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地龍(15)

鏡をみたら、きっと俺も瞳孔が開いてるに違いない。驚きというよりも・・・恐怖で。

「ふ、ふふふ、富士山が、ば、爆発しちゃうの・・?」

「爆発するかはわからない。だけど、少なくとも大きな崩落はあるだろう。それに刺激されて、噴火することはありえるな」

どうしよう。想像以上にヤバい事態だ。

富士山が噴火したら、大変な事になることぐらい、俺にだってわかる。歴史の授業で、宝なんとか噴火が起きて100年近く農作物が収穫できなかったって教わったっけ。そん時は「へぇ〜」くらいだったけど、いまここでは、それが現実味を帯びている。こりゃ逃げるどころじゃない。親父の様子に合点がいった。

当事者になっているという実感が、ジワリと自分の奥底まで染み込んでくる。

「お、お、俺たちだけで何とかなんて、で、で、できっこないじゃん」

「落ち着け。今の状況では、対策がない。仲間に応援を頼むだけの時間があるかどうかもわからないし、例え呼んだとしても、地龍に逢ったことがあるヤツは俺しかいないんだよ」

「え!?親父だけ?」

瞳孔再び開く。今度は驚きで、だ。

ナノも言ってたけど、もしや親父って結構すごいのかもしれない。

「ああ。俺が若い頃、藍善さん・・お前の曾祖父さんの兄さんだ、その藍善さんが雄の地龍と仲良くてね。で、一度だけ逢ったことがある。」

「ちりゅうと仲良し!?」

素っ頓狂な声が出た。これぞ瞳孔三度どうこうみたび

思わずモグママの方をガシガシと指さして

「ちりゅうって、あれと同じ地龍ってこと!?」

食い気味に訊くと

「他にどんな地龍がいるんだ」

と呆れられた。

「あの時のオスは20mくらいあったんじゃないかなぁ。藍善さんは、大切な友達だ、って言って紹介してくれたんだ」

「に、にに、ににに、にじゅめーとる!?」

ダメだ、舌が回らない。瞳孔全開放だ。

「母親だって、いまは上半身しか見えてないけど、全身だと10・・いや、へたしたら12mくらいあるぞ」

そうか。

見えているのはモグママの上半身タケノコ部分だけで、全体が出てるわけじゃないけど、あの下に足?脚?尾っぽ?何かわかんないけどあるんだもんな。で、雄はもっと・・

「プールとさほど変わんない大きさってことじゃん!」

「そうだな。マッコウクジラサイズだ」

「うえぇ」

親父は軽く言ってるけど、尋常じゃないサイズだ。

落ち着け俺。まあシロナガスクジラって言われないだけましだと思おう。うん、そうだ。落ち着け、落ち着け。

とにかく、そんなヤツがここで暴れたら、そりゃ崩落するわな。

「ハァ・・もう無理なんじゃない?」

諦めが早い俺としては、この場の全てを放棄したい。

俺の人生は、安心・安全・安定のはずだったのに、これじゃあ不安・危険・不安定じゃないか。なんでこうなっちゃったんだ。

ヘナヘナとしゃがみ込んだ俺に、親父はしっかりしろ!と喝を入れてきた。

「何かしらの突破口はあるはずだ。要は、母親が父親に救援シグナルを出さないようにすればいいんだ」

「まさか・・殺っちゃうなんてこと・・」

「バカ野郎!!そんなことを軽々しく口にするんじゃない!そもそも、俺たちがここに来なければ、アイツらは穏やかに暮らしていたんだ。とにかく母親の誤解を解いて、父親を呼ばなせなけりゃいいだけだ。いっとき声を出せなくするとか、気絶させるとか、色々あるだろう」

「・・・話し合う選択肢は無いんだ」

「だったら、お前しかいないだろう」

やべぇ。墓穴掘った。

「ナ、ナノにスキャンさせたら、何とかなるのかよ」

「わからん。ただ、相手のことが何もわからないんじゃ、対策の立てようがない。地龍は全身が金属に覆われてるから、武器のようなものは効かない。爆発系は、ここじゃ論外だ。催涙ガスや睡眠ガスなら使えるかもしれないが、こいつらを使うには母親の大きさや重さの情報が必要だし、子どもを何らかの方法でガスから保護する必要がある。でも俺が一番見つけたいと思ってるのは、唯一俺たちが触れることのできる、体表面にあるはずの、金属以外の部分なんだよ」

