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ギュムノーず(9)

「この黒い部分が瞳孔ね。ここの大きさを変えることで、入ってくる光の量を調節して、物を見やすくしてるんだよ。んで、瞳孔の大きさを変える働きをしてるのが、虹彩なんだ。虹彩が伸び縮みすることで、瞳孔の大きさが変わるんだよ。ほら、ボクの目もそうだけど、キミの目だって、黒い部分の周りに色のある部分があるだろう?これが虹彩。瞳孔と虹彩を合わせたのが、いわゆる黒目ってやつさ」

「じゃあコイツの白目は、白目じゃなくて虹彩ってこと?」

リドレイさんが頷くと、ウサ耳がつられてプイーンとゆっくり動いた。

「ケツァルコアトルス・・君の言うケツトルスね・・ププッ、面白いネーミングだね。ボクも使っちゃお。ケツトルスベイビィは虹彩が薄いブルーだから、三白眼ならぬ三青眼になってるだけ。人間でいうと、青い瞳の可愛子ちゃんだよ。だいたい、白目がガッツリ見えてるのなんて人間ぐらいで、ほとんどの生き物は、白目が見えないか、見えにくい作りになってるぴょん」

「確かに!犬も猫も、白目は見えるけど端っこにちょっとしか見えないな」

「だろう?チンパンジーやゴリラみたいに、人に近い生き物でも「白目で〜す」なんて白目が自己主張してたりしない。自分が生き物の絵を描こうと思った時に、目をどうやって描くか考えればすぐわかるぴょん」

なるほどね。目のことなんて考えたことなかったな。

ヨウムみたいな点目の鳥ってなんか怖かったけど、ただの点目じゃないってことだ。

「この雛は・・あ、違う違う!コイツは鳥じゃなかった。ダメだ、コイツは鳥じゃなくて爬虫類だから、本当は幼体とか言わなきゃいけないんですよね。つい鳥の感覚になっちゃって」

頭をブンブンと振った。

「別にいんじゃない?」

「へ?」

「鳥類は、羽毛の生えた羽毛恐竜から進化してるからね。つまり、鳥も恐竜ってことだよ。どうせこのベイビィは特殊個体なんだし、アタルちゃんにとって鳥なら、この子は鳥なんだよ。他と違うこの子の特別感がマシマシでしょ。で、何を言いかけたんだい?」

「この雛は、大人になっても瞳の色は変わらないのかな、って」

「どうだろうね〜。子猫ちゃんなんかは、キトンブルーからゴールドとかブラウンとかグリーンになったりするけど、ケツトルスはボクも見るのが初めてだから」

「キトンブルー?」

「子猫ちゃん達はね、メラニン色素が働いてないから、み〜んなブルーの瞳なんだよ。だから、キトンブルー」

ニコニコと話しながら、リドレイさんが赤ちゃんに人差し指でちょこんと触った。


バカンッ!


勢いよくクチバシで噛み付くような仕草をした。

「ワァオ!噛まないでよね」

飛び退ったリドレイさんが、

「アタルが点目なんて言うから、怒っちゃったんだよぉ」

と言って笑った後、真剣な顔で

「早くご飯をあげないと。ベイビィだから、すぐ弱っちゃうよ」

と言った。

そういえば、孵ってからずっとこのままで、水も飲んでいない。リドレイさんに言われるまで、思い至らなかった。

「そうだ!大丈夫かな」

その途端、「弱ってないか?」「死んだか?」なんて口々に好き勝手なことを言いながら、わらわら集まってきた。

殻被りベビーは、さっきからずっと横を向いたまま、ジッとして動かない。

これって、俺のことガン見してるってことなんだろうか?まさか死なないよな?

