ギュムノーず(6)
「あれ?それデータにして送ったんじゃないの?」
「送りはしたけど、再現したものと実物を見るのとじゃわけが違うからな。データを送ったのは、万一コイツらが無事に転送できなかった場合を考えると、送っといた方がアンパイだからだ」
ふうん。そんなもんか。
一瞬納得したけど、よくよく考えると気になることを言っている。
「なあ、無事に転送できないなんてこともあんの?」
「う〜ん、分子レベルまで分解して再構築するんだけど、過去から転送する場合、再構築にズレが生じる可能性もなくはないんだよ」
それを聞いて、一気に不安になった。
「てことは、俺自身も転送できない可能性があるんじゃないか?」
口に出すと、さらに不安が押し寄せてくる。
それに気づいたのだろう、宝珠がヒョイっと目の前でくるくると回りながら説明してくれた。
「安心せい。我らは特異能力があるからこそ、転移装置が不要なのだ。転移装置内で行われる分解・再構築とはわけが違う。転移装置では外部からそれが行われるが、我らは内部、つまり我ら自身で行うことになる。だから、再構築できないことなどないのだ」
う〜ん、言ってる意味がよくわからないけど、つまりこういうことか?
周りから強制的に分解・再構築させられるのと、自ら分解・再構築を行うのとでは、成功率が違う。前者は失敗も有り得るけど、後者に失敗はない。
無理やりさせられるか、すすんでやるか。
考えていると、親父に声をかけられた。
「そろそろ転移させるぞ」
わかったと言って、なんとなくカゴに入れられたやつらを見た。
捕まえてから、球も八面体もすっかり大人しくなっている。もちろん、同心円の気持ち悪いものも感じられない。
だけど・・・
「なあ、よくわかんない物を送っちゃって大丈夫なんか?」
「うん?」
「何か良くない物が入り込んでるとか、取り付けられてるとか、そういう心配はないのかよ」
「ああ、それは大丈夫だ。この転移装置の中で再構築しながら、徹底的に危険要素をスキャニングするからね。それに、ビカクがいるから大丈夫なんだよ」
「ビカクさん?」
「ああ、いまにわかるよ」
そう言って、フフンと笑った。
「さて、ここから出るぞ。まずは父さんが周りの安全を調べるから。といっても、この時代のこの場所に危険要素は無いけどな」
「これに乗ってくんじゃねぇの?」
「これは荷物だけだ。俺たちは俺たちで戻るんだ」
「げ〜、面倒臭せぇな」
「我慢せぃ。さっき言ったとおり、これに乗るより自分らで戻った方がよほど安全だわい」
宝珠が目の前でくるりと回った。
そうだった。転移失敗なんて考えたくもない。さっさとこの場から立ち去ろう。
親父が先に出て安全を確かめると、いそいそとそれに続いた。
一歩踏み出ると、サッと景色が変わった。そこに白い空間は跡形もなく、空に青いオーロラがあるだけだ。
「リドレイ、いいぞ」
親父の言葉を合図にオーロラは消え、お宝たちは旅立った。
その後、俺たちはブー子に宝箱を渡しに行ったわけなんだけど、ビカクさんの能力を聞いた今になってようやく、親父の言っていた意味が理解できた。
ビカクさんは危険だと判断できる能力を持っている。だから親父は俺の質問にも、「ビカクがいるから大丈夫」と言ったんだ。
「して、ビカク。あの球は色々と細工されておったようだが、問題なかったのか?」
ここまでジッと押し黙っていた伯父さんが質問した。
なんだ、起きてたのか。静かだから、てっきり寝てんのかと思った。
「年寄りはすぐ寝るからな」
やっべ!思わず声に出しちまった。
慌てて口を押さえたけど、時すでに遅し。
シー・・ンと静まり返ったみんなの視線が、俺に集中して痛い。
終わったー・・・
その瞬間、期せずしてドッと笑いが起こった。
「アッハッハ!藍善も形無しだねぇ」
「当め、言いおるわ」
親父とリドレイさんは、なぜかお互いを指差し合いながら笑っている。
良かった〜・・怒られなくて。
「あの球はね、コントロールされてただけさ。まあ、ラジオコントロールカーのようなもんさね」
「例えが古っ」
親父が笑った。
「こんのぉ!」
ビカクさんが笑いながら手を振り上げて、親父も笑って避ける仕草をした。
「でもさぁ、ラジコンってナイスな表現だよ。あの球は、何かに命じられたとおりの動きをしてたんだからね。コロクノカルムはただの金属のはずだけど、何か細工があるんだろうなぁ〜」
リドレイさんは、両手を投げ出してテーブルに突っ伏しながら考え込んでいる。
リドレイさんほどの人をここまで悩ませる火星人って何者なんだ?・・まあ火星人なんだけどね。
ピロンピロンピローーーーーン・・・
突然、明るいチャイム音が響いた。
瞬時に親父と宝珠が反応して飛び出していく。
上から音がしたような気がして、なんだぁ?とばかりに顔をあげた俺とは対照的だ。
「緊急招集だ。行くぞ!」
「え?は、はいぃ?」
見ると、親父は既に部屋から出るところだった。宝珠に至ってはとっくに見えなくなっている。
ワタワタと親父と宝珠の後を追いかけた。置いていかれたら、どこがどこやらわからないから、こっちも必死だ。
「急げ!!」
「ほらリドレイ、行くよ〜」
ビカクはゆっくり立ち上がると、アタル達の飛んでった方へ歩き出した。
「いや、ボクはすぐ対応できるように、作業室にいなくちゃ!」
慌てて専用部屋に向かおうとするリドレイに
「いいや、危険はないよ。だから、作業室に行く必要はないさね」
と言って、クックックと楽しそうに笑っている。
「え?なに?なんか知ってるの?」
リドレイの左のウサ耳が垂れた。
聞き耳を立てようとする自分の気持ちを感じ取って、自然に動いてくれるようにプログラムしてあるのだ。
「えぇ〜。知ってるなら教えてよぉ〜」
「ほれほれ、いいから早く行くよ」
リドレイと一緒に歩きながら、
「これから面白いことが起こりそうなんだわ」
ビカクはそう言ってニンマリと笑った。




