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地龍(21)

圧倒的な存在感にあてられて、しばらくボウッとしていた。

「私もマグマに戻るわ。そろそろ限界なの」

俺も親父もモグママの言葉で我に返った。

「ママぁ、いっちゃうのなのー?」

「後でご飯持ってくるから、それまで良い子にしててね、ベイビーちゃん」

「・・・はあい」

モグは寂しいんだろう、ママにすりすりしている。そうだよな〜、まだまだママに甘えたいよな〜。

「アタル、雄は何て言ってたんだ?」

「うん?えーっと、友達の名前が出たってママのなんかが聞こえたから来ただけだって。確かにモグは可愛いけど、そのために星に傷をつけるようなバカな真似はしないって。我が子の住処も無くなっちゃうからってさ」

「そうか。他には?」

「たまにでいいから、モグの遊び相手になってくれって」

「他には?」

「えーっと・・・楽しいこと考えながら楽しく生きろ、みたいな感じ?」

「プッ」

ん?

何だ?今の人を小馬鹿にしたような笑いは?

ムッとして振り向くとモグママだった。

「あなた、覚えるのが苦手みたいね。それじゃあ1割も伝わってないんじゃないかしら。それから、夫が言ってたのは、私の何かじゃなくて、言の葉、言葉が聞こえたってことよ。もう少し学びなさい」

ムカついたけど、悔しいかな怖くて言い返せない。

「あ〜あ。地面から足も出ちゃったし。いいわ、このまま頭からもぐっちゃお」

「足が出ると何かあるの?」

「私たちはね、足と尾は土に入れたままにするようにしてるの。いくら私たちでも、逃げ道を掘るには時間がかかるから。足と尾を出さないようにしておけば、引っ込むだけですぐに逃げられるしね。足より尾の方が重要だから、敵の前に曝け出して傷つけたくないの」

「オ?」

「そうよ。ほら」

そう言うと、モグママは長く輝く尻尾をズルリと目の前に出して見せてくれた。

白銀色の鱗に覆われたそれは、意外なほどしなやかに動かすことができる。不思議なことに、シャランシャランと金属が擦れる音も、心地よく感じて全く不快じゃない。

長いワニの尻尾のようなんだけど、尾の先は広がっていて、背鰭のように折りたたまれたものがついている。マグマの中ではこれが広がって、優美な尾鰭になるんだろうか。

「うおぉ〜」「すっげぇ〜」

隣にいた親父も、俺と一緒になって歓声あげている。

「尻尾のことだったのか!すっげぇキレイだなぁ」

「魚類と同じで左右に振る形なんだな」

「スキャンさせてくれないかな」

横を向くと、いつのまにかナノがいた。

「あれ!?ナノ戻ってきたの?」

「さっきから帰ってきてるよ!AもAJも、ボクを蔑ろにしすぎなんだよ!!」

親父はプンプンと怒っているナノを抱えると、

「いやぁ〜、今日はナノのおかげで助かったようなもんだよ。ありがとな」

と、おべっかを使っている。

俺からしたら、くさすぎて「バカにしてんの?」と言いたくなるようなセリフもナノには通用するみたいで、満更でもなさそうだ。

「じゃあね。今後ともベイビーをよろしく。くれぐれも泣かせるんじゃないわよ」

モグママはそう言うとモグの方に向き直った。

「ねぇママ、さっきのがパパー?」

「そうよ。大きくなったら、一緒に泳げるわ。いっぱい食べて、早く大きくなろうね」

「うん!いっぱい、いっぱい食べるー!!」

なるほど、マグマの中だったら一緒に過ごせるのか。

モグママはイソメで(オェェ!)モグをひと撫ですると、「じゃあね」と言って騒々しく地下に潜っていった。

「なあモグ、ご飯って何?」

「これー」

モグは、でろーんとイソメを出してきた。

やべぇ!!余計なこと言うんじゃなかった!