「おい!」

声をかけて揺すると、嫌そうな顔をした。

「グウェェース」

「あ、鳴いた」

とりあえず鳴いてくれてホッとした。

周りからも安堵の溜息が聞こえてくる。

「よしよし、下に降りるか?」

「そのままだと降ろせないだろう」

「ああ、殻から出してやろうと思って」

すると、親父達が「冷えるかもしれん」「バスタオルでも用意しとくか」「寝床もあった方がよいだろう」準備を始めた。

よし、そっちの方は全部丸投げっとして、こっちはまず殻を外してやろう。降ろすのはそれからだ。

このままじゃ動くこともままならないもんな。

左脇で卵を抱えると、右手でそっと頭に被っている殻を外した。すっかり殻が取れて頭が露わになると、想像どおり頭の大半をクチバシが占めている。

産毛もまばらにヒヨヒヨしていて貧相この上ない。

赤ちゃんと言いながら、この悲壮感。

頭の殻が取れたからなのか、急に腕?脚?をバタバタと動かして殻から出ようとし始めた。

「ちょっと待て。いま出してやるから、じっとしてろって」

暴れ始めた身体を抑えてしゃがむと、体側の殻をパリパリと剥がしていった。

ん? んん? んんん〜?

剥がすほどに、頭とはまったく不釣り合いな、まばらな産毛が生えて痩せ細った身体が露わになってくる。

「何じゃこりゃあ!」

驚いて思わず大きな声になった。

こんな奇妙な生き物が目の前に存在してるなんて、すごく不思議な気分だ。

「ほぉ〜、アイツの子どもはこんなふうなんだな」

「何とも弱々しいの」「体つきは毛をむしったコウモリさね」「きゃわゆぃん。きゅふん」

ギャラリーが騒がしい。ブー子なんぞは「きゅふん」なんて言っている。お前は「きゅるん」だろ!

それにしても、視線が集中するのも無理はない。

これぞまさに折りたたみ傘。張ってあるのは柔らかいゴムシートです。って感じだ。

四つ足をついたその体には、まばらに黄緑色の産毛が生えた柔らかい皮膚が広がっていて、触ると体温を直に感じてすごく暖かい。

前脚?と言っていいのかわかんないけど、前脚は翼を折り畳んでいるせいで、突き出た翼の先っぽが、ぱっと見手羽先のように見える。

肌もほぼ露出しているから、骨格標本に皮膚という名のシートを貼り付けていったようだ。

この身体だけでも強烈な違和感なのに、長い首とデカい頭、そしてそのデカい頭の大半を占めるクチバシ。

か、可愛くない・・。

赤ちゃんというものは無条件に可愛いものだと思っていた俺は衝撃を受けた。

「グウェェース」

あ、また鳴いた。

不恰好ながら、ヨタヨタと俺の方に近づいてくる。

「腹減ったよな」

ドテンと転んだ雛を抱きあげた。

いまにも骨折しそうで怖い。

「そうだよ、エサだよエサ。コイツのエサはどうすりゃいいんだ?親父達が見た時は、恐竜の赤ちゃん食ってたんだろ?そんなのあげらんねぇよ」

「グウェェース」

「おっ、また鳴いた」

可愛くない。そう思っているのに、見慣れてきたせいか、可愛いところを探している自分に気づいた。

う〜ん、このままだと情が移っちゃうな。

「コイツの母親見つかんねぇかな?」

「え!ひどい!きゅるん」

ブー子の目がうるうるしてきた。

それでも自分が育てると言ってこないのは、エサが恐竜の赤ん坊だと聞いた以上、育てられないと悟っているんだろう。

ブー子には可哀想だけど、コイツはここにいても育ててやることができない。

「母親を見つけるのは難しいな。特殊個体なら余計に大変だと思うよ」

「そうだの。よしんば見つけたとしても、既に孵ってしまった赤ん坊を、受け入れて面倒を見るかは怪しいもんだ」

「食っても不味そうだし」

親父と伯父さんの2人から言われて、現実の厳しさを痛感した。

ビカクさんは論外だ。食うってなんだよ。

「でもこのままだと死んじゃうよ。何とかできないかな」

「そぉよ!弱っていくのを、ただ黙って見てるなんてできないわ。きゅるるる」

「う〜むむむ」

みんなで悩んでいると、

「あのー・・・」

恐る恐る手を挙げたのはリドレイさんだった。

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