ちりゅうさん(2)
ドゴォォォォォンッ
何かが爆発した音がして、バラバラと石が降ってきた。
「イテッ!イテイテッ!イテテテッ!!」
大小様々な石が体に当たる。思わず抱えていたナノを傘がわりして、飛んでくる石つぶてから身を守った。
「イタッ!イタいってば!AJひどーい!!」
怒ったナノは手からすり抜けて床でバウンドすると、勢いよく俺の顎にアッパーを食らわせてきた。
なんだこのヤロー!そっちが悪いんだい!などと石を避けながら騒いでいると、
「2人とも、遊んでないで速く逃げろ!!」
という親父の声が聞こえた。
「遊んでないし!そもそも逃げるって何だよ。訓練じゃないの?」
と親父に向かって言うと、俺の向こうにある地面の盛り上がりを指差している。ちょうど石の雨が収まったところで振り返ると、そこにはフワリとした毛に覆われている真っ赤な生き物が、毛のない手をバタつかせている。
あれ?
これ生き物でいいんだよな?
ん?
んん?
ここって地球だよな?
あんな生き物いたっけ?
いや似てる生き物はいるんだけど。
色も大きさも違いすぎるほど違うけど、似てる。
・・・・・???
理解が追いつかなくて、頭が空っぽになった。
これが所謂、思考停止ってヤツなのかも。
「アタル何してる!こっちだ!!」
はっ!
あれ?俺なにやってんだ?逃げなくちゃ!
我に返って慌てて逃げ出した。
さっきてっぺんにあった石がここにある。ってことは、めちゃくちゃ色々考えてたけど、石が転がり落ちてくるまでの一瞬のことだったんだな。
それにしても、あれって・・・
モ、モグラ???
んーー???
どうしても気になって、立ち止まって振り向いた。
目を擦ってみたけど、モグラにしか見えない。
赤いモグラ。
何これ?映像訓練ってこと?
「アタル!何してる!」
名前を呼ばれて、弾けるように親父のもとに走った。足元には大小の石がゴロゴロしてるけど、不思議と走りにくさは感じない。
そういえば、靴も履いてないのに、なんだか今日はグリップが効いてるなぁ。さっきもそうだったけど、痛くもないし転びもしない。
「アタル、大丈夫か?」
「うん、俺は大丈夫。親父とナノも大丈夫そうだな」
「当たり前だ。舐めてもらっちゃ困るな」
「・・なあ、あれってモグラに似てるけど、赤いしデカいし、あんなの地球にいないよな?金星人が持ち込んだの?それか、やっぱ映像訓練なの?」
「あれは、れっきとした地球の生き物だ。地龍だよ」
「えー!?あれがちりゅうさん!?」
「ちりゅうさん?何言ってんだ?あれは地龍だ。地、龍。地面の地にドラゴンの龍で、地龍」
「え!?龍?あれって龍なの?どうみても巨大なモグラじゃん!」
「モグラって漢字で書くとどういう字だかわかるか」
「ううん。わかんない」
「土に竜って書くんだ。こっちの竜は、簡単な方の竜の字が使われることが多いけどな。大昔の金星人が、当時の地球人に地龍の話をした時、地球人が似てる生き物に土竜って名前をつけた」
「そうなの!?」
「・・っていう説がある。金星にな」
「なんだ、金星の話なんじゃん」
「まあな。でも地球人は、まだマグマに住んでる地龍を見つけてないんだぞ。だから、父さんはこの説の信憑性は高いと思ってる」
「え!?あのモグラ、マグマの中に住んでんの!?生きられっこないじゃん!」
チッチッチ
親父は右手の人差し指を立てて、左右に振った。
これだよ。なんかこれイラッとすんだよな。
「地球人は、目で見える物しか信じようとしない。だからダークマターも解明できないんだ。地龍は、正真正銘、マグマの中に生きる生物だ。マグマの中って言っても、700から1,300度くらいで温度にはムラがあるから、地表近くの低い温度の所に住んでるんだよ。低い温度のマグマはサラサラしてないから、あんなふうに掻き分けるためのしっかりした手がある」
「あの毛は?燃えないの?」
「大人になると、金属の鱗で覆われるから、燃える心配はない。お前がモグラに似てるって言ってるそいつは、子どもだよ。奴らにとって、マグマの外は凍える寒さだから、短時間しかいられない。子どもは鱗が生え揃ってなくて、マグマの中にはいられないから、外にいても凍えないように、毛に覆われてるんだ」
なるへそ。
あれ?でもなんでダイヤモンドが無くて怒ってるんだ?
「でもさ、モグラにダイヤモンドって必要なくない?」
「うん?あれは、あいつの目を守るために必要なんだよ」
「・・・目!?ダイヤモンドで目を守るの!?」
親父は、うんうんと頷いた。
「ダイヤモンドは炭素だけでできてて、1,000度までは燃えないんだ。おまけに、700度くらいから黒鉛化っていって耐熱性に優れた物質に変化を始める。マグマの中で目を守るにはうってつけだろ?」
確かに。でも、あのダイヤモンドじゃ小さ過ぎないか?
大きいとはいっても、あのモグラ・・上半身だけで3mくらいありそうだ。渡しても結局使わないんだったら、俺が有効活用すんだけど。
「いくらダイヤモンドっていったって、あんな小さかったら役に立たないじゃん」
「お前、あいつの目は見えるか?」
毛が邪魔で、目を凝らしても見えない。俺はプルプルと頭を横に振った。
「だろう。十分なんだよ」
はぁ〜〜
ダイヤモンドは諦めるしかなさそうだ。
「じゃあさっさと返しちゃおうよ」
投げやりにそう言った。
さっきからデカモグラはジッとしている。時々手をバタつかせるけど、すぐ動かなくなるし、ダイヤモンドを返して巣にお帰り頂けば解決やん。
「それがな〜。ソーヤブルを返そうと思ってるんだけど、興奮してて聞く耳持たないんだよ。近づくと怖がって暴れるし。現在万策尽きたところだ」




