ギュムノーず(7)
ビカクとリドレイが部屋に入っていくと、アタルが顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいるところだった。
「おや。もう始まってるようさね」
「なに!?なになに!?面白そうじゃーん!!」
リドレイは両方のウサ耳をピンと立てると、笑い転げているアタエに向かってピョンピョンと跳ねるような小走りで近づいた。
「アッタエ〜!なになに?何があったの!?」
アタエはしゃがみ込んでヒイヒイ言いながら、
「リドレイ!俺に孫ができたみたいだよ」
と息子が怒り狂ってる訳を説明した。
「長老!ご無事ですか!?」
かっ飛んでった伯父さんと親父にやっとの思いでついていくと、着いたところはさっき後にした部屋だった。
そこにはまだ、じいさんとブー子がいたが、何やら様子がおかしい。
先に入った親父と伯父さんの「長老!」「長老!」と言う声が聞こえる中、やっと辿り着いたアタルを見つけると、なぜかネオンカラーに光っているブー子が大きな声を出した。
「あっくん!来てくれたのねぇ!きゅるん」
じいさんも「おお、来たか」と言って手招きならぬ足招きをしている。
ネオンカラー!?
名前を呼ばれたことより、ピカピカ光るその色にビビって固まった。
「大変なのぉ!きゅるるるる」
ハッと我に返った。
さっき、やっとお宝といえる真珠を手に入れたものの、黄色い粘液にまみれていたもんだから、綺麗に拭いてから大切に保管しておくように、ブー子に言っておいたのだ。
信じたくないけど、まさか剛力で砕いちゃったとか・・?
「おい!まさか・・俺の真珠を壊したのか!?」
ブー子の元へ駆け寄ると、足を伸ばしてサッと目の前に何かを差し出してきた。
ん?何これ?
近すぎてヒビの入った表面しか見えない。
「あーっ!俺の真珠にヒビぃ!?」
思わず手に持って目から離すと
「あれ?真珠じゃねぇじゃん」
その瞬間
パキッ パキパキパキパキ ペキッ
「え?え?なに?なに?」
ピキピキピキー・・・ンッ
「なになになになに!何なのー!?」
パリンッ
手に持った卵から、黄緑色の産毛をハゲ散らかした生き物が、ひょこんと顔を出した。
・・・・・・・
理解が間に合わなくて、言葉もなくポカンと見つめていると、物体も横を向いて片方の目だけで俺をジッと見てきた。
卵の殻から飛び出したのは、長い首と頭部。頭部といっても、これは・・たぶん・・クチバシ?が頭のほとんどを占めている。
・・・・何これ?
クチバシがあるってことは、鳥・・かな?
頭の真横にある目は小さくて、薄い水色に黒点目。
表情がなくて怖すぎる。
頭の上にはまだ殻を乗せてるから、辛うじてヒナだよね?と思える程度で、可愛い要素が全く見当たらない。
やべぇ、めちゃくちゃ可愛くないんだけど。
ジーッと見ていると、おもむろに
「グウェェー・・ス」
「げっ!可愛くねぇ」
鳴き声まで残念な感じがして、思わず声が出た。
「えっ!?あっくんヒドイ!我が子に可愛くないって言うなんてぇ!きゅるん」
ブー子が目をつりあげて、俺から卵をひったくった。
カッチーーン
「おっ前なぁ、勝手に俺に渡しといて、何て言い草しやがんだ!」
「そっちこそ、父親失格よぉ!きゅるるん」
父親だとォォ!?この期に及んでまだ言うか!!
「俺の卵じゃねーって言ってんだろ!地球人は卵なんか産まねーんだよ!だいたいそいつ鳥・・鳥?だろ、たぶん。俺は人間なんだよ!霊長類ヒト科ホモサピエンス、な、の!」
「フンッ!あっくんは金星人でしょお。きゅるん」
キィィィィィ!
悔しくて地団駄を踏んだ。
宝珠のように火がついたとしたら、今の俺は西暦?明暦?の大火だっけ?になってただろう。
くっそぉぉ!
金星人だなんて!よりによって金星人だなんて言いやがってぇ!
金星人なんて認めねぇ。俺は地球人なんだよ!
後ろで親父がゲラゲラ笑ってるのも、気に入らねぇ!
「てめぇ!息子がこんなヒドい目にあってるってのに、笑ってる場合じゃねぇだろう!」
振り向くとリドレイさんまでいて笑っている。
怒りと悔しさと恥ずかしさで泣きそうだ。
「ほれほれ、ちょっとそれを見せなさい」
長老がブー子から卵を取り上げた。
「グウェェー・・ス」
ヒナ?が再び可愛くない声で鳴いた。
「ふむ。ジャイアントペンギンの卵に似ておると思っていたが、これは違うな」
「たりめーだろ!どう見たってペンギンのヒナじゃねーだろ!」
「当!またしても失礼な物言いをしおって!」
「よいよい、藍善は黙っておれ。ふむ。これはケツァルコアトルスの特殊個体だな」
「はぁ?」「え!」
なんだそら?
知らない名前が出てきてポカンとしていると、
「卵!?あのオオシャコガイに、卵が紛れ込んでただってぇー!?」
というリドレイさんの叫び声がした。
どうやら親父が卵騒動について話したらしい。
そうか。リドレイさんもビカクさんも、卵騒動の件は知らないんだっけ。
そりゃあ、あの場にいた俺たち・・というか、入れた張本人であるはずのブー子ですら、卵が入ってたことに気づかなかったんだもん。2人が知ってるはずないよな。
リドレイさんが慌てた様子で、長老の元へ駆け寄った。
「申し訳ありません!まさか卵が紛れてたなんて!しかもケ、ケ、ケツァルコアトルスですって!?だってだって、スキャンした時も生体反応はオオシャコガイからしか出てなかったし、ケツァルコアトルスの卵って、そんな、そんなの何にも・・」
「リドレイ」
ビカクさんが優しく声をかけた。
「アンタの仕事は完璧だったから大丈夫さね。この卵は特別だから、しょうがないのさ。コイツはスキャンを透過してたんだわ。それこそ、何にもないみたいにね」
「ビカク・・・」
「こういう時のために、アタシがいるんだろう?機械で全てが済むんだったら、アタシの出番がないじゃないか」
そう言ってビカクさんはアッハッハと豪快に笑った。
「アタシは視えるから、そろそろ孵化するのも、危険がないこともわかってたのさ。だからこの部屋に見にきたんじゃないか。間違いなく騒ぎになるはずだからね」
リドレイさんは、へなへなとへたり込んで
「やっぱビカクはすごいやぁ」
と言った。




