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地龍(10)

ドゴォォォォォンッ

「うわぁ!?」

何かが爆発した音がして、バラバラと石が降ってきた。

デジャブ?

ほんの数時間前に同じような事ありましたけど。

いや、前回とは違ってゴツイ岩が転がってくる。

「イテッ!イテテッ!」

兎にも角にも、転がってくる岩を必死に避けまくった。

こんなもんにぶつかったら、ケガじゃすまねぇよ。

足がまだ吸盤のままなのが幸いしてか、石がゴロゴロしていても、転ぶことなく動き回れる。

「アタル!父さんのライトサークレアに入れ!」

見ると、親父の周りが円を描くように発光している。

「何その・・イテッ・・ライトなんとかってイテテ!」

「父さんの周りの光のことだ!お前なら入れる!早く!!」

大小様々な石が体に当たる。岩を避けつつ、飛んでくる石つぶてから頭を守りながら、親父をぐるりと取り囲んでいる光の輪の中に飛び込んだ。中に入った途端、あれほど降りかかっていた石に当たらなくなったのが不思議だ。

「悪りぃ親父!助かった」

親父がこんなこともできるなんて、びっくりだ。

「何これ、バリア?」

「みたいなもんだ。自分を中心に半径2メートルの範囲だけだけどな。光で外界と遮断してるから、張ってしまえば砂粒だって通さない。お前の遺伝子の半分は父さんと同じだから、弾かれずに通過できたんだ」

「へぇ〜。今回は、血が繋がってて良かったってことだな」

親父は、何だそれと言って笑った。

ナノはというと、可哀想に親父の足元でぷるぷると震えている。バリアを張るときに一緒にいたんだろう。とりあえず無事で安心した。

「あ!親父ってば、自分だけちゃっかりゴツい靴履いていやがる。俺なんか吸盤なのに!おまけに帽子まで被りやがって!」

親父はがっしりしたブーツタイプの編み上げ靴を履いて、カウボーイみたいな帽子を被っている。

「ああ、これか。必要に応じて防具が装着されるようになってるんだよ。父さんは見た目をウエスタン風にしてあるんだ。カッコいいだろ」

「きったねー!なんだよ、自分だけ安全なんじゃん!」

「アタルのも用意するために、ここに測定しにきたんじゃないか。でもお前だってその・・プッ・・き、吸盤・・ププッ・・吸盤・・便利そうだな」

失礼にも、そう言って親父は大笑いしている。

「くそっ!!」

悔しいかな、地面を蹴飛ばそうにも吸盤じゃ無理だ。

でも吸盤のお陰で転ばなかったし、そもそもケガもしていない。そう考えるとすげぇな、吸盤のポテンシャル。

ヒュッ ボコッ

「イテッ!」

頭に石が当たった。

はて?周りを確認したけど、ちゃんと周囲は光で覆われていて、石を跳ね返している様子がはっきり見える。

おっかしいな〜。何で当たったんだ?

ゴンッ

「テッ!・・痛ってぇ〜」

さっきより大きい石が当たって、痛さのあまりしゃがみ込んだ。

俺ってば、よくこれでケガしないよな。でも何で?

思う間も無く、バラバラと石が降ってきた。

「イテイテッ!親父!石が!イテテテッ!」

「すまん!お前も入れるようにサークレアの範囲を広くしてたら、屋根まで間に合わなかった」

「え!?じゃあ上からの攻撃は、全然防げないってことかよ」

「そうなるな。それでも一応高さはあるから、ほとんどの石が防げるはずだ」

「何だよそれ!」

つまり、このバリアは筒状に張られているってコトだ。

「こんなん本当のバリアじゃねぇじゃん!」

石が落ちてこなくなると、次は砂が巻き上がっている。外はさながら砂嵐だ。バリアの中にも砂塵が入ってきて咳き込んだ。目にも砂が入ってヤバい。腕で目を、シャツで鼻と口を覆った。

