ギュムノーず(10)
「ん?どうした?」
「エサならボク作れますけどぉ。だって技術担当だし」
「え!すげぇ!」
即座に食いついた俺とは裏腹に、その場が水を打ったように静まり返った。
なんでみんな無言?
首を捻っていると、親父が口を開いた。
「お前、技術屋だろ?」
「そーだよん。なんでも作れちゃうよん」
「恐竜の赤ん坊も作れんのか?」
「そんなの作れっこないじゃん!」
「なら話にならん」
「恐竜のベイビィじゃなくて、ドックフードみたいなのを作るってことだよ。名付けてケツトルフード!」
人差し指を立てて自信満々だ。
「それでもダメだ!別の方法を・・」
「すげぇ!じゃあすぐに作ってもらえますか!?弱っちゃう前に、すぐお願いします!」
反対する親父の言葉に被せるようにして言った。
「アタル!」
技術屋だとか何とかなんて関係ない。四の五の言ってる間に、雛はどんどん弱っていくんだ。
「OKちゃん!すぐ作ってくるゼイ!」
言うが早いか、リドレイさんはあっという間に部屋から出ていった。
「はあぁ〜」「ふぅ〜」
あちこちから溜息が聞こえてくる。
見ると、親父は困ったと言わんばかりに額に手を当てており、ビカクさんは天井を、じいさんとブー子は下を向いている。
「え?なんで?」
「アイツの作るもんは酷いんだよ。俺たちみんな腹を壊してるし、スパーバムは死にかけた」
「マジで!?」
「ああ。人でさえそうなんだ。こんな小っこい赤ん坊が食ったら・・・本当に死にかねん」
「えっ!?マジで!?」
「本当さ」
ビカクさんが腕を組んで静かに話し出した。
「あん時は、リドレイが作るって言い張ってね。アタシはみんなに、食べないほうがいいって言ったのさ」
「スパーバムさんが死にかけたとき?」
ビカクさんが大きく頷いた。
「ヤツが若い頃、もう20年も前さね。ビフルが19歳になったお祝いをしようってことになってね。普段はそんな事しないんだけど、藍善が消えてからアタエが暗くてねぇ。もう真っ暗さ。だから少しでも元気づけようってことで、誕生祝いを口実にしたのさ」
「え!そうだったの?」
親父が目を丸くした。今まで知らなかったらしい。
「そうさ。その時にリドレイが用意した、お手製の特別料理だったんだわ。秘密のスパイスだとか何とか言って出てきたのが、紫色のドロっとしたもんで、一目で食べない方がいいってわかったよ」
ビカクさんは当時を思い出してるんだろう、物凄く渋い顔をした。
「ビカクさんの能力で?」
「いいや。アタシ達ジョーカーの能力は、食べ物に関しては限定的でね。体に害を及ぼす物の判別しかできないのさ。つまり毒か、そうでないか。そういう意味では、あれは毒じゃなかったんだよ。だけど、その場にいた全員が、食べない方がいいって直感したのさ」
「そのビフルさんって、まだギュムノーなの?」
新しい名前が登場した。聞き返すと、親父が「もう1人のクイーンだよ」と教えてくれた。
「あと、ヤンセンとゴンザもタニアもいたよな。ヤンセンがリドレイと同じジャック、ゴンザはビカクと同じジョーカー、タニアはキング、つまり隠密だ。今は3人とも退職してるけどな」
「退職はしたけど、みんな時々は来て手伝ってくれるんだわ」
「隠密って、何すんの?」
「今の地球では、金星人のことを知られると大騒ぎになるからの。だから金星人の痕跡を消しとるのだ。他には、金星人を知っている要人とのパイプ役をしとる」
伯父さんがクルクルしながら教えてくれた。
なるほどね。
確かに佐竹達に言うだけでも大騒ぎだわ。
というか、知ってる地球人もいる、しかも偉い人の中にいるってこと?
質問しようと口を開きかけたところで、
「話しを続けるよー」
ビカクさんがパンッと手を叩いた。
「あん時は、当時のギュムノー全員がいたんだわ。もちろん、長老もね。地球式の料理はあまり召し上がらないんだけど、有難い事に参加してくださったのさ。そこへリドレイの特別料理さね。アタシはみんなに食べないほうがいいって言ったけど、ビフルが「自分のためにわざわざ作ってくれたんだから」って食べ始めたのさ。涙目になりながらね。それを見てた他のメンツも、しぶしぶ食べ始めた。特にスパーバムは、リドレイを昔から可愛がってるし、同じクイーンのお祝いだからって、目を白黒させながら頑張ってね。突然泡を吹いて倒れたと思ったら、そのまま入院さ」
「そっ。で、俺たち残りのメンバーも、ご多聞に漏れず腹を下して苦しんだってわけさ」
親父はおどけて言った。
「リドレイのヤツは、懲りずにその後も何回か作ってるんだけど、どれもおかしな泡が出てる物とか、青くてよくわからない物が飛び出してる物とか、そんなのばっかりなんだよ。だから、可哀想だけどアタシ達は食べないようにしてるのさ」
「リドレイさんは下痢してないん?味見してんでしょ?」
「それが、あのバカ舌うまいって言いやがるのさ。もちろんお腹も下してない。あんなもん食って平気ってのが信じらんないわ」
ビカクさんがウエェという顔をした。
これまでの話しを聞いて、顔から血の気が引いていく。
「どうしよう、コイツ死んじゃうかもしんないじゃん」
思わずヒナを抱える手に力が入った。
「おっ待たせ〜!美味しいご飯ちゃんが、でっきまっした〜〜!!」
リドレイさんの不吉な声がした。




