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訓練所(4)

「なんで使わなかったん?」

「正確には失敗したんだよ。その後、もう一度試そうとしたけど、使うことができなかったんだ」

失敗・・金星人も失敗することがあるのか。

ちょっとだけ意外だった。金星人は万能だと思ってたから。

「時間を遡ることができることを発見したのは、予想外の大発見だったって言っただろう?あくまでもダークマターを活用する実験だったんだ。だから、アトラティアの住民を空中都市オリューリヤに移したうえで、影響を受けないところまで浮上して、地球を観測してたんだ。地球にいてはどんな影響が出るかわからなかったからね。地球の自転を逆に動かすと時間を遡ることができるとは思っていなかったから、その場では大騒ぎになったらしいよ」

そりゃそうだろう。地球でタイムスリップできる装置が発明された日には、大騒ぎどころじゃない。仮に過去や未来に干渉できるなんて事になったら、倫理的な問題なんかで大論争も起きるだろう。

「悪用するヤツが現れたら大問題だよな」

「その心配はないんだ」

「へ?」

「金星人は、驚くほど善良なんだよ。もともとテレパシーで相手の考えもわかっちゃうから、仮に悪い事を考えてても、すぐにバレる」

「えー!?あんなに底意地悪い事言ってるのに!?」

親父はアッハッハ!と大笑いして

「お前の反応が可愛いんだよ。会うたびにお前の話を聞きたがってたからな。本当の祖父さん(じいさん)にでもなった気でいるのかもしれないぞ」

「フンッ!親父に聞かなくても、考えを読みとりゃ済むんだから、ただのポーズだろ」

「お前は悪くとりすぎだ。言っただろう、金星人は善良だって。長老も、読み取ろうと思えば読み取れるけど、俺の気持ちに配慮して、話す事以外は読み取らないようにしてくれてるんだよ」

そんなにデリカシーがあるようには見えなかったけど。

「とにかくだ、金星人は、これは金星に使えると大喜びしたんだけど、地球に使用した装置を解除した途端、地球は高速回転して、一瞬で元の世界に戻ってしまったんだ。結局、地球表層のダークマターをコントロールする事はできたけど、ダークエネルギーの力はとても強くて、金星人をもってしても制御するのは不可能だってことだな」

「でもさ、装置をずっと稼働させとけばいいだけじゃん」

「そう!金星人も同じように考えたんだ。そして、実際に金星で使用してみたんだよ。だけど、金星の状態は地球と違って安定してないから、十分に制御することはできなくて180度回転したうえに、弾みがつきすぎて高速回転したまま止まらなくなっちまったんだ」

「え!?マジで!?」

「ほら、慣性の法則って学校で習っただろ」

かんせい?歓声・・じゃないよな?完成?完成の法則?

とりあえず覚えてるフリしとこう。

「ああ、あれだろ?」

「そうそう。止めようとする力が働かないと、動き続けるってやつ。それになっちゃったんだよ」

あっぶね〜、焦ったわ。誤魔化せたみたいで良かったけど、なんだよその法則。そんなの習ったっけ?

俺が授業のことなんて何にも覚えてないって事にも気づかず親父は喋り続けている。

「慌てた金星人は、ダークマターを使って回転を鈍らせる事ができないか試行錯誤したけど、結局ダメだったんだな。その後、もう一度時間を戻す装置を試そうとしたんだけど、回転が速すぎて断念したんだよ」

「へぇ。そんな事があったんだ」

親父は大きく頷くと、

「諦めきれなかった金星人が海王星でも装置を試した結果、海王星が横倒しになったんだ、なんて伝説もあるくらいなんだ」

「え!他の星でも試しちゃったってことかよ」

「さあな。真偽のほどはわからん。まあ、ただの伝説なんだろうけどな。だけど、そんな事があったからこそ、双子の長老で厳重に管理してるんだ」

「へぇ〜。金星にもいろんな歴史があるんだな」

「まあな。この歴史があってこそ、「金星人は時間が止まらない」に繋がるんだよ」

ん?

金星人が時間を戻せるって事のどこが、「時間が止まらない」に結びつくんだ?

俺が首を傾げていると、親父は「その顔はピンときてない顔だな」と言って笑った。

「金星人は、金星の時間を巻き戻せた暁には、金星に戻ってやり直したかったんだ。次こそ環境を破壊しないように、とか、資源を使い切る事がないように、とか。だから、時を止めたり、過去に戻ったりしても、自分達に影響が出ないようにする方法も開発してるんだ」

「え!そんなのあんの?」

「ああ。自分は存在してないはずの「過去」で過ごすためには、何らかの手段が必要だからな」

「なるほどな。でもさ、過去には干渉できないんじゃないの?」

「いいや。そんな事いったら、金星のやり直しなんかできないじゃないか」

「確かに」

「ただこれは、危険も孕んでるんだ。効果がなかったら過去に存在できないことになるからな。だから、過去に戻す装置自体にその効果を与える機能をつけて、リスクを排除したんだ。この機能は、金星人の遺伝子をスキャニングして発動するから漏れないし、他の生物に影響を与えない」

ほぇ〜。遺伝子のスキャニングなんてあるんだ。

「だから、金星人は止まらないってことなのか!」

「そうなんだよ。ただ、今はギュムノーの任務で止める事も多いから、時の管理人と同じチームのメンバー以外は時間が止まるようになっている。そうしないと落ち着かないだろ?」

「じゃあ他のギュムノーと連絡なんて無理じゃん。相手は止まってんだから」

「これが意外と大丈夫なんだな。用事がある時は事前連絡して、止まらないようにしてもらってるからね」

「へぇ〜。なら俺も、突然周りが止まっちゃうんじゃないか、なんて気にする必要ないんだな」

「よし!じゃあ軽く訓練してから飯食うか!」

がびーん!

「マジ!?結局やるんかーい!」

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