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ギュムノーず(12)

ビッターーンッ


俺を含め、みんなが動きを止めている中で、リドレイさんだけがスローモーションのように後ろにひっくり返った。

「大丈夫ですか!?」

「おい!大丈夫か!?」

「あらら、何やってんのさ」

パッカリと目を見開いたまま、上を向いて身じろぎもしないリドレイさんを囲んで三者三様に声をかけると、始めは無反応だったリドレイさんが、パチリと1回瞬きをしたと思ったら突然フイッと起き上がり、ケラケラと笑い出した。

「おーい、リドレイ。ついにイっちまったか?」

「リドレイ!しっかりしな!」

慣れているのか、親父とビカクさんは普通に声をかけていたけど、俺はすっかりビビってしまった。

「どどど、どっか、おかしくなったんじゃないの?」

「もともとよの」

「のわぁ!?」

突然、耳元で声がして飛び上がった。

「な、なんだ、伯父さんかぁ・・」

宝珠だとわかって、ホッと胸を撫で下ろした。

「なんだとはなんだ」

憮然とした様子の伯父さんに

「こんな近くまで飛んできているのに気づかなかったから、びっくりしただけっすよ」

そう説明すると、

「なにが「っす」だ。軽薄な」

またしても言葉遣いを怒られた。

チッ。めんどくせぇ。

「それより、雛!」

ハッとして振り向くと、雛はカゴからリドレイ謹製呪物ならぬフードを器用に取り出して、離れたところに放り投げているところだった。

「うわわわ!ダメだって、食べちゃ!」

「よく見ろ。食ってなぞおらんわ」

「・・うえぇ」

確かに、雛の向こうを見ると、死んだ池の水のようなドス黒い緑色の物体が、ビローンと床に広がっていた。

「あ〜あ」

「ふぅむ、本能で危険な物だとわかっておるやもしれんな」

リドレイさんは、こっちの事情を聞きつけて勢いよく立ち上がると

「嘘でしょ!?そんなバカな・・・!」

と悲痛な叫び声をあげた。

リドレイさんには悪いけど、取りあえず一安心だな。

そうとなったら、早くエサを探しに行かなければならない。

ケツトルスの時代へ行って、仲間が食べてるエサを分けてもらうか。

いや待てよ。

そしたら、恐竜の赤ちゃんを与えるって事になるんじゃないか?

ヤッベー!そんなこと、俺にできっこねえし!

・・・いま考えるのはやめとこう。

とにかく、考えるのは後回しにしてエサを探しに行かなければ!

「親父!」

本当は嫌だけど、こうなったら仕方ない。

「コイツの生きてる時代まで、急いでエサを探しに行こう!」

「そうだな、急ごう。何かに入れて、ソイツも連れて行くぞ」

力強く頷くと、ビカクさんが

「リドレイが気持ち悪いもん持ってきたカゴがいいんじゃないかい?その子には小さいから、足元しか入んないかもしんないけど、アタルが抱えることにすりゃ大丈夫だろ」

「そうだな、そうしよう。藍善さんはどうします?一緒に行きますか?」

「行くとしよう。お前たちだけでは心配だからの」

よし、決まりだ。

カゴを取り上げて中に入れようとすると、なぜか雛がカゴをくわえてバサバサと逃げ出した。

「え?どこ行くんだよ?」

思わぬ動きに面食らっていると、突然こっちを向いてくわえていたカゴを上に高く放り上げると、クチバシをパッカリ開けて落ちてきたカゴをくわえ込み


バキッ バキバキッ バキャッ!


と食べ始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その場が再び、水を打ったように静まり返った。

俺を含めたみんなが、目の前の出来事に理解が追いつかずに長い時間呆けていた気がする。多分実際には数秒間だったんだろうけど。

「・・・・えぇぇぇーーー!?」

最初に声をあげたのは俺だった。

それを皮切りに、「なんと!?」「きゃあ!」「おいおい!」「たまげたね」「何でそっちならいいんだい?」などなど、次々に驚きの声があがった。

こっちの気持ちなどお構いなしに、雛はカゴをガツガツ・・というかバキバキ食べ進め、あっという間に食べ尽くしてしまった。

「・・・これは由々しき事態じゃ」

じいさんが声を低くして静かに話し始めた。

「このケツァルコアトルスは、地球のものではない。火星の生き物に間違いないだろう」

はぁ?何言っちゃってんの、このじいさん。

だけど、周りが息を呑むのがわかった。

「長老、先ほどは特殊個体と申されましたが・・」

宝珠がじいさんの前に浮かび出て言うと、じいさんは頷いてから続けた。

「痕跡が全くなかったのでな。特殊個体だと考えたのだが・・。ビカク」

「はい」

「お前も怪しさは感じなかったであろう?」

「もちろんさね。怪しければ、サッサと空虚のケースに入れておさらばさ」

うむ、とじいさんは頷いた。

「ですが長老、この生き物は我々の知るケツァルコアトルスに、驚くほど似ておりますが」

「藍善。お前達の見たケツァルコアトルスは、肉食だったであろう?」

「はい。間違いようなく、肉食でありました」

「そのとおり。例え幼体であろうと、地球で繁栄したケツァルコアトルスは肉食なのだ。だが、この幼体は蔓でできたカゴを食したのだ。それも、自ら選びおった」

確かに、あのカゴは蔓で編み込まれた、田舎のばあちゃんが持つようなやつだ。でも・・

「でもさぁ、カゴだよ?カッパカパに乾いてるし、たまたま食べちゃっただけなんじゃないの?」

アタル!またお前は失礼な物言いを!」

「よいよい。堅苦しいことを言うな藍善。火星の生き物はな、植物由来のものならば何でも良いのだ。乾いていようがな。ただし、」

「ただし?」

「動物由来のものが加えられていては食べられない」

へぇ〜。面白いじゃん。

その時!

「きゃぁあ!ダメだってばぁ!きゅるん」

ブー子の叫び声がした。

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