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地龍(16)

「イソメ?」「なにそれ?」

「イソメだよ、イソメ!モグママのイソメだったら相当デカいんだろうし、確かに子どもも抱えられるかもな」

親父とナノの頭上に大きな「?マーク」があることにも気づかずに、腕組みしながら、ウンウンと頷いた。

「身体の一部なんだろうけど、それ自体が意思を持ってるみたいに自由自在だもんな。そうか、あれで面倒みてたのかぁ」

「・・・お前、何言ってんだ?」

「そうだよAJ。イソメとは・・・」

ナノは、小さくブウンという音を出すと無表情になって

「チキュウ ノ ウミ 二 スム イソメモク ノ イキモノ デ オモニ ツリノエサ 二 ツカワレル」

と無機質に喋り出した。ふむ。辞書機能だな。

「え?イソメだよ?イソメ!ほら、昔みんなで海の家に行った時、釣りで使った餌だよ!覚えてないの?親父がカワハギ釣ったじゃん!母さんが捌けなくて・・」

「いや、イソメはわかるよ」

親父は右手のひらを俺の方に向けて、言葉を制した。

「だけど、なんでここでイソメが出てくるんだ?そんなことより、今はどうやったら・・」 

「だ〜か〜ら〜、イソメなんだってば!!母親が子どもを育てる器官は。イ・ソ・メ!!」

今度は俺が、言葉で親父を遮った。

親父とナノが変な顔をしている。無理もない。俺だって初めて見た時は驚いて悲鳴・・ゴホン、声をあげてしまったくらいだ。誰が口の中に手の代わりがあると想像できる?しかも玉状になったイソメ。オェェ。

「めっちゃくちゃ長い舌の先っちょに、ウネウネ動くイソメみたいなのが、玉になってくっついてんだよ。んで、そのイソメが、すんげぇ伸びるんだ。一つ一つのイソメが、伸びたり別の動きしたりできんだよ。モグによると、それを使えば何でも持てるし、飯も食えるんだってさ。俺がぶん投げたダイヤモンドも、それでちゃんと掴んでたよ」

親父もナノも目をパッカリ開けて、信じられないといった顔をしている。

なんだろう、この「俺だけが知ってるんだぞ」という優越感。気持ちいい〜

「まぁ、こうなったら狙いはイソメ玉ってことか。なぁ親父」

腰に手をあてて偉そうに言ってみたけど、返事がない。

「親父?」

ん?ああ、とだけ言って親父は考え込んでいる。

「イソメ玉のことはわかった。問題は、口の中だってことだな。ナノが取ってきてくれたデータによると、口は金属部分が何重にもなっている。イソメ玉を何とかするためには、母親の口を開けさせなくちゃいけない。それも、何重にもなっている金属部分も含めて全て、だ」

ふうん、そんなもんか。まあいいや。

「でも、これで何とかなるかもじゃん!口を開けた瞬間に眠り玉を突っ込むとかさ。あ〜、なんかホッとした。じゃあ後は親父とナノに任せるから、よろしく」

「えっ?どういうこと?」

「任せるってなんだ?」

親父もナノもキョトンとしてる。全然わかってねぇんだな。しょうがない、説明するか。

「だって、モグが泣いたから富士山が噴火した、なんてなったら、俺のせいみたいじゃん。だけど、突破口を見つけたにも関わらず噴火しちゃったら、それは俺のせいじゃないだろ?俺、変なこと言ってないよな」

「はい?何だその理屈。意味わかんないぞ?」

「だから、さっきから何回も、何っ回も言ってるよね?俺には武器も防具もないの!訓練だってしてないし、下手すりゃ死ぬわけよ?親父は防具ばっちりだし、修羅場みたいなのもくぐってきてるのかもしんないけど、俺は、普通の、ごくごく普通の高校生、わかる?高校生なの!逆に、囲いでも作って「ここで待ってろ」って言ってもらえるくらいの立場なんだよ。だろ?」

「そんなことより、この口をどうやって開かせるかなんだが、ナノは何か思いつくことはあるか?」

「そうだね。過去に何か記録がないか、検索してみようか?」

こっちを無視して親父とナノで話を進めている。

「おい!!お前らなに聞こえないフリしてんだよ!!」

声を荒げると、親父はため息をつきながら、こっちに向き直った。

「父さんだって、何度も理由を言ってるだろう?お前しか地龍の言葉がわからないんだよ。確かに、訓練も受けてないお前にこんな事をさせて、申し訳ないと思ってるよ。だから、100%とは言い切れないけど、万一のことがないように全力で守ってるんだ。お前は気づいてないだろうけど、さっきだってずっと、お前に危険が及ばないように援護してたんだぞ」

「そうだよ!Aが飛んでくる石を撃ち流したり、爪を弾いたりしてたんだからね!」

親父が守ってくれてたって事には驚いた。てっきり自分の運動神経が開花したんだと思ってたのに。ますます腹が立ってきた。

「そんなん知らんがな!恩着せがましいこと言いやがって。親父が助けてくれてたなんて、そんなん見えてないんだからわかんねぇよ!だいたい、向こうはこっちの言葉がわかんだから、親父かナノが伝えればいいだろ!俺がいなくても問題ねえじゃん!」

反論した俺に向かって、今度は「はぁ〜〜〜」と長〜いため息をついた後、親父が話し出した。

「例えば、犬がいたとしよう。コイツは人間の言葉がわかるらしいが、話すことはできない。その犬がお前を敵と見做していて、お前と友達を襲ってきたから、お前らは柵の中に逃げ込んだ。でだ、お前はこの犬に「俺は敵じゃない」と言いさえすれば、安全に柵の外に出られるのか?」

「犬が言葉がわかるんだったら、安全になるんじゃ・・ねぇ・・・・、」

何だか自信がなくなってきた。犬が理解してくれたのか、反論してまだ襲う気なのか、判断できないから、そんな事態になったら、俺も友達も怖くて柵から出ない。絶対に。

黙りこくった俺に、親父は「やっとわかったか」とだけ言った。

さっ!早く考えよう。と親父が手を叩いた時、俺の足下が突然せり上がった。

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