「ゲホッ・・ウェホッ・・親父・・ゲホッ・・大丈夫か?・・ゴホゴホッ」

「あん?」

「ブフォッ!・・ゲヘゲヘッゴホゴホッ」

砂が舞ってるのも忘れて、吹き出してしまった。

振り返った親父の顔には、なにやら面妖なお面が付いている。親父が平然としてるのも、帽子や靴と同じように、勝手にお面が装着されるからなんだろう。

ダメだ、これ以上あのお面を見たらダメだ。

グフグフと笑いながら、シャツで顔全体を覆うようにしたうえで下を向いて、なんとかお面と上から落ちてくる砂を避けた。

「そ、それより、この爆発の原因は何なんだよ?」

笑いを堪えて親父に訊いた。さっきモグが暴れた時とは、比較にならない破壊力だってことは間違いない。ということは、原因はモグじゃないはずだ。

親父は一言「今にわかる」とだけ言った。なんだ、親父は知ってんのか。突っ込んで聞きたかったけど、お面を思い出すと笑いがこみあげてくる。

しっかし、あんなお面付けるのはゴメンだな。真面目なこと言ってても台無しだ。ブフッ。

だんだん砂煙が収まって視界がはっきりしてくると、何やら眩しいものが見えてきた。

・・・あれ・・は?

小さく光る黒い目をした、メタリックに輝く巨大なモノが、ニョッキリと地面から生えている。ギンギラギンのタケノコ?金属の山?のようだ。

ん?あれは・・・手?・・手がある!?

黒い大きな鉤爪がついた手を動かすたびに、こっちに向かって石が飛んでくる。

「え?え?何あれ?ギラギラしてるけど?え?手があるけど?え?生き物?え?ロボット?え?何あれ?」

動揺のあまり、矢継ぎ早に言葉が飛び出てきた。あまりにも現実離れした目の前の事実を受け入れられない。そりゃそうだ。あんな生き物が実在するなんて思いたくもない。生き物じゃないとしたらロボットなんだろうか。もしアレが誰かに作られたロボットなんだとしたら、地球がそいつに征服されるのも時間の問題だ。

・・・モグ!!

唐突にモグのことを思い出した。あんなモノに攻撃されたら、間違いなく死んでしまう。

「親父!モグが危ない!助けなきゃ!!」

「大丈夫だ。アイツは心配ない」

親父は、キラめくというよりギラギラとギラめく生き物様のモノを凝視している。

「でも!あんなのに殴られでもしたら絶対死ぬって!早く助けに行ってよ!!」

「え?」「え?」

親父とナノが同時に俺の方を見た。

「いやそこはさ〜、助けに行く!ってアタルが言い出すところだろ〜?それで、父さんがそれを止めるんじゃないか〜」

「はあぁ!?何で俺が助けに行くんだよ。俺なんて武器も何にも持ってないんだぜ?親父が責任感を燃やして助けに行くべきじゃん。そもそも俺のモットーは・・」

「安心・安全第一で、安定した人生を送る、だろ」

親父はニヤリとした。

「わかってんなら、早く助けに行けよ!」

ゴギャッ ドゥーーン!!

「ヤバっ!また暴れ出した」

親父が張っている光の壁で大抵の石は弾かれているものの、今度も上から石が降ってくる。

ゴンッ

「イテッ!」

石が当たった頭を撫ぜながら、化け物を睨みつけた。

「くっそー!!痛えじゃねえか!こちとら完璧なバリアじゃねぇんだぞ!!」

と言うと親父が「悪かったな!」と言い返してきた。

うん?よく見ると何かに似てるような・・

うーん?アルマジロ・・違う。

センザンコウ?

でも、センザンコウよりもっと丸っこい感じがする・・

あ!モグラだ!

でもな〜モグラにあんな鱗は無いしな〜。

うむむむむ、モグラとセンザンコウを合体させると、あんな感じになるかもしれないけどな〜。

ガンッ

「イテッ!も〜なんだよ」

のんびり考えてる場合じゃない。もう石に当たるのはこりごりだ。どうすれば大人しくなるだろう。

いやいやいやいや、そんなことは、どうでもいい。

モグは石の嵐の真っ只中にいるんだから、何はさておき救うことが先決だ。早く親父を助けに行かせなければ!ついでにアイツが暴れないようにしてもらおう。

「とにかく、モグを助けに行けよ。あとアイツをなんとかして」

「まったく、お父様に何という口の利き方だ。それに、モグは心配ないって言っただろう。あれは地龍だ」

「そりゃあ地龍かもしれないけど、まだ子どもだよ?」

「いやモグのことじゃないよ」

「え?」

「アイツだよ」

親父は化け物を指差した。

「あれが地龍だ。モグの母親だろうな」

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