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藍善さん(3)

「今回の任務は、狙った場所さえ外さなければ難しくない。集中してやれ」

「何を使いますか」

「ダムナディスを使う」

「効果を得るには少し小さくないですか?ダムナディスは中型だから、特大のダムナデズンにしましょうよ」

「いや。ダムナデズンは確かに効力が大きい。だが破壊規模に若干のムラができる。今回は、破壊するだけじゃなく融合させる必要があるから、慎重にいく」

「はい、はい」

「2度言うなと言ったろう」

「とりあえず何発いきます?」

「トレース」

「了解」


トトンッ


こめかみを叩くと、右目の前に無数の着弾地点が赤く示された。

何があっても即座に対応できるように、片目にだけ情報が表示されるようになっている。

両目で見ていない分、若干のズレが生じたとしても、正確に補正される仕組みだ。

トレースということは3発だな。

「3(さん)」

その言葉に呼応して、最適な3箇所が選ばれた。

全自動だから照準を合わせる必要もなく、便利なことこのうえない。

「ダムナディス」


ボウッ


目の前に大きな・・・といっても手のひらサイズの白く光る丸い球が、選んだ箇所数に合わせて3弾現れて浮かんでいる。

ダムナディスは地球でいう爆弾だ。ただし、着弾しても目標物はおろか、自らも飛散しない。着弾と同時に飛散物を全て取り込み、分子レベルに分解される。

宇宙ゴミを作らない、宇宙に優しい爆弾だ。

様々な大きさがあって、極小のダムニ、小型のダムア、中型のダムナディス、大型のダムナディア、特大のダムナデズンがあって、用途により使い分けている。

目の前に出てくる大きさはさほどでもないが、目標物に向かうにつれ大きくなる。扱い易い仕様だ。

「発射!」

ダムナディスは音もなく飛んでいった。

なんかちょっと合図がダサい。今どき「発射」って。

せめて「行け!」とかなら、まだカッコいい?

そんなことないか。


ドンッ


複雑な気持ちのまま見ていると、ダムナディスが着弾するのが確認できた。

宇宙空間には音を伝えるものがないから聞こえないんだが、聞こえた気になるのが不思議だ。

「よし、次もダムナディスにする」

「ラジャー」

「何だそれは。軽薄だな」

・・・無視

「返事がないな。わかったか」

「何発いきます?」

「クァトル」

はいはい4発ね。

「4(よん)」


さっきからこうやってトチトチとダムナディスを打ち込んでるけど、効果が見えない。

はぁ、飽きてくるな。

本当は、宇宙船にでも乗っていたら安全だし楽なんだろうけど、残念ながら俺たちは身一つ、自分専用のユニフォームを着ているだけだ。

確かに宇宙でも耐えられるし、自由度が高い。

初めて宇宙に来た時は「おおっ!」と感動したもんだ。

でも、これだけ同じことを長時間やってると、飽きてくるんだよな。だから、宇宙船なら気が紛れるかも・・なんて思ったりする。

藍善さんは、いろんな角度から確認したり計算しているから、それに比べると俺は楽なんだけど。


ドーンッ


・・ゴ・・


「ん?」


・・ゴ・・ゴゴ・・


「お!」


ゴゴゴゴゴ・・・


「おおお!すっご!」

まるで壮大な映画を観ているようだ。

音も聞こえた気がする。

それくらい、動いた瞬間はドラマチックだった。

「よし、動きだしたな。おまえはここから離れろ」

いつのまにか、すぐ横には藍善さんが立っていた。

切れ長の涼しげな目元をして髭を貯え、少し白髪の混じった長髪を後ろで束ねている。とても70歳を超えているようには見えない。

「藍善さんは?」

「軌道を確認して、場合によっては微調整する」

「俺は行かなくていいんですか?」

「万一2人とも巻き込まれたらかなわん」

「縁起でもないこと言わないでくださいよ」

「計算上では月の残骸はほとんど飛散しないはずだが、少し離れてサークレアを張っておけ。俺も確認したらすぐに行く」

「イエス サー!」

「外国かぶれめ」

・・・無視

まったく、うるさいったらありゃしない。

俺は少しでもダサさを払拭したいんだってば。

年寄りは黙ってろって!

