通学(3)
はぁ〜〜。めっちゃ疲れた。
ふたりとも変な顔してたよなぁ。
独りになると、どんどん気が滅入ってきた。
「で?どんな子?」
テーブルの向かい側にふたりが前傾姿勢で座って、言わせる気マンマンだ。
俺は溜息を一つつくと、覚悟を決めて話し出した。
「まん丸で」(俺)
「ぽっちゃりか!太ってる子って、フワフワして柔らかそうだよな」
いや、ぽっちゃりじゃなくて丸なんだよ。球体。
「よく跳ねてる」(俺)
「もしかして、お前に遭うと飛び跳ねるほど嬉しいってことなんじゃね?ヒュ〜」
いや、飛び跳ねるっていうよりバウンドするんだよ。
なんなら浮かんじゃうし、飛んじゃうし。
「気分で色が変わるんだ」(俺)
「すぐ赤くなっちゃう子っているよね!可愛いよな〜」
いえいえ、赤面するんじゃなくて、発光するんだよ。興奮すると、なおさらビカッと光んの。
「イボイボしてて」(俺)
「ニキビがいっぱあるの?僕たちもすぐニキビできるもんな。痘痕も靨って諺もあんじゃん。チャームポイントにだよね」
いや、ニキビどころか全身が激しくイボイボなんだよ。
しかも、怒ると尖って危険極まりない。ハリネズミどころじゃないんだぜ。
「デカい目が光るんだ」(俺)
「コンタクトだな!キラキラうるうるってことか〜。目が悪い人は、目が綺麗なんだってさ」
いやいや、赤く光ってビームまで出るんだよ。
おまけに内臓までスキャンできちゃうワケよ。
なんなら、レジでバーコード読み取る機械に似てるかもな。
「お前って呼ぶと電撃を喰らう」(俺)
「え!?」「ええ?」
「いやだからさ、お前なんて呼ぶなって怒られて、電撃ショックを喰らうんだよ」
「・・・・・」「・・・・・」
あれ?ふたりとも急に黙っちゃった。
ここは伏せといた方が良かったかな?
でも全身ビリビリやられるってのは本当だし、おまけは雷撃まで喰らわすんだから、俺としてはたまったもんじゃない。
「・・あのさ」
佐竹が言いにくそうに口を開いた。
「護身用に持ち歩いてるんだろうけど、スタンガンを持ってて、それをアタルに使うってこと・・?」
おっ!スタンガンを思いついたか!さすがは佐竹!
だけど、持ち歩いてるわけじゃなくて、「生きる全身スタンガン」ってトコなんだよな〜。
思わず腕組みをして、うんうんと頷いた。
「・・痺れるほど好き、みたいな比喩じゃなくて、怒ってスタンガンを使ってる・・ってこと?」
なに言っちゃってんだよ清澤!
普通は、好きな相手にスタンガンなんか使わねえだろ。
痺れるほどっていうより痺れちゃうの!
「比喩な訳ないじゃん」
「・・・・・」「・・・・・」
あれ?また無言になっちゃった。
さっきまで根掘り葉掘り訊いてきたくせに、スタンガンのくだりから、急に様子がおかしくなったな。
「あの・・なんていうか・・どんなにムカついても、スタンガンは使っちゃダメだって言った方がいいぞ」
「・・うん。あれは護身用だから・・」
ナノのことなんて知らないふたりは、真剣に心配してくれている。
「そうだよな。どんなにムカついても電撃はダメだよな」
ナノにしっかりと注意しておかなければ。
「アタル」
「うん?」
「スタンガン以外で暴力受けてないか?」
「言葉の暴力もだぞ。大丈夫か?」
あれ?もしかして、俺が暴力女子を好きになったと思ってる・・とか?
よく見ると、ふたりとも憐れみを湛えた目で俺を見ている。
「いや、ちが、違う違う」
両手のひらを2人に向けてブンブン振った。
「ヤメロ!違ーう!そんな目で見るなぁー!!」
あちゃ〜、余計なこと言っちゃったな〜。
でも、コイツらに変な嘘はつきたくなかったんだ。
一つの嘘は、次々に嘘を産むからな。
それに実際、気になってる存在はいるし。
ただ残念なことに、それが「ナノ」っていうだけだ。
だからと思って、ナノを思い浮かべながら話してただけなんだけど、変なことになっちゃったな。
「なあ、蕨屋行かね?」
突然、清澤が立ち上がった。
「あ!僕も行きたいと思ってたんだ」
ここから5分くらい歩いた駅ビルの5階に「BOOKの蕨屋」がある。ここら辺で1番デカい本屋だ。
いまから蕨屋?もうこの空気感には耐えられないんだけど。
「俺は帰・・・」
「ほら!アタルも行こうぜ」
「え!俺は帰るってぇ・・」
「いいから行くぞ」
「えぇぇぇ〜〜〜〜」
またしても、ふたりに引きずられるようにして蕨屋に行くことになった。
蕨屋に着くと、
「佐竹、一緒に探してくれよ」
「おう。アタルは立ち読みでもしてろよ」
そう言ってふたりは奥のコーナーに消えていった。
あ〜あ、何だよこの空気感。
なんでこうなっちゃったんだろ。
はあぁ〜。金星人になんかなりたくなかった。
いや違う。金星人として生まれてきたくなかった、が正解だな。
危ない目にも遭うし、アイツらに隠さなくちゃいけないことばっかやん。
信じてもらえるんだったら、隠さなくていいのかもしんないけど・・・俺だったら信じらんねぇもんな。
はあぁ〜
読むでもなく、週間漫画をパラパラ立ち見していると、
買い物が終わったらしく、ふたりが戻ってきた。行こうぜと言われて店外へ出ると、
「ほら。これ、俺たちから」
そう言って清澤から本を渡された。
タイトル「異性を見る目を養うには」
「・・・これって・・・」
「悪いことは言わない。暴力を振るわないように説得できなかったら、彼女のことは諦めろ」
「スタンガンはヤバいって!暴力はエスカレートしがちだから、危ないって!」
なんて良い友達を持ったのだ。
らくしなくジーンとしてしまった。
「・・・お前ら、本当にいいヤツだな。これ、有り難く貰っとくよ。心配かけて悪いな」
「大丈夫だよ!俺たちがついてるって」
「なんかあったら、すぐ僕らに言うんだぞ」
マジで泣きたくなってきた。
チクショー!
いつか誤解を解いてやる!ぜってー解いてやる!!




