ギュムノーず(14)
俺、何か変なこと言ったかな?
首を捻っていると、
「いやいやいやいや!」
リドレイさんが、突然ガバッと俺の両肩を引っ掴んで、ガクガクと勢いよく揺さぶり始めた。
「ぬおっ!?」
抱えていたケッツーは「グワァ」と鳴くと、下に飛び降りてバサバサと逃げていった。
やめて!ムチウチになるぅぅ!と心の中で叫びながら、やっとの思いで
「な、何すか?あ、頭が、も、もげる、っす」
とだけ言ったところで、親父がリドレイさんを引き剥がしてくれた。
助かった・・と思う間もなく、今度は親父が俺の両肩を掴んで、ガクガクと揺さぶってきた。
「おい!何なんだ今のは!誰もレンガに糞が入ってるなんて言ってないぞ!」
な、何なの、この人達ぃ・・。
スコスコーーーンッ!!
宝珠がキラリと光り、リドレイさんと親父の頭に気持ちよくクリーンヒットした。
「落ち着かんか!そんな事をしたからとて、当から何かを聞き出せるはずもなかろう!そもそも、長老の御前で取り乱すなどと、みっともないことをするでないわ!」
中年男2人がバッタリ倒れると、それまで静かに聞いていたビカクさんが爆笑した。
「あっはっはっは!アタルには、このコウモリ傘の言葉がわかるようさね。藍善も地龍の言葉がわかるんだから、血続きのアタルにわかっても不思議じゃないだろう?アンタ達はそんな事も思いつかないほどのボンクラなのかい?」
解放された俺は、コウモリ傘と呼ばれたケッツーを抱えあげた。改めて見なくても、確かに巨大なクチバシを持った折り畳み傘だ。
「うう・・っツ・・」「痛ってぇ・・」
2人は、それぞれに頭を押さえながら起き上がった。
「暴力とは、ひどいじゃないですか」
「愚か者には、痛みを与えねばわかるまい」
「パワハラだぁ・・」
「俺の生きた時代に、そんな言葉は存在せん」
「今も生きてるじゃないですかぁ」
「今は宝珠の時代だ」
まるでコントだな。
「ブフッ」
思わず吹き出すと、みんなも一斉に笑い始めた。
「で?アタルちゃんには、なんて聞こえたのさ」
リドレイさんは、ウサギちゃんのエサだというキャベツ、小松菜、ペレットフード、牧草、他にも知らない野菜なんかを、千手リドレイを使ったこめかみクリックで大量に出してくれた。
一瞬ギョッとしたけど、すげぇ便利だな。
キャベツを放り投げてケッツーに食わせながら、さっきのことを思い出す。
「え〜っと、リドレイさんが100%植物の何とかって言った時、少しくらい混ざっててもいいけど、うんちがいっぱい混ざってるんだもん、みたいなこと言ってるのが聞こえました」
うん、間違ってない。確かそう言ってたはずだ。
「えぇ〜?イヤだぁ、そんなはずないわよぉ。だってこれ臭くないしぃ。きゅるん」
ブー子がクネりながら反論している。
コイツ、普通に喋れるくせにとムカついたけど、これがコイツスタイルなんだろう。
「いいや、キャロラインは大きな誤解をしてるよん」
リドレイさんが人差し指を立てた。
「今も日干しレンガで家を作ったりしている国はたくさんあって、動物のうんチッチとかオシッコを足してるところもあるだよん。ところがね、臭いの成分は揮発性っていって気体になりやすい性質だから、乾燥することで空気中に飛んでいっちゃったり分解されるから、臭くなくなるってわけ。It's Magic!」
「そう、なんなら糞は肥料として畑に撒かれたりする。畑に撒かれた糞は微生物に分解されて土の一部になるんだな。そうなると、臭くもないし汚くもない。かえって、栄養たっぷりの良い土になるんだぞ。土っていうのは、岩が砕けて細かくなったものだけじゃない。有機物の死骸や糞なんかでできてるんだからな。日干しレンガは、その場にある物を使うから低価格だし、資源の少ないところでも作れる。壊れてもすぐに補強できて、合理的な建築資材なんだよ」
「ツマ〜リ!超々エコなんだっちゅーわけ!」
「すっげえいいじゃん!でもさ、そんなにエコだったら、なんであちこちで使われないんだよ。もったいねえじゃん」
「日干しレンガは当然ながら水に弱い。雨が降る国だと無理なんだよ。その他にも、強度の問題もある。日干しレンガの上を電車が走ったりできないのは、考えなくてもわかるだろ?焼いて強度を上げた『焼成レンガ』もあるけど、それでも大きな建物を作るには強度が足りない。特に地震が起こる国にはな」
ふぅん。レンガ一つとっても、いろんな種類があって面白いんだな。
「じゃあ、ブー子の日干しレンガにも糞が入っているから、ケッツーが食べないってことなんですね」
「アタルの説明だと、そうなるさね」
ドキッ
何だかちょっと責任重大な感じがする。
モグの時も聞こえてたし、今回も同じ感じだと思うんだけど、ちょっと自信がなくなってきた。
「あのー・・・空耳だったり・・ってことは無い・・ですかね?」
えぇー!?という声が方々であがった。
そうですよね、いまさら何言ってんだですよね。
額に汗が、玉のようにポコポコと湧いてきた。湧水ならぬ湧汗だ。
「いや、確かに聞こえたんですよ。聞こえたんですけど、100%かどうか、って言われると、どうなんだろうとか思ったりしちゃったりして・・。だって、いまは声も聞こえてこないわけですし・・」
首の後ろに手を当てて、申し訳なさ全開でそう言うと
「アタルが不安になるのもわかるさね。自信がなくなってきたんだろう?いまままで聞えなかったものが聞こえるんだ。そして、今は聞こえない。リドレイ、とりあえず、まずはこのレンガに間違いなく動物の糞が入っているかどうか調べてみたらどうだい?」
ビカクさんが提案してくれて、リドレイさんは「合点承知の助!」と言いながら、いそいそと分析しにいった。