なんて言ったら、めちゃくちゃ怒られるんだろうなぁ。

「では」

「うむ」


シュッ

シュッ


藍善さんと俺は、反対方向に別れた。

「よし、この辺でいいだろう。ここからなら、衝突の様子も確認できるしな」

ある程度離れてからライトサークレアを張ると、そこで藍善さんを待った。

球体に張ったサークレアにいると、まるでシャボン玉の中から外を眺めているみたいだ。

宇宙は単純な暗黒じゃない。色とりどりの星の煌めきや星雲で、信じられないほど美しい。

初めて見る惑星の衝突に心が踊る。

予定では張り付くように衝突するはずだ。

「軌道は問題ない。俺もそっちに向かう」

唐突に藍善さんの声が聞こえた。

宇宙で唯一聴こえるのは、互いの発する音だけだ。

ユニフォームのおかげなのか、こめかみのあたりから直接音が聞こえてくる。

「お気をつけて」

離れても会話できるから不思議だ。

もうすぐ藍善さんも来るだろう。任務完遂だ。

観ていると、核のない月がどんどん核のある月に近づいていくのがわかる。

宇宙には空気抵抗や摩擦がないから、慣性の法則で動き出すと止まらない。止まる時は、衝突する時だ。

どんなふうに衝突するんだろう。

宇宙に関するTV番組と同じようになるんだろうか。

子どものようにドキドキしながら月の動く様子を見ていていて、ふと藍善さんが戻ってこないのに気がついた。

あれ?どうしたんだろう?さっさと離れないと、衝突に巻き込まれかねないのに。

そう思うと不安になった。

「藍善さん!大丈夫ですか?早く来ないと・・」

「大丈夫だ。いまそっちに向かっている」

良かった。心配かけさすなよ、まったく。

ホッと胸を撫で下ろした。


シュウウ


キラリと小さく光るものが見える。

藍善さんだ。

「こっちです」

サークレアの中から手を振った。

藍善さんがコクリと頷く。

表情がなんとなくわかるところまで近づいている。

えっ?

突然、藍善さんが引き返した。

えっ? えっ?

「藍善さん!?何してるんですか!?」

「宝珠・・宝珠を落としたんだ」

宝珠?あの宝珠を落としたのか!

藍善さんは小さい宝珠を持っている。

時々光って、それはそれは美しいものだ。

「藍善さん、また光ってますよ」

「ん?ああ」

「それってなんで光るんですか?」

「そのうち教えてやるよ」

そんなやり取りを何度もしている。

月はどんどん進んでいて、今にも衝突しそうだ。

「藍善さん!宝珠は諦めましょう!もうぶつかりますよ!」

「いや、近くに見えている。すぐ届くさ」

「でもこのままじゃ間に合いません!とりあえず一旦そこで止まって、サークレアを張ってください!」

サークレアは、移動していると張ることができない。

「バカ言うな!宝珠が爆発に巻き込まれるやもしれん」

「藍善さん!!ダメだ!!時間がない!!!」

「待て、もう少しなんだ」

「ダメだ!そんなの後にして!!藍善さん!!」

「よし!掴ん・・」


ドガアァァァァーーーーーー・・・


「藍善さーーーーーん!!!!!」

次の瞬間、物凄い衝撃波が襲いかかってきた。

サークレアの周囲を、波が凄まじい勢いで通過していくのがわかる。全てのものが歪んで見えるからだ。

「・・嘘だ・・・藍善さん・・・嘘だ・・・」

あれだけの衝撃波なのに、月の破片はほとんど飛んでこない。藍善さんの予測はいつも正しい。

「嘘だーーーーーーーーーー!!!!!」

そう。藍善さんの予測はいつも正しい。

だけど、宝珠を落とすことまでは予測できなかったんだ。

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