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地龍(18)

モグはママの元へ戻っていった。

「俺たちも行くぞ」

「行きたくない」

「もうモグは戻ったんだ。急がないと全てが無駄になる」

「行きたくない」

「アタル!!」

「だって、俺ばっか損な役回りじゃん」

「だから、父さんが守るってさっきから言ってるだろ〜。いい加減、腹を括ったらどうなんだ」

「AJ早く行こうよ〜。間に合わなかったらどうするんだよ〜」

「ナノはいいよな。見てるだけなんだからさ」

「失礼な!見てるだけじゃないよ!モグとママの近くにいてタイミングを計ったり合図を送ったりするんだよ?めちゃ大変じゃん!AJにはできないでしょ!」

畜生。全く、まっったく納得できない。

「イヤだ!イヤだーーー!!!」

親父は、しゃがみ込んだ俺の首根っこを掴むかのように服の首元を持って持ち上げた。

「グエェ、し、死ぬ・・」

苦しくて思わず立ち上がった俺は、グイッと顔を近づけてきた親父に

「赤ん坊じゃないんだ。いい加減にしろ」

と凄まれた。

「さっきみたいに、無理やり行かせてもいいんだぞ」

とまで言われて渋々歩き出す。

どうしよう。

どうしたら、いかに安全でいられるか。

いくら親父が守ってくれる約束をしても、結局のところ行動するのは俺なんだ。

トボトボと歩きながら、自分が安全でいられる方法を考えていた時、突然閃いた。

よし!これでいこう!!多少気は咎めるが、安全にはかえられない。

パァァァァァ

さっきまでボンヤリしていた視界が、くっきりと見えるようになって、一気にクリアになった。

途端に

「早く行こうぜ!」

と言って走り出した俺には、

「AJ、やっとやる気になったんだね!」

「いや、俺にはイヤな予感しかない」

という親父とナノの会話は聞こえなかった。


モグが見える位置までくると、親父とナノは 

ヌッ

という感じで姿が見えなくなった。

パッと消えるんじゃなくて、ヌルンという音が聞こえそうな消え方だ。何度見ても不思議だ。

「じゃあモグのところに行ってくるね」

見えないナノが小声で言った。

ナノがモグの元へ着いてモグに準備が整ったことを伝える。それを受けたモグが片手を挙げるのが、作戦決行の合図だ。

しばらくすると、モグが頷いて片手を挙げた。

「ママ〜〜!」

モグママの返事はない。

「ママ〜〜!痛い〜〜!痛いよぉ〜〜!」

俺にしか聞こえてないけど、セリフ棒読みだ。役者にはなれないな。こんなのでモグママが引っかかるんだろうか?

親父は、モグが何を言っても聞く耳を持たないほど集中してたとしても、子どもの発するヘルプには反応する、特にじゃないけどがいる現状なら、絶対に反応すると断言した。

親父によると、「大抵の親ってのはそんなもん」らしい。

すると、穴から猛烈な勢いでモグママが出てきた。

ふむ。親父の言う通りだったな。

かなり奥の方まで掘り進めていたようで、穴の奥は全く見えない。

「どうしたの!?ベイビーちゃん!!アイツに何かされたの!?」

・・・失礼な。

「ママ〜〜。お口の中が痛いのぉ〜〜。お口の袋が痛いのなのぉ〜〜。うえぇぇん」

・・・涙出てないし。嘘っぽいこと、この上ない。

「まあぁぁ、可哀想に。きっとアイツが何かしたのね」

・・・だから失礼だっちゅーの。

「ママ〜〜、お口の袋みて〜〜。痛いの取って〜〜。エンエン」

モグがツバメの雛のように、口をパッカリ開けておねだりしている。うまいもんだ。

「可哀想なベイビーちゃん。すぐにみてあげるからね」

モグママの口が開いていく。

よし!

一枚目、二枚目、金属板のような幾重にもなる口が開く。たぶんすぐ開いているんだろうけど、長い長い時間に感じる。

開け、いや開くな、開け、いや開くな。

親父の作戦だと、開いたら行かなくちゃいけない。

でも俺の作戦だと・・・


モグママの口が全て開いて、イソメが出てきた。

なんてこった!!想像以上にデカいイソメの親玉だ!!!

「オェェ」

マズい!えずいちゃった!

咄嗟に口を押さえて、モグママの方をこそっと見た。

当然ながら物音より痛がる子どもが気になるようで、幸いにも気づかれなかった。

ほっ

とりあえず安心したけど、これからイソメは見ないようにしなければ。

モグが片手を挙げた。

モグママのイソメは無事に?モグの口に入った合図だ。

「AJ!いまだ!」

ナノが小声で言った。

「ナノ!大変だ姿が見えてる!!」

俺が叫ぶと、

「え!?ウソ!?」

と言ってナノは姿を現した。

よし!

俺は右手をニョロンとナノに巻き付けると、

「ナノ!モグママの口ん中で電撃ショックだ!!」

そう叫んで思いっきり腕を振りかぶった。

「え??」「アタル!?」

「ナノ!頼んだぞ!行ってこーーーーーい」

「ええぇぇぇぇ〜〜〜?」

ナノは意味がわからないようだった。

そりゃそうだ。

俺が伸ばした腕を、モグママのイソメに巻き付けるのが親父の作戦だった。そうして動きを封じて(封じられっこねぇじゃん!!)、モグと俺で、俺が敵じゃないことを伝える(あんなデカいのが大人しく話しを聞いてくれっこねぇじゃん!!)、聞いてくれなかったら(だから聞かないに決まってんじゃん!!)、親父が痺れ玉を口の中に突っ込むって寸法だ。

痺れ玉は最弱のもの(最弱なんて効きっこねぇじゃん!!)だけど、親父としてはできれば使いたくないそうだ。モグには「ママが話しを聞いてくれるようになる、ちょっとだけチリチリする玉」だと説明してある。

「ごめんな、ナノ!何かあったら親父を恨め!!」

そう言って、左手で敬礼した。

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