪くないな。
鼻の脇を掻きながらニヤついていると、
「さ、次はイカだ。イカの場合はどんな風になるのか楽しみだな!!」
親父は俺の肩を手を置いて、急かすように言った。
「ええ〜、疲れたから休もうよ」
「疲れるわけないだろう。感覚を忘れないうちに試さないと」
ほら急げやれ急げと尻を叩かれて、渋々ストローを咥えた。
「あ〜あ。まだ成功の余韻に浸りたいのに〜〜」
俺の気持ちとは裏腹に、親父はヤル気がみなぎっている。なんで?なんでなん?
「タコと要領は一緒だな。イカ墨吐いて逃げるイメージだ。わくわくするな」
思わず溜息が出た。親父がわくわくしてどうする。
「イカの墨は粘っこいんだったよな」
くさくさしながらイカが逃げるところをイメージしようとして、思考が停止した。
うん?イカって何から逃げるんだろう。
「なあ、イカの天敵ってなに?」
「うん?タコの時と同じで良いんじゃないか?」
「う〜ん、タコの場合は、テレビで捕食されるとこをみたことがあるから、イメージしやすかったんだよね」
「タコをイカに替えてみればいいじゃないか」
親父のヤツめ。他人事だと思って適当なこと言いやがって。そんなに簡単にいくもんなのか?
「まあいいや。とりあえずやってみるか」
俺はイカ。こいつは敵。さっきと同じウツボだ。
うわぁ〜、ウツボが来た〜、逃げなくちゃ〜
あれ?どんな感じで逃げるんだ?
まあタコみたいに逃げればいいや。
煙幕・・じゃなくて、イカだからネバネバダミーだ〜
フゥ〜
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・変化なし
「ダメだぁ」
「諦めるな!もう一回やってみよう」
溜息をつきながら、再びストローを咥えた。
俺はイカ。敵はまたウツボね。ハイハイよろしく。
うわぁ〜、ウツボが来た〜、逃げなくちゃ〜
えーっと、足の間から海水を噴き出すんだっけか?
ピューッ
こんな感じかな?
ピュッピューーッ
よしダミーを出してやるぅ〜
フゥ〜
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・変化なし
「だー!!やっぱイメージ湧かねえ!!!」
「ちゃんと逃げるイメージでやったのか?」
カチンッ
「やったよ!さっきも言ったけど、タコが襲われてるのは見た事あるけど、イカはないんだよ」
「だから、タコとイカを替えるだけで良いだろう?」
カッチーンッ
「あのさあ!親父はタコとイカを替えればいいって簡単に言うけど、俺には無理なの。わかる?無理なの!!」
カーッ!マジでムカつく!
ムカつくムカつくムカつく!!
「こっちは、ちゃんと逃げるイメージでやっててダメなんだっつーの!やらないヤツが偉そうにダメ出しなんかしてくんじゃねぇ!」
あ、なんかどんどん腹立ってきた。
「やめだ!やめだやめだ、もうやめる!タコができたんだから、もういいだろ!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て。わかった、悪かったよ。簡単にイメージ交換できると思ったんだ」
「知るか!」
「そんなに怒るなよ。悪かったって」
余計なこと言ったと思ったんだろう、親父は慌ててるけど、知ったこっちゃない。
ムカついてその場にドッカリと座り込んだ。
「ちょっとここにいろ」
「ふん!親父がいなきゃ、どこにも行けっこねえだろ」
ヒュンッ
あ〜〜〜!腹立つぅぅぅ!!
言うのは簡単なんだよ、言うのは!
やるのは俺なんだよ!この俺!!
もしかして親父なら楽勝パンチなのかもしんないけど、俺には無理なんだよ!
みんなそれぞれのキャパってもんがあるんだ。自分だったら、できないことをやれって言われたらどんな気持ちになるか、考えてから喋れってんだ!
あ〜〜ムカつく!!
そのままごろりと横になったら、いつのまにか寝てしまった。