「金属以外?」

親父は大きく頷くと続けた。

「子どもの世話が必要である以上、母親のどこかしらに、子どもを傷つけずに育てるために使う器官があるはずだ。現に、あの爪で子どもを運んだりあやす事はできない。だから、手の代わりになる機能を持つ器官が、絶対にあるはずなんだ。そして、そこが唯一、俺たちが抑えられる場所だろうから、まずそこを見つけるのが肝要だ」

そう言うと、親父は「急げ」「早くしてくれ」「頼む」と繰り返し独りごちている。

ふむ。子どもを運ぶ器官か。

確かに、どうやってモグの面倒を見てたんだろう?

今はそこそこ大きくなってるけど、産まれてすぐなんかはもっと小さかったわけで・・・

ん?

何だかまたしても心の琴線に引っ掛かったものがある。

チラン キラン キラキラキラキラキラ〜

俺の琴線が、激しくキラキラ音を鳴らしている。

何だろう?はて?さて?

首を捻っていると、

「よし!戻ってきた!!」

親父の視線の先を見ると、ナノが猛スピードで戻ってくるところだった。

「おぅ、お疲れ!」

という俺の言葉に被せるように、親父は「どこまでスキャンできた!?何か見つけたか!?穴の状況はどうだった!?」と畳みかけてきた。

「やったよ!頑張って地面の中までスキャンしてきた!あのね・・」

「よくやった、よくやった!早く映してくれ!」

親父ひでぇ〜。ナノがシュンとしちゃったじゃん。

「ナノ、ありがとな。ホントに助かったよ」

そう言って優しくポンポンすると、エヘヘと言って目からビームを出した。

「ぎぇ!?」

目の前の空間に文字が映し出されていく。

ああ、こういう仕組みなのね。ナノ自身がプロジェクターの役目をするってことか。

俺には理解できないけど、親父は顎に手をあてて頷いている。親父なんだかできる男みたいじゃん。それにしても、金星文字ってアルファベットに似てるんだなぁ。

「なんて書いてあるんだ?」

「英語だよ。読めないか?この方程式も、学校で習ってると思うぞ?」

やべぇ。アルファベットまんまじゃん。

親父がこっちをジト〜ッと見ている。

いかん、何とか話を逸らさないと。

「え〜っと、あ〜っと、器官!そう、手の代わりになるような器官は見つかったか?」

「そうだ!ナノ、どうだった!?」

良かった〜、親父の気がそっちに向いた。

「う〜ん、全身くまなく見たけど、卵みたいだったんだよ」

「卵?」「卵?」

思わず親父と声が合った。

「あ、卵っていうのは例えなんだけど、柔らかい部分は全部殻の中、つまり硬い金属の中にあるんだ。

「うー・・ん、絶対にあるはずなんだがな・・やっぱり無理なのか・・。じゃあ、ガスを使うしかないか・・。催涙ガスや麻痺ガスだと、怒りを増幅させる危険があるし、失敗した時のリスクが高すぎる。となると睡眠ガスか・・」

うん?

卵は殻の中で栄養が循環してるから、ヒヨコになるまで、外から栄養を摂る必要がないんだよな。地龍も同じなのか?

あれ?でもモグはご飯食べるって言ってたし、実際に魚ソー食ってたしなぁ?

「なぁなぁ、口ってどうなってんの?」

「口?」

「そう、口。地龍だって、なんか食ってんだろ?」

「口は金属部分が何重にもなってたよ。たぶん、餌を一層目に入れて閉じて、二層目に入れてからまた閉じて、って感じで、何層か通過させてから口まで運ぶんだと思う。一応、口の奥もスキャンできてるんだけど、舌じゃなくて、ごちゃごちゃしたものが詰まってた。身体とは組成がちょっと違ってたんだけど、あれは餌なのかなぁ?でも、身体と一体化してる感じもあったんだよね」

・・・・・

「あー!!イソメだ!!!」

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