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ギュムノーず(8)

リドレイさんが、両方のウサ耳を垂らしてビカクさんにヨシヨシしてもらってる姿は、まるでペットの巨大ウサギが飼い主に撫でられてるみたいで、なんだかほんわか癒される。

それに比べて・・・

「ケツァルコアトルスってことは、白亜紀にいた翼竜ですよね?俺たちが南極へ行った時には、とっくに絶滅してますよ?」

親父がじいさんに向かって尋ねた。

めちゃくちゃ現実的。癒しなんか微塵もない。ケッ。

「なあなあ、翼竜ってなに?恐竜とは別ってこと?」

俺が質問すると、じいさんの方を向いていた親父がこっちに向き直った。

「同じような時代に生きていたから、翼竜を恐竜だと思うのも無理ないよな。どっちも同じ爬虫類ではあるんだけど、恐竜って呼んでるのは『鳥盤類』と『竜盤類』のことなんだよ。この2つは骨盤の特徴で大きく分けられててね、現在の鳥の骨盤に似てるのか、トカゲの骨盤に似てるのかっていう違いなんだ。で、恐竜以外として分類されているのが、翼竜と魚竜だ。この他にも、恐竜と勘違いされやすいものに、モササウルスと首長竜がいる」

「へぇ〜。全部恐竜だと思ってた」

「俺が子どもの頃は、全部が恐竜だったんだがの。時代が変わると色々と変わりよるな」

伯父さんがクルクル回りながら呟くと、

「昔過ぎでしょ。でもまあ、俺が子どもの頃の図鑑でも、ティラノサウルスとかブロントザウルスとかは尻尾引きずってましたよ。歴史は都度、刷新されるってことですね」

そう言って親父が笑った。

「じゃあさ、プテラノドンとかも翼竜ってこと?」

とりあえず知ってる空飛ぶ恐竜の名前を挙げてみる。

「そうだよ。プテラノドンも翼竜だ」

なるへそ。プテラノドンも、恐竜じゃなかったってわけね。

「同じ翼竜ってことは、ケツなんとかもプテラノドンに似た感じのやつなん?」

「ケツ何とかじゃなくて、ケツァルコアトルスな。大きさは、プテラノドンよりずっと大きいぞ。翼を広げた長さで比べると、プテラノドンが8mくらいでケツァルコアトルスは11mくらいだ。地面に立ってるのを見たことがあるけど、キリンぐらいか、それよりもっと高さがあったな。うっかりすると喰われちゃうから、近くまで行けなかったよ。ね、藍善さん。めちゃくちゃデカいですよね」

「うむ。あの時は、恐竜の赤ん坊を喰らってたな」

うえぇ。恐竜の赤ちゃん食べちゃうのかよ。

それにしても、「似てるけど大きさが違う」ってことは、ムササビとモモンガみたいな感じなのかなぁ。

「プテラノドンも、ケツトルスに餌を盗られちゃったりしてたんだろうな」

「クックック。なんだよ、ケツトルスって」

親父は笑いながら、続けた。

「アイツらは、同じ時期に生息してないぞ」

「へ?恐竜と同じ時代なんじゃねぇの?」

「確かに同じ白亜紀後期に生息してたけど、白亜紀は長くてね。1億4,550万年前から6,600万年前くらいまでのことを指すから、期間でいうと7,950万年間くらいあるんだよ。ケツァルコアトルスはプテラノドンより1,000万年くらい後の時代に生きていたから、一緒に飛ぶようなことはなかったよ」

「そんなのの卵が、何でこんなトコにあるんだよ」

「だからそれを、長老に訊いてるんじゃないか」

2人揃ってじいさんの方を見た。

「ふむ。キャロちゃんが拾ってないんだとすると、」

「拾ってないですぅ。きゅるん」

「うんうん、わかっておる。転移の過程で紛れ込んだのだろう。キャロちゃんの宝物にブラキオサウルスのガストロリスがあったろう?ブラキオサウルスは白亜紀より前のジュラ紀に生きていたからのぅ。ジュラ紀から転移している間に紛れ込んだとしか考えられん。しかし・・」

「紛れ込むなど可能でしょうか」

「うむ、そこなのだ。そこがどうにも解せぬ」

「グウェェース」

タイミングが良いのか悪いのか、ケツトルスの赤ちゃんは上を向くと、クチバシをパッカリ開けて残念な声で鳴いた。

「ほれアタル、持っていてくれ」

「ええ!?やだよ!」

「まあそう言うな」

「そうよ!抱っこしてあげてよぉ。きゅるん」

ブー子の発言にムカついたものの、じいさんに無理やり殻付きベビーを持たされた。

途端にみんなが近づいてくる。

「うっわぁ〜。めちゃんこ可愛いじゃーん!」

リドレイさんが寄ってきて赤ちゃんを眺めると、とろけそうなくしゃくしゃの笑顔になった。

「え!?これ可愛いっすか?」

「え!?可愛くないの?この毛のないところとか、儚げで可愛いじゃん」

「儚げ!?これが!?」

うーん、リドレイさんの感覚がわからない。みすぼらしいの間違いじゃないだろうか。

「痩せっぽちで、うまそうとは言えないねぇ」

「え!?食うの?」

ビカクさんの視点も、なんかズレている。

「おおっ!コイツが俺の孫か〜。痛えっ!」

とっさに親父を蹴飛ばした。両手で赤ちゃんを持ってるんだから、やむを得まい。

ケツトルスの赤ちゃんはしばらくキョロキョロしていたけど、ジッと横を向いた後で

「グウェェース」

と鳴いた。少しずつ、声にも張りが出てきたようだ。

「ほら、アタルちゃんの方をジーッと見て鳴いてるよ。可愛いねぇ」

リドレイさんがウサ耳を右に左に揺らしながらニコニコとそう言った。

「え?俺の方なんか全然見てませんよ。横向いてんじゃないすか」

そう言うと、ノンノンと立てた人差し指を左右に振った。

「このベイビィちゃんはさぁ、目がどこについてる?」

「えーっと、横・・ですよね」

「イ・エース!目が真横についてるってことは、両目で見える範囲は狭いんだよん。だ〜か〜ら〜、じっくり見たい場合は、横を向いて見るんだぴょん!」

「え!こんな感情がない点目だけど、一応俺のこと見てるってこと?」

「感情がないなんて失礼だな〜」

そう言いながら、リドレイさんは眼鏡をクイッと上げた。

「点目って言うけどね、白目みたいに見える部分・・この子の場合は薄いブルーだけど・・これは虹彩っていって、人間の白目とは違うんだよ。ほら、目の真ん中に、黒い部分があるだろう」

リドレイさんは、自分の瞳を指差した。

本当に綺麗な目だなぁ。

思わず魅入ってしまい、「聞いてる?」と言われて我に返った。

「き、聞いてます、聞いてます」

恥ずかしくなって慌てて誤魔化す俺に、リドレイさんはニヤリと意味深な笑いを浮かべて、説明を続けた。

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