地龍(5)
「あ!ボクのビカビカー!」
大人しくしていたモグラが、突然こっちを向いたかと思うと、あんぐりと口を開けた。
「ぬ!?」
「アタル!避けろ!」
狙ったわけじゃないのに、手がモグラの口に吸い込まれていく。
やばいやばいやばい!手が食われる!!
「うわあぁぁぁぁ!!」
パックン
ああぁ・・食われてしまった・・
「親父・・もうダメだ・・手がやられた」
「しっかり!アタル、しっかりしろ!」
倒れそうになった俺を後ろから親父が支えてくれた。
もうダメだ・・・
ピローンと伸びた俺の腕は、モグラの口の中にに入り込んだまま、うにょんうにょんしている。
気持ち悪い動きをしているコレは、果たして本当に俺の腕なのか?
残念ながら、紛れもなく自分の腕だ。だって、肩からずっと繋がってるもん。
あぁ、意識が・・・
「大丈夫だ!自分で食いちぎってないから再生する!!」
あぁ、さようなら俺の右手。さようなら〜
・・・ん?
「お、親父、自分で食いちぎってないから再生する、って何だよ」
「タコの足は再生するんだよ。ただし、自分で食いちぎった場合は再生しない。自分の足を食いちぎるほどストレスを感じてるから生えないんだ、っていう説もある。後者だとしたら、それだけ知能が高いからなんだろう」
タコの足って再生するのか。なら食われてもいっか。
もしかしたら、タコの足がなくなって、前みたいな吸盤のない人の手が生えてくるかもしれない。
「ちなみに、これは地球のタコの場合だけどな」
・・・ん?
「お、親父、地球のタコの場合だけどって何だよ」
「金星人はわからん」
「はぁ!?」
「でも大丈夫だ。生えなくたって、10本が9本になるだけだ」
「はあぁ!?再生するかわかんないってことじゃん!」
「まあそうだ。でも痛そうじゃないから、大丈夫なんじゃないか?」
このポンコツ親父!何を根拠にいい加減なこと言いやがる。
「確かに今の俺の手は、タコの足だけど・・・」
チョロロロロロン
ん?
チョロロン チョロロロロロン
んん?
チョロ チョロン
「くっ、ぐふっ、ぎゅふふ」
なんだ?モグラに食われた腕を何かがくすぐっている。
「ぎゅふっ ぎゅふふふ ぎゃははは。や、やめろ!くすぐったい」
手をモグラに食われたまま身悶えした。
「お?どうしたアタル?」
「ダ、ダメだ。くすっ、くすぐった過ぎる!ぎゃはは!」
キュポン!
「ぬん!?」
吸盤からダイヤモンドが外れたのがわかった。
「やっとビカビカ見つけたー!!」
幻聴が聞こえたと思ったら、モグラの口がパカッと開くと同時に、伸びていた腕がシュルルルル・・と俺の意思に関係なく縮んで、吸盤がついただけの元の腕に戻った。まるで、メジャーがボタンひとつでケースに収まったみたいだ。
・・・何だこれ?
意味がわからなくて、自分の腕を見ながら呆然と立ち尽くしてしまった。
これは何の機能だろう。全自動巻上げ機でも付いてるんだろうか。俺、何になっちゃったの?
「やったなアタル!腕、戻ったじゃないか」
親父はお気楽なことをほざいている。
「いや、そこじゃねぇし」
イラッとして親父を睨んだ時、またさっきと同じ声がした。幻聴というには、いやにはっきり聞こえる。
「ビカビカどこに行ってたのー?探したんだよー」
あれ?ビカビカって、ダイヤモンドのことか?
これって、もしかしたらモグラの声なのかも。喋り口調も幼いし、そう考えると全部辻褄が合う。
「おい!」
モグラに向かって大声で叫んでみた。
モグラは反応しない。
「おい!おーい!」
何度も叫んでみた。
それでもモグラは反応しない。
変な節をつけた「ビカビカ〜ビッカビカ〜」という歌?みたいなものが聴こえてくるだけだ。
「AJ、どうしたのー?」
ナノが話しかけてきたけど、親父が
「シィー。モグラと友達になりたいみたいだぞ」
という頓珍漢なことを言っている。
俺はな、聞こえてくる声がモグラの声なのかが知りたいだけなんだよ。誰だって、気になるだろうが。
ポンコツ親父は放っとこう。
う〜ん、モグラの気を引くにはどうしたらいいんだ?
とりあえず、非常に、非っ常〜に不本意ではあるけど、ダイヤモンドを投げた時のように、もう一度腕を伸ばしてみることにした。
投げ釣りの要領でやればいいかな。使うのは、竿とテグスじゃなくて、俺の腕ってことだ。
海岸から、竿についたエサをできるだけ遠くに投げるのをイメージする。イメージは大事だ。イメージ、イメージ。
えーっと、まず腕を振りかぶって背中に持っていく。そして、体重移動しながらオーバースローで投げてみた。
シュルン シュルン シュルルルル ・・
「おっ!いけるか!」
・・・ポスンッ
「ああ〜、ダメだったか」
全自動巻上げ機能付だから、伸びていた腕はシュルルルルと戻ってきた。
「う〜ん、うまく飛ばないな。そうだ、錘があればいけるかも」
周りを見渡すと、良さそうな石がゴロゴロしている。
その中から、ダイヤモンドと同じくらいの大きさの物を選んで握った時、
「まさかそれをモグラに投げないよなぁ」
親父がジロリと凄んできた。ポンコツのくせに生意気だ。
だけど、完全体の金星人になるつもりかと脅されて、泣く泣く石を捨てることになった。
「じゃあどうすりゃいいんだよ」
石がダメなら、他に何がある?そもそも靴すら履いてない。まあ今は、カッポンになっちゃってるわけだけど。
・・・何もねぇじゃん。
不貞腐れていたら、ピン!と思いつくものがあった。
そうだ!これだ!!
俺ってアッタマいい〜〜




