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訓練所(6)

・・・い

・・お・・・い

うぅっ

なんか遠くで誰かに呼ばれてる気がする。

・・お・・ー・・い・・・

なんだろう。前にも同じ事があった気がする。

ものすごい既視感。デジャブ。

「おーい!起きろー!」

ガバッ!

「やっと目が覚めたな。大丈夫か?」

「きっさま〜〜!!!」

殴りかかった俺の右手がもう少しで親父に届く刹那、

「ダメッ」

バコンッ

親父が抱えていたイボ野郎飛び出してきて、顎に見事なアッパーをくらった。

「うぐぐぐ・・」

「お父様に貴様はないだろう」

そう言って親父はクツクツと笑っている。

「ナノ。守ってくれてありがとな〜」

「てめぇ、息子が死んだらどうするんだ」

顎を押さえたまま、イボ野郎を撫でている親父に向かって文句を言うと、

「お前は長老と一体化したんだし、そう簡単には死なないよ」

と言ってニヤニヤしている。

「なんだよそれ?そんなの聞いてねえよ」

「長老がお前の体に心臓を入れた時に、病気になることもないって言ってただろう。あれも聞いてなかったのか?」

はて?

ジジイなんか言ってたっけ?

忘却の彼方にある、微かな記憶を手繰り寄せてみた。

あの時は確か・・

ジジイがキラキラ光る金色の球をくれて・・

何これ?と思ったらジジイの心臓で・・

ヘソに当てろと言われてその通りにしたら・・

球が勝手に俺の身体に吸い込まれちゃったんだよな。

その時・・・

「わしはいくつもの心臓と脳を持っていてな。その一部をお主に分け与えたのじゃ。心臓をお前の中に入れたのは、金星人と同じように、自在に体を変える事ができるようにするためじゃ。わしと一体化しておるので、病にも罹らん」

あ!そうだ!

ショック&気持ち悪さ&怒りですっかり忘れてた。

でも、だからって「死なない」ってことにはならないんじゃないの?ちょっとおかしくないか?

「ちょっと、ちょっと待ってよ。あの時言ってたのは、体を変えられるってことと、病気にならないってだけでしょ?それがなんで電撃ショックも平気ってことになるんだよ」

「ま、長老と一体化してるくらいなんだから、死なないよ」

「何だよそれ!だいたい、そいつが電撃とか使うなんて聞いてないんだけど!」

「そいつじゃない!ナノだって言ってるじゃん!!」

「ほらほらほらほら、ケンカしない」

「ケンカとかじゃねぇし!」

俺とイボ野郎が揃って「いーっ!」としている様子を見て、親父は

「まるで兄弟みたいだな〜」

とゲラゲラ笑った。

「冗談じゃねぇ!雷落としやら電撃やら、物騒な事ばっかりしやがって。親父も教えといてくれれば良かっただろ」

「おや心外な。ナノがトゲボールになった時に、どんな自衛手段を持ってるか教えてやろうと思ったのに、聞きたくないって言ったのはお前だろ」

親父に指摘されてちょっと考えた。

・・・確かに言ったかもしれない。

「でもさ、俺がそう言っても話しとくべきでしょ。さっさと消えちゃうんだったらさ」

胡座をかいて口を尖らせた。

「わかったわかった。ナノ、向こうの外れにある石を一つ持ってきてくれないか?うんと綺麗なやつを選んできてくれ」

「りょーかーい!」

イボ野郎は、嬉しそうにバウンドすると、遥か彼方までヒヨヒヨ漂っていった。

「何を取ってこさせるんだよ」

と訊いた俺に、

「何も。ナノを向こうへ行かせるためだよ」

そう言うと、親父は目でイボ野郎を追ったまま話し出した。

「ナノには、追いかけっこをしてくれるように頼んだだけなんだ。まさかお前が、気絶するほど攻撃されるとは思わなかったよ。悪かったな」

「何だよそれ。遊ばせるつもりだったのかよ」

「まさか!ナノにどこまで近づけるかって事も一つの指標になるから、それを測ってもらおうと思っただけだ。それにしても、まさか捕まえるとはな」

「初手から雷落とし食らったんだぜ!何でそんな事されんのか訳もわかんねえし、そりゃ本気で追っかけるだろ」

「腹が立って追いかけたとしても、普通は捕まえられないよ。ナノは素早いからなぁ」

「たまたまだろ。左手を肩から伸ばしたら、思ったより伸びて捕まえられたんだ。それより何あいつ。「お前」って言うと怒んだよ」

「ナノは二人称に強いこだわりを持ってるんだ。自分の名前以外で呼ばれるのを物凄く嫌がる。自分のアイデンティティを否定されたように感じるみたいなんだよ。自分がロボットだってことを気にしてるんだろうな。知能が高いだけに、デリケートなんだよ。だから名前で呼んでやってくれ。というか、呼ばない限り攻撃は止まんぞ」

