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地龍(13)

へ?

「ほら、あの岩から顔を出してるヤツですよ」

そう言ってこっちを向くと顔面全体でニヤリとした。


ヒュンッ


またしても親父は消えた。

え?え?え?親父はいま、モグママに何を言った?


・・お宅のお子さん、アイツに泣かされたんですよ

・・オコサン アイツニ ナカサレタ


・・ほら、あの岩から顔を出してるヤツですよ

・・アノ イワカラ カオヲ ダシテル ヤツ


あれ?

ビューッ ドカッ バラバラバラ

意味が飲み込めなくて混乱している俺の横を、大きな石が猛烈な勢いで通り過ぎると、岩に当たって砕け散った。

ビキビキッ ビキッ ビキッ

いま隠れている岩に、見る間にヒビが広がっていく。

え?攻撃受けてる?

ビューッ ドカンッ グワッ ガラガラガラ

またしても石が飛んできて、ヒビ割れていた岩が崩れ落ちた。その刹那、全てがクリアになった。

クソ親父は、モグママに俺のことをチクったんだ。

卑怯だとか、やり方が汚いとか言ってたけど、まさか息子である俺を襲わせるようなことをするとは、思ってもみなかった。

「はあぁぁぁぁーーー!?あんっのクソジジイ!何言ってくれてんだよ!!」

周りを見回しても親父はいない。目の前にいたらぶん殴ってやるのに!  

「チクショー!何だってんだよ!あのクソ親父!」

怒髪天を衝く思いだったけど、石が絶えず飛んでくる今は、それどころじゃない。身体を屈めて、少しでも大きい岩陰を探す。親父を見つけるより先に、とにかく今は逃げるしかない。

逃げ込んだ岩が次々と破壊されていく中で、ただひたすらに、飛んでくる石を避けて避けて避けまくった。

ヒュンヒュンッ 

「ぬおっ!」

ヒュン 

「うげっ!」

ヒュンヒュンヒュンッ

「むひょっ!」

何度も当たりそうになったけど、上手く避けることができた。これも金星人の反射神経なんだろうか?

子どもの頃から今まで、どちらかというと運動は得意分野じゃなかったんだけど。覚醒したのかもしれないな。

そんなことを考えていた次の瞬間、眩しさに目が眩んだ。

「うわっ!眩しっ!!」

思わず目を覆った。

ヤバい、どうしよう。こんなに眩しかったら、石を避けることもできないじゃん!

片方だけ薄目を開けると、ギラギラした丸っこい板のようなものが何枚も重なっているのが見えた。角度によって僅かな光でも効率的に反射しているみたいだ。

閉じていたもう片方も薄目を開けながら、両眼を徐々に慣らしていった。

何コレ?鉱山?

自分の置かれた状況をすっかり忘れて

「何だコレ?売ったらすごい金額になったりして。やっぱ安定した人生を送るには、金が必要だよな〜。ぐふふ」

そんなことを言いながら、触ってみた。物凄く厚くて重量感がある。

「うわー!宝の山じゃ・・ん?」

あれ?俺いま逃げてんだよな?

血の気が引いていくのがわかる。

そおっと上を見上げると


ドオォーーン


目の前にタケノコと化したモグママがいた。

うそーーん!!

モグママは、近すぎて俺に気づいてない。

そりゃそうだ。さっきまで逃げ回ってた相手が、自分の真下にいるとは夢にも思うまい。

ど、どうやって逃げよう

聞こえないように言葉は全て飲み込んでいる。この近さだと、気づかれたら一巻の終わりだ。


・・・ さない ・・・ 


!! なんか聞こえる。


・・・ さない ・・ イビー ・・ るさ ・・


表情はわからないけど、声に怒りが滲んでいる・・気がする。神経を集中させると、はっきり聞こえてきた。

「アイツどこ行った!?ちょこまかしやがって!ベイビーを襲うなんて、絶対に許さない!!」

やべぇ。俺のこと絶対許さないって言ってんじゃん。

まずいまずいまずいまずい。早く謝んなきゃ。

「可愛いベイビーをエサにしようなんて、いい度胸してるじゃない。二度と襲えないように、徹底的にぶちのめしてやる!!」

ん?

「えー!?俺がモグを食べると思ってんの!?誤解だってぇ!!」

ヤバい。驚きのあまり声に出してしまった。

「こんなところに隠れてたのね!卑怯者め!!」

シャッ シャシャッ

「ひぇっ」

何とかのけぞって鉤爪を避けた。

「あ、危なかった〜。うわ!?またきた!」

シャシャッ シャッ

「ひゃっ」

今度は茹でた海老みたいに、つの字で避けた。

「よっ」「ほっ」

コツを掴んだわけじゃないけど、何度も繰り出される鉤爪をイナバウアーや茹で海老で避けまくり、その度に鉤爪が虚しく空を切った。

「あの!あの!」

話しかけようとしても、まったく聞く耳を持ってくれない。それどころか、ますますヒートアップしてくる。

「コイツなんなの!?なんで当たんないのよ!!」

ダメだ。モグママは怒り狂っていて聞く耳を持たない。

「俺、息子さんを食べようなんて思ってませんよ!」

叫んでみたけど通じない。

そうだ!モグ!!

「モグー!いるかー?俺だー!!」

仲を取り持ってもらおうと、必死にモグの名を呼んだ。その間も、上に下に右へ左へとモグママの鉤爪攻撃は続く。

「・・・AJ?」

離れたところから、小さな声がした。モグだ!!

「モグ!モグ!お前のママが・・うおっ・・俺がお前を食べると・・しゃっ・・思ってて・・危ね!・・誤解だって言ってくれよ!・・ぬんっ!」

避けながら叫んだから、途切れ途切れになってしまった。モグにちゃんと伝わっただろうか。

「ママにねー、危ないからあっちにいなさいって言われてるのー」

「モグ!ママを止めて・・フンッ・・くれぇー!!」

「むりー」

「はっ!?」

「ママすっごく怒ってるのー」

突然、モグママの攻撃が止んだ。

と思うと、ぐるりと向こうを向いて、猛烈な勢いで壁を掘り出した。

すごいスピードで穴が広がっていく。

「あ、あれ?」

何だ何だ?攻撃やめて穴掘ってるぞ?逃げるのか??

「なあ、ママはなんで穴掘ってんの?お前たち、どっか行くの?」

「ううん。さっき、パパ呼ぶって言ってたー」

「はいー?」

「パパ大っきいから、ボクが危なくないように穴掘ってるのー」

!!!?

パパ?パパってことはモグのパパってことだよな?

モグはモグラにしか見えないけど、地龍で、ママはあの巨大な金属タケノコで、地龍で、パパってことは地龍のオスで、世の中にはチョウチンアンコウみたいにオスがミニミニなヤツもいるけど、モグは大っきいって言ってたし・・・

「お、親父ーーー!!!パ、パパ、パパが来るって言ってるー!!!親父ぃぃーーー!!!」

まずいまずいまずい。絶対まずいに違いない。

俺は咄嗟に親父に向かって叫んでいた。

人はこれを「自衛本能」という。(ホントか?)

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