プロローグ 〜金星フォーエバー(2)〜
地球に着いた金星人の第一陣は、海の上に宇宙船を着水させると、その船を拠点として、その場により大きな建造物である「アトラティア」を築いたんだ。
海の上を拠点としたのは、子どもと高齢者が外敵に襲われないようにするためだよ。その頃の地球は、まだ恐竜が出現し始めた頃だったから、恐れを知らない子ども達を危険から守る必要があったんだ。
アトラティアの整備が済む頃には、すでに大勢の金星人が移り住んでいたから、人口が過密にならないように、空中都市である「オリューリヤ」を築いた。オリューリヤをアンケルサ(磁力を使って宇宙船を固定しておくもののこと。船の錨みたいなものだよ)で固定しておくと、地上の一部に日が射さなくなっちゃうくらい大きかったんだよ。ゆっくりと大空を動くオリューリヤは、地上から見ると大きな雲のように見えただろうね。
さて!ここで問題。
金星人が、地球を新天地にしたのは、なぜでしょう。
金星と地球の環境が似てるからっていう理由だけじゃないよ。
ヒントは恐竜。
チッ・・チッ・・チッ・・ポーン!
それでは答え!
恐竜が、地球上ですっごく長く繁栄していたのは知ってるかな?
実は、金星人が恐竜を食糧にしてたからなんだ。
草食恐竜は柔らかくてあっさりした味だったから、子どもや高齢者が好んで食べていたし、肉食恐竜は肉質が筋肉質で硬いけど旨みがあるから、主に大人が食べていた。ボクは光合成してるから「食べる」ってことはよくわかんないけど、金星人にとって、地球は自然の牧場みたいなものだったのかもしれないね。
なんで金星人が「恐竜は食べられる」ってことがわかったかっていうと、もともと、地球には何人かの金星人が住んでいたからなんだ。
初めて地球に降り立った金星人は、所謂「冒険家」だった。少しの食べ物と帰るための燃料、物質を判定するメガネ「アニマンチアスコープ」だけを持って、1人乗りの単独船でやってきたんだ。
違う星にたった1人で乗り込むなんて、とてもじゃないけど、ボクには絶対無理無理!
この冒険家が、金星に戻ってから地球の様子を発表したっていう文献が残ってるんだよ。それによると、その頃の地球は古生代のカンブリア期で、大陸はバラバラで、大陸間には広い海があったんだって。
横に飛び出した目を持った、当時最強生物のアノマロカリスに追われて必死に逃げた事や、初めて食べたレドリキア(三葉虫)は予想外に美味しかった事、クルミロスポンジアは食べられたもんじゃないなんて言ってたみたいだよ。クルミロスポンジアはその名の通り海綿スポンジだから、いくら金星人でもそりゃあ美味しくないよね。
何回も来球(地球に来ること)していたこの冒険家は、時々長期滞在もしていたみたいなんだけど、何回目かの来球を最後に消息を絶ってしまって、残念ながら金星に戻ることはなかったんだ。だけど、この冒険家のおかげで、地球には食べる事ができる生物がいるってことを金星人も知ることができたんだよ。そして、それ以降、長い年月の間に何人もの冒険家が来球していて、地球の時代変遷ごとに様々な生き物を食べては金星に報告していたから、恐竜が抜群に美味しいってことも金星人は知っていたんだね。
金星人は、アトラティアとオリューリヤを拠点にして地球で生活してたんだけど、地球を金星の二の舞にしないために、地球に過度な干渉をしないようにしていたんだよ。
金星では、便利だからってあちこちにテレステを設置してたけど、そのおかげでテレステ周りにゴミがたくさん出るようになっちゃったんだ。
だから、アトラティアとオリューリヤにはたくさんのテレステを設置して、さらには相互を結ぶ大型テレステもあったけど、地球上には恐竜を運ぶための大型テレステの他には、足の数と同じ10箇所のみと決めて、さらに5長老から許可を得た場合に限り使用できるようにしていたんだ。まあこれは、金星人の安全にも配慮してのことなんだけどね。
いつか地球の生き物が進化して、地球人に地球を返す時がきても、他の星からきたゴミに汚れていない地球を返さなくちゃいけないからね。
そうやって、地球で1億年以上暮らしてきた金星人だったけど、やがてその数を減らしていったんだ。
進化前、まだ頭足類だった頃の金星人は、卵生で一度にたくさんの卵を産んでたんだよ。タコと一緒だね。
だけど、卵の生存率が上がるようになると、お腹の中である程度まで育てることで、さらに生存率を上げるようになったんだ。その結果、産む卵の数は、一度に多くて3個になったんだよ。
そんなふうに産む卵の数が減ったから、金星人は卵と子どもを大切に、大切に育てるようになって、アトラティアとオリューリヤの人口がものすごく増えたんだ。そうしたら、生息密度の変化が起きちゃって、結果的に卵が減ったばかりか、死亡率が増加したり、成長の遅れが目立つようになっちゃったんだ。
それだけじゃないよ。
宇宙船や人工島では資源を生み出すにも限界があって、金星の頃のような贅沢ができなくなった。そのうえ、未来の地球で大きな火山の噴火と隕石の落下が予測されたから、若い金星人の間で「卵を産んで平気なの?」という不安感が高まって、卵の数がどんどん減ってしまった。結局、1億年もすると、人口は50%以上減っちゃったんだよ。
その後、地球で予測どおりの大災害が起こる前にと、心機一転?他の星を目指して、大勢の金星人が宇宙へと旅立った。
でもね、地球に残った金星人達もたくさんいたんだよ。
そしてそのまま現在に至る。というわけなんだ。