「はぁ〜。めんどくせぇ。あいつの攻撃って、棘と雷落とし・・雷撃っつーの?と電撃だろ?他にもあんの?」

「ない。ナノは弱いんだよ」

「ふんっ」

あんだけ攻撃できるんだったら、弱いとは思えないけどな。俺なんてボロボロにされたし。

「シッ」

親父が小声で言った。

「ナノが戻ってきたから、この話しは終わりだ。自分がいないところで自分の話をされるのは、気分のいいものじゃないからな。俺まで攻撃されたらかなわん」

「けっ!親父も電撃ショック受けてみりゃいいんだ」

「ハハハ!父さんも昔は何度も食らったよ」

なぬ!?親父も経験者なんかーい!

何の話をしてたか知る由もなく、イボ野郎は嬉しそうに、頭の上でキラキラ光る物体をバウンドさせながら戻ってきた。

「みっつけったよー!キラッキラのやつ!」

「おぉ〜!どれどれ」

親父が受け取った。

「これはすごいな!」

「あのね、向こうの壁が崩れてて、そこにあったんだ」

「そうか。危険は無かったか?」

「大丈夫!穴は無かったよ」

「なら良かった。修復が必要か後で確認しよう。ほら、この石綺麗だから、アタルにも見せてやってくれ」

「ムーっ」

イボ野郎はちょっと押し黙っていたものの、仕方ないと思ったんだろう、不愉快そうにキラキラする石を俺にくれた。

「何これ?」

受け取った石は、透明で綺麗な多面体をしている。子どもの拳くらいの大きさがあって、そこそこ重い。つまみ上げて光りにかざすと、キラリと輝いた。

「へー。綺麗だな。ガラス?まさか水晶だったりして」

「ソーヤブルだ」

?ソーヤブル?

「ソーヤブルって?ガラスの一種?」

「ダイヤだよ。ソーヤブルダイヤモンド、ダイヤモンドの原石だ」

「え!?ダイヤモンド!?ダイヤモンドって、あのめちゃくちゃ高いやつ?」

「そうだ。ここまで大きいソーヤブルは、なかなか見つからないんだぞ。さすがナノだな」

「すげ〜」

光にかざしたまま、矯めつ眇めつ眺めた。ダイヤモンドだと思うと、余計にキラッキラして見えるから不思議だ。

「ありがとな・・・ナノ」

ナノは、俺が自分の名を呼ぶとは思ってなかったようで、目を大きく見開くと、その場でバウンドを繰り返してから親父のところへ文字通り飛んで行って、

「ナノって呼んでくれた!AJ、やっとナノって呼んでくれたよ!」

と嬉しそうに報告していた。

親父が「良かったな〜」と言うのを聞いて、ちょっとくすぐったいような気がした。

あんなに喜んでくれるんだったら、もっと前から名前くらい呼んでやれば良かったかも。もう攻撃も食らわなくて済むしな。

「なあ、このダイヤモンドどうするの?」

「ん?それか?ここの資源は、ここの物だ。だから持ち帰りはできないぞ」

「え!?もったいない!」

「現代の金星人は、資源を大切にするんだよ。持ち主だっているかもしれないぞ」

「え〜。ここ訓練所だろ。ってか、ただの空洞だろ?持ち主なんている訳ないじゃん」

「ただの空洞じゃないぞ。訓練できるように整備してある。持ち主は強いて言えば富士山ってとこだな。ちゃんと置いて帰れよ」

「え〜〜。こんなに綺麗なのに〜」

「綺麗だからこそ、だよ。こんなの地上に持って帰ったら大騒ぎだしな。そんなに気に入ったんだったら、ここに来た時に楽しめるように、端っこにでも置いとけ」

「ちぇっ。わかったよ」

ちょっと置いてくる、と言って端っこに向かった。

親父はナノと遊んでるから心配ない。

地面に置くふりをしながら、手の中にあるダイヤモンドをコソッとポケットに仕舞い込んだ。

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