咄嗟に横を向いた俺とは対照的に、親父とナノが「モグのご飯!?」と食いついてきて、見せて見せてと手に取っている。

「これは・・・金属?石?」

イソメを見ないようにしながら親父の手元を覗くと、そこにあったのは、どう見ても金属でできた漬物石だった。

「ねえ、スキャンしていい?」

ナノが訊くと、モグは片手を挙げた。「イエス」のサインだ。

「いっくよ〜」

そう言って漬物石をスキャンしたナノは、プロジェクターナノになって、俺たちの目の前に石の内部とそのデータを映し出した。

「これは・・・貝の仲間・・なのか!」

「初めて!これ初めて見るよ!!」

親父もナノも大興奮だ。

「おそらく、コイツもマグマの近くに生息してるんだろう。口がないのは、焼けたり溶けたりしないようにってことだと思う」

「じゃあ、この漬物石みたいなヤツは、どうやって栄養を採ってるんだよ」

「有機物を熱分解して栄養を得ていく過程の中で、金属を取り込んだんだろう。ここまで金属に覆われてると、外部からの栄養は得られなくなるから、あとは内部循環してるんだろうな。時給自足ってヤツだ。地龍はこれを食べることで金属が蓄積されて、身体を覆う鱗ができるんだろう。全部推測だがな」

なるほど。わかったような、わかんないような。

とりあえず、何でもいいや。

「これいつママにもらったの?」

「これねー、どうしてもおなかが減ったら食べるヤツなのー。ママが、どうしてもの時だけって言ってたから、お口の袋の奥にナイナイしてるのー」

「へぇ〜」

「ちぢょうちょくよって言ってたー」

???

「アタル?」

親父が「何て言ってんだ?」という顔で訊いてくる。

「なんか、チジョウチョクって言ってる」

みんなの頭に「?マーク」が浮かんだ。

「地上?地上から採ってきたってことか?」

「なら、「ちょく」って何だよ。モグ、聞き間違えたかもしんないから、もういっぺん言って?」

「ちぢょうちょくー。ママが来る前に、どうしてもお腹が減ったら食べなさいってー。だから、大事にもってるのー」

「やっぱ「チジョウチョク」だって。ママから、お腹が減ってどうしようもない時だけ食べなさいって言われて、大事に持ってるらしいよ」

「それ、非常食なんじゃないの?」

なのがボソッと呟いた。言われてみれば確かに。

ブハッ!!

わかってしまえば単純だ。3人で何で気づかなかったんだと大笑いしていると、つられてモグまで笑っている。

ああ、本当によかった。改めて安堵感で満たされた。

「じゃあ、帰るか」

親父がそう言うと、

「ボクまた独りぼっち・・・」

モグの目がうるうるしてきた。

そう。賑やかになればなるほど、お別れが淋しいんだよな。

「大丈夫。俺たちは友達だ。というより、俺はお前の兄貴分だぞ。またすぐ来るから、今度会ったらいろいろ教えてくれな」

そう言ってフカフカのモグに抱きついた。

「ともだちー?」

「そう!友達だ・・・あ!!」

忘れていたことを思い出して、親父の方を向いた。

「そうだ!モグパパが、藍善によろしくって言ってたよ」 

「いや、藍善さんは亡くなったって・・」

「ううん。自分と藍善を繋ぐ何とかはそのままだから、死んだフリしてるのかもってさ」

「!?」

親父がこっちの方がびっくりするほど驚いている。

「何て!?何て言ってた!?何とかって何だ!?」

真顔で両肩をガクガクと激しく揺さぶられた。

またかよ〜、ムチウチになるってぇ〜と思いながら

「あとは覚えてない」

そう言った。そう言ったのに、親父は「思い出せ!!」と言って譲らない。

「ほーじゅー」

突然モグが呟いた。

「え?なに?もっかい言って」

ガクガク揺さぶられながら訊くと

「パパねー「ほーじゅー」って言ってたー」

ホージューってなんだ?モグは語尾を伸ばすから、ホージュか?よくわかんねぇけど、とりあえず親父なら知ってるかもしんないし。このままじゃ本気でムチウチになっちゃうからな。

「モグは何だって!?」

「ホージュー?ホージュ?だって!」

「・・・宝珠・・・」

痛いから離せよ、と言う前に、親父は俺の肩から手を離すと、そのまま黙り込んでしまった。

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