地龍(19)
「アタル!!何て事するんだ!!!!」
親父が姿を現して駆け寄って来たけどもう遅い。
もうすぐモグママの口の中にナノが入る。
雷が地面に落ちても、マグマまでは届かないはずだから、地龍には電気の耐性は無いはずだ。たぶん。
耐性があったら電撃は効かないわけなんだけど、そん時はそん時だ。
モグママはポカンとしている。
ナノが、口の中から電撃ショックを与えてくれれば、モグママも大人しくなるはずだ。要はスタンガンと一緒だな。
「頑張れよ〜!」
混乱してるんだろう、ナノからの反応はない。
ちゃんと電気ショックを発動してくれればいいけどな。
よし、手を離すタイミングだ。
シュルルルル・・・
あれ?
シュルルルル・・・
え?え?
腕がナノから離れない。
マズい。これは非常にマズい。さっきナノに魚ソーを投げた時と同じ、非常に嫌な感じがする。
「ダメだ!離れろ!離れろったら!!」
シュポン
やべぇ!ナノがモグママの口ん中に入ってしまった!!!
「ダメだ!またかよ全自動巻上げ機!!」
そう叫んだ瞬間、腕が猛烈な勢いで縮み始める。
ピューーーーーーーーーーーー・・・
さっきと全く同じだ。これまたデジャブ?
今回はギンギラタケノコこと、モグママに向けて発射されたロケット花火だ。
「うぉわあぁぁぁぁーーーー!」
自分のせいとはいえ、金属板にぶち当たったら死んでしまう。
「やっべぇーーー!!死ぬ!死んじゃうぅぅー!!」
「アタル!足だ!足を使え!!」
親父の声が遠くに聞こえる。いや、実際遠かったんだけども。
あし?
アシ?
・・・足!!
そうだ!俺にはカッポンという強い味方がいる!!
腕を巻き上げられながらも、足をバタバタしていたら、
キュキュッ
なんとか金属板に足がくっついた。
「おおっ!これで踏ん張りがき・・く・・う・・?」
あれ?
なぜか踏ん張りがきかない。
踏ん張りはきかないのに、巻上げは止まらない。
「うわぁ!?なんで!?なんでェェェェーーーー!?」
キュポポポポポポポポポポポポポポポポ
「おわぁぁぁ!?」
腕は容赦なく巻き上がっていき、転ぶとおそらく、振り子のようになって金属板にぶち当たるだろう。それを避けるには、巻き上げに合わせるようにして足を動かすしかない。金属の崖ギリギリを逆バンジーするとこんな風になるんだろうか。
金属板を、高速で垂直に駆け上がるという信じられない芸当を繰り広げている中で、
「AJひどーーーーーい!!!!!!!!」
とモグママの口の中から叫ぶナノの声と、俺の体に電撃が流れるのは、ほぼ同時だった。
「おい!しっかりしろ!!」
親父に揺さぶられて気がついた。
「・・うぅ・・ううぅ・・・・・」
頭がボーッとして、なんで寝転んでるのかわからない。
「ママー、だいじょぶー?ママー」
横を見ると、モグがママをイソメでゆさゆさしている。
「ママは大丈夫だ。ちょっとびっくりしてるだけだよ。ほら、AJも同じだろ?」
普通なら、ママがぶっ倒れてたら泣き出しそうなもんだけど、親父がモグに調子の良いことを言っているから、モグも安心してるのか泣かずにいる。
いやいや、ぶっ倒れてるのに、ちょっとびっくりしただけなわけないだろ!と心の中でツッコミを入れた。
眩しい光が目に入ってくるから、眉をひそめて光源の方を見ると、ナノがド派手な色で光っていた。
「AJひどい!あんな事するなんて、本当に信じられない!!」
バウンドしながら怒り狂っている。
・・・はっ!
唐突に、ナノの電撃ショックを受けたことを思い出した。
ガバッと腹筋で起きようとしたけど、
「イ、イダッ!イテテテテ・・」
あちこち痛くて起き上がるどころか、顔もあげられない。こりゃあ、力を抜いて横になってるしかないな。
「良かった、気づいたか。まったく無茶しやがって。あのまま落ちたらケガじゃ済まなかったぞ。話せるようになったら、ナノにもちゃんと謝れ」
「謝ったって許さないからね!本当にひどいよ!!」
そうだ。駆け上がってる最中に、ナノの電撃を受けたんだっけ。
「・・うう、ううう・・ん・・」
「あ!ママぁ!起きたのー?おはよー!!」
横を見ると、フワッフワのモグが、ぶっ倒れてる金属ママに、添い寝でもするようにくっついて甘えている。
「よ・・よくも・・・よくもやったな・・・」
モグママの目が悔しそうに光るのを見て、痛くて動けない俺の体が、本能的にブルリと震える。
怖すぎて、とりあえず死んだフリをした。
やっべぇ〜。モグママも動けなくて良かった。動けてたら絶対ヤられてるって〜。
悔しがるモグママの気持ちなんてお構いなしに、モグがキャッキャと嬉しそうに話しかけている。
これが、親子が会った時のいつもの風景なんだろう。
死んだフリしているから、声だけが聞こえてくる。
「ママぁ。こっちAJなのー。美味しいのくれたのー」
「え?」
ん?俺のこと言ってる。
「AJのお話ししたかったのー。AJね、いつもヨシヨシしてくれるのー。そうするとね、あったかくていい気持ちになるのー。不思議のー」
「・・・え?」
「ボクの目ね、キレイってほめてくれたのー!うれしかったのー!」
「・・・・・」
「ボクの目ね、ママと同じのー。だから、ママの目もキレイなのー。うれしーねー!」
「・・・お話しできたの?」
「いっぱいのー!お話しいっぱいのー!楽しーの!」
「・・・そう。良かったわね」
モグママの声が変わった?気がする。
片目を薄く、薄〜く開けてモグママの方を見た。
モグママは口からイソメを出すと、モグを優しく撫でた。
オェェ。イソメを見てしまった。
いや、ほのぼのシーンなんだと思うんだけど、イソメがダメなのよ、イソメが。
「私、勘違いしてたみたいね」
モグママの声から攻撃性が無くなった。




