地龍(6)
そうだ!俺にはこれがあったんだ!
ジャジャーン! ザ・魚ソー!!
そうだよ。俺の秘密兵器。腹が減ってたから、我慢できなくて持ってきたんだった。
石と比べると細長いけど、ある程度の重さもある。これならモグラに当たってもたいして痛くないだろうし、よしんば口に入ったとしても、旨いだけだ。モグラが何食ってるのか知んないけど、魚肉ソーセージの旨さには敵うまい。
フン、フン、フ〜ン、フフ〜ン
いそいそとポケットから出した魚ソーを握りしめる。仕掛けの必要もなく、手に直接握るだけだから簡単だ。
さっきと同じように、オーバースローで投げる。
シュルン シュルン シュルルルル ルルルルル・・
「よし!いいぞ!」
・・・ポスンッ
さっきより遠くまで飛んだものの、あと一歩というところで落ちてしまった。
「ああ!クソ!もうちょっとだったのに」
全自動巻上げ機能付の腕は、魚ソーを握ったままシュルルルと戻ってきた。
「あーあ。袋が破けちった」
落ちた弾みで外袋は大きく破けている。邪魔だから外すことにしよう。中身を覆っているフィルムは大丈夫そうだ。
・・・ゴクリ
顕になった魚ソーのシルエットに、胃袋が刺激される。
・・・ちょっとだけ。匂いを嗅ぐだけならいいよな。
フィルムを剥がそうとしたけど、繋ぎ目が上手く開かない。
匂いを嗅ぎたいだけなのに、なんで剥けないんだよ!こっちは腹減ってんのに!
イライラして、思わずフィルムを歯で噛みちぎった。
その瞬間、鼻の奥の奥までが、何ともいえない魚ソーの匂いで満たされる。
「ふわわわわ〜 ええ匂いやぁ〜」
ジュルルルル
いけね!ヨダレ出ちった。
「あ〜・・食いたい!ガブっと!」
無心になってフィルムを全部剥がすと、肌色がかったベビーピンクの魚ソーがブリンッと現れた。
ひと口、ひと口だけいいよね。やっぱりダメかな。
いやいや、何に遠慮してるんだ俺。俺の魚ソーなんだから、食べたっていいんだよな。
だけど・・・
頭をブンブン振って、その考えを振り払った。
やっぱ食べちゃダメだ。軽くなって届かなくなったら困る。石も使えないいま、そうなったら代替品がない。
はあぁ〜〜〜〜〜
長い長〜〜い溜息を一つついて、何とか魚ソーを諦めた。この状況、腹ペコにはキツいぜ。だけど、全てが終われば、大手を振って食べられるんだ。早く勝負をつけよう。そうだ。そもそも、天津飯が待ってるしな!
右肩をぐるぐる回してから、リトライしようとした時、
「もっと遠くに飛ばしたいんだったら、スリークウォーターがいいぞ」
と親父が声をかけてきた。
「何それ?その方が遠くまで飛ばせんの?」
「まあそうだ。腕を振りかぶって背中に持っていく時に、上半身を捻じるんだ。そうそう。そうして、それを戻しながら、腕を突き出すんだよ。袈裟斬りするみたいにやってみろ」
「ふうん。袈裟斬りってことは、斜めにってことだな」
こうか?こうか?と親父に見てもらいながら何度か動きを練習したところで、
いざ!実践!
息を整えて、魚ソーを握った右腕を振りかぶると
「でやぁぁぁぁぁぁーー!!」
とモグラに向かって飛ばした。
シュルン シュルルルルルルル
魚ソーを握った腕が、細く長く伸びていく。
ルルルルルルルルル
「うおぉぉ!!いっけぇぇー!!」
「あ!なんか初めての匂いー!なになのー?」
おっ!声が聞こえた、と思ったら、モグラがこっちを向いてあんぐりと口を開けた。
「よし!そのまましっかりと飲み込ませたら、タイミングを合わせて引くんだ!大物は合わせが肝心だからな!それから、ここはキャッチ&リリースだぞ!」
「わかった!キャッチ&リリー・・・」
はっ!?
俺ったら何してんの!?
なんか釣りみたいじゃん!こんなん違ーう!!
「ちゃうちゃうちゃうちゃう!釣りがしたいわけじゃないんだよ!気づいて欲しいだけなんだ!く、食うなバカ!食うなー!!」
どうする?どうする?このままだと、魚ソーを食われて終わり。振り出しに戻っちまう!失敗して食われたんだったら「しゃーないな」って諦めもつくけど、これじゃあ、ただエサをあげただけじゃん。
「よし!アタル!飲み込ませたら引けー!」
「違う!親父!違ーう!!」
ダイヤモンドの時の経験で、食われる心配がない(多分だけど)のはわかってるけど、
「わかってるけどぉぉぉー!」
・・・もうこうなったら!!!!!
「食え!食え!食えーーーーー!」
俺はモグラに向かって精一杯の声で叫んだ。
魚ソーを握ったまま、俺の手は大きく開いたモグラの口に吸い込まれていく。
パックリ
まんまと魚ソーごと飲み込まれた。というか、無事?口の中に入った。
「よーし!その調子だ!しっかり飲み込めよ!!」
チョロロロロロン
ん?
チョロロン チョロロロロロン
ヤバいっ またコレが始まった!
チョロ チョロン
「くっ ぎゅふっ ぎゅふふふ ぎゃははは。や、やめろ!くすぐったい」
ヤバい!このままじゃ、元の木阿弥だ!
またしても、手をモグラに食われたまま身悶えした。
「どうした?リリースするか?」
だから釣りじゃねぇって!
親父がまた変な事言ってるのに、くすぐったくて言い返せない。
「ひーっ、ひゃははは」
もうダメだ。手を吐き出される前に、一か八かやるしかない!
魚ソーを握ったまま、チョロチョロと俺の手をくすぐっている「モノ」に、ニョロンと腕を巻きつけた。
「う、動け!全自動巻上げ機!!」
そう叫んだ瞬間、腕が猛烈な勢いで縮み始める。
ピューーーーーーーーーーーー・・・
グンッという、タコだけに凧が強風に煽られた時のような強い力を感じた後、目標物に向け、俺はさながらロケット花火のように飛んでいった。
「うぉわあぁぁぁぁーーーー!」




