なんで俺?(3)
「世襲制?」
「そうだ。金星の国家公務員として、金星と地球のために働いている」
ちょっと何言っちゃってるのかわかんない。
頭の中はぐちゃぐちゃだ。
「俺は確かに都道府県職員か国家公務員になりたかったけど、金星の国家公務員じゃないよ。っていうか、言ってる意味が全っっ然わかんない」
親父は、頭を抱えてハァ〜・・と長い長い溜息をついて
「だよなぁ」
と言うと、すっくと立ち上がって、右のこめかみをトトンッとクリックするように軽く叩いた。
ヴゥ・・ン
鈍い音がして、何か光るものが親父の顔の前の空間に現れた。それをピンチアウトすると、体の横で指をカタカタ動かしている。
何をしてるんだろう?
ヴゥ・・ヴゥン
親父は、目の前でうっすらと光っているだけの、何もないはずの空間から、光る輪っかを2つ取り出すと、またこめかみをトトンッと叩いた。
シュッ
光るものは一瞬で消えた。
俺は夢を見てるんだろうか。
確かにここは俺の家だけど、すべてがマジックのようであり、近未来の映画を観ているようでもあった。
「ほら。これはお前のだ。腕にはめろ」
親父から光る輪っかを一つ受け取った。
「こうやるんだ」
見様見真似で肘の内側辺りに輪っかをあてると、触れただけで、スッと腕にハマった。
チャリンチャリ〜ン
小銭を落とした時と同じ音だ。さっきまではカッコよかったのに。
「なんか安っぽい音だな」
「文句を言うな。行くぞ」
「へ?」
ヒュンッ
親父が一瞬消えたと思った次の瞬間、2人で真っ白な建物の中にいた。天井は見えない。一面が白一色の世界。
「へ?へ?」
口からは「へ」しか出てこない。まるで言葉を忘れたかのようだ。
「長老さま!息子を連れて参りました」
にょろん
突然、フンニャリとしたモノが目の前に現れた。
パッと出てきたのではなく、浮きでて来たかのようだ。
「うわぁ!?」
背骨から何かを抜き取られたような感覚で、腰から砕け落ちた。これが「腰が抜ける」という事なんだろうか。
「ヒ、ヒェ、ヒェェ・・ク、クラゲの・オバ・・ケ・」
目の前にいるのは、どうみてもクラゲの化け物だ。
金星人?これが金星人なの?さっき親父は俺のこと金星人だって言ったよな?俺、こんなんなっちゃうの?
「何バカなこと言ってんだ!5番長老さまに失礼だろう!」
「5番じゃないわ!3番じゃ!」
「はっ!大変失礼を致しました」
クラゲマンと親父が話をしている・・・というか、クラゲマンの声(声なの?これ?)は、聞こえるんだけど、耳を通してない感じがする。頭に直接響く感じ。
親父は両足の踵をカツンッと合わせると、肘を曲げて床と水平になるまで腕を上げ、拳と拳を胸の前で突き合わせた。これが金星の「気をつけ」なんだろうか?
でも、そんなことどうでもいい。
「ちょ・・ク・・ご・・あわわわ・・」
ダメだ。全然うまく喋れない。
クラゲマンは、表面が重力で層状に垂れてしまったデカい真珠のような頭をしている。なんか光ってるし。
ただ真珠とは違って、フンニャリとした柔らかさがある。垂れた部分で、離れた大きな目の大部分が隠れているけど、見えている部分は曲線だから、たぶん目の形は丸いんだろう。
そして頭の下・・から直接足が生えてい・・・る!?
えー!?内臓は??もしかしてイカとかタコみたいに、あのデカい頭の中にあるのか???
いやいや、考えるのはやめよう。
えっと、足は・・・何本だ?1、2、3・・10本ある。
え?何なの?クラゲじゃなくてイカなの?
シュルルルル
突然、クラゲマンなのかイカマンなのか、どっちでもいいんだけど、そいつがバルーンアート用の風船みたいな手?足?を伸ばしてきた。
「ヒッ!?」
ビビる俺の体にそれを巻きつけてヒョイッと立たせると、そのまま別の手だか足しだかを伸ばして、左上腕と右こめかみに軽くタッチした。両の手?はシュルシュルと引っ込んだけど、触れられたところは、電気を浴びたようにチリチリしている。
あれ?いま何されたの?
クラゲマンは、放心状態になっている俺に
「アタル。お主はこれから金星人として、金星と地球のために働くのだ」
と一方的に告げてきた。
「はぁ?」
驚きのあまり、一瞬で我に返った。
いきなり連れてこられて、わけのわからない事を言われている。金星と地球のために生きる?何言ってんだ?
俺のモットーは、「安心・安全第一で、安定した人生を送る」なのに、真逆じゃないか!!
「・・けんなっ!!」
猛烈な怒りが湧いてきた。もちろん、親父とクラゲマンにだ!
「ふざけんな!ふざけんな!!ふざけんなー!!!」
拳にグッと力を込めると、思いっきり叫んだ。怒りは恐怖に勝つらしい。
「いきなり金星人って何なんだよ!そんなの知るか!こんなの理解できるわけないだろ!!」
「アタル!7番長老様に失礼だろう!」
シュルルルル・・・パコン!
「だから3番だと言っておるじゃろうが!」
「はっ!大変失礼を致しました」
「お主は何度言っても覚えぬよのぅ」
クラゲマンに叱られて、親父がシュンとした。
あれ?もしかして親父ってポンコツ?
いやいや、今は親父がポンコツだろうとどうでもいい。
「そもそも、俺と親父だけで何とかできるわけないだろう。スーパーマンじゃあるまいし、惑星を背負って立つなんて、ちゃんちゃらおかしいぜ!!」
「落ち着け。俺とお前だけじゃない。今は、俺を入れて世界で7人が国家公務員として働いている」
「そいつらみんな世襲制なのかよ!」
「そうだ」
親父はそう言って頷くと続けた。