ギュムノーず(5)
あの時、宝箱をゲットした俺たちは、リドレイさんから指示があった座標まで、宝箱を運ぶことになった。
目下のところ、目的地を目指して折り畳み式台車を押している。もちろん載っているのは宝箱だ。
さっさと届けて、すぐにでもお宝をゲットしたい俺としては、まったく面倒臭いことこの上ない。
「何でそこまで運ぶ必要があんだよ〜」
親父と2人でガラガラと台車を押しながら、さっきから文句を垂れ流している。
「仕方ないだろう。エースである俺たちと、一部の金星人だけが、過去に行くことを許されている。許されてはいるが、携行品以外の持ち出しは禁じられているんだよ。この宝箱は、携行していたものではない。それを持ち出すわけだから、許可を得た特殊な転移装置が必要なんだ」
「だから、それはわかったって。なんでここに転移装置を出せないわけ?俺はそれを訊いてるの。わかる?」
「だから、父さんにもわからないんだってば」
2人ともイラついていて、お互いに攻撃的な物言いになっている。
「カカカカカ!」
ずっと黙っていた伯父さんが突然笑い出した。
「お前たち、さっきから同じことを何度目だ。レコードの針が飛んだみたいだの」
「なに?レコードの針が飛ぶって?」
不機嫌に言い返した。
「藍善さん、そんな古い言い回しは、今どきの子に通じませんよ」
親父もつっけんどんに返している。
俺たちの塩対応が効いたのか、伯父さんは「おぉコワッ」と言って宝箱の上に乗っかってしまった。
リドレイさん曰く、なるべく近くに転移装置を送ろうとして何度調べても、俺たちの存在している座標は海の上になるらしい。
「スコープの地図には、ちゃんと表示されてたじゃん!」
「ああそうだ。それもリドレイには言ったが、ヤツにもわからんそうだ」
「えぇ・・。リドレイさんにもわかんかいのかぁ」
ガックリとうなだれた。
「リドレイさんがわかんないじゃ、しょうがないよなぁ」
「・・お前、リドレイのことは、ずいぶん信頼してるんだな」
「まあね」
ふん。当たり前じゃんか。リドレイさんは、レベチなんだよ。
「でもさぁ、俺らの座標は合わないのに、リドレイさんの指定した座標が合ってるって保証はあんのかよ」
「知らん」
「えぇ〜っ!わかんないのに運ぶのかよ。無駄かもしんないじゃん」
「それでも運ぶんだ」
「でもさぁ」
「運ぶんだ!」
「カカカカカ!何事も試さねばわかるまいて」
自分はいいよな。どっかりと宝箱に座ってるだけなんだからさ。
ムカつきながらブツクサと台車を押し続けた。
「よし、指定の場所はこの辺だな」
「ふえぇ、くたびれた」
「お疲れさん。体力的に疲れるなんてことはなくても、やっぱりしんどいな」
親父はそう言うと、リドレイさんに到着を告げた。
「エースよりジャックへ。おーい、リドレイ着いたぞ」
「うむむむむ。かなりズレてるなぁ」
マジかぁ・・。結局無駄だったってことじゃん。
ガックリと肩を落とした俺の頭をポンポンと叩きながら、親父が別の提案をした。
「こうなったら座標は無視しよう。何かを目印にすればいいんじゃないか?」
「そうだね〜、今いるのはどの辺り?」
「そろそろ低木から大木に変わり始めるな。うん?ここから1kmくらい先に水場があるぞ。菱形っぽい池・・かな?うんそう池だ。池がある」
1km!?結構運ばなきゃじゃん!!・・絶望。
「OKちゃ〜ん!その辺りで菱形っぽい池のほとりに転移装置を送るよん。今度は上手くいきそうだぞ!」
「俺たちもそっちへ移動するよ。じゃ、あとでな」
親父はリドレイさんとの会話を切ると、俺に向かって
「というわけだ。行くぞ」
と言って肩を叩いた。
池のほとりといっても、ぐるりとした周囲のどこかはわからない。
「これもお宝のためだぞ。ほれ進め」
そうだ。お宝が俺を待っている。
伯父さんの掛け声に励まされながら、池の縁に沿って運んでいると、遠くの空に青いオーロラみたいな光が見えた。
「やあ!あったぞ!」
親父の言葉で、あれが転移装置なんだとわかった。
「ほえ〜。すげぇ綺麗なもんなんだな」
思わず魅入ってると、
「ほら、あの光の下へ運ぶんだ。あと少しだから、頑張ろう」
と尻を叩かれるようにして、ヒィヒィ言いながら宝箱を運んだ。
青いオーロラの下は、目の前の景色がただ広がっているだけだ。
「何もねえじゃん」
はぁ〜と失望の溜息をついた俺に、伯父さんが
「オーロラの真下に行けばわかるぞ」
と言った。
半信半疑でオーロラの(たぶん)真下に入ると、世界が一変した。
「えぇっ!?何だこれ?」
まるで自動ドアで中に入ったように、スッと周囲の景色が消え去った。そこから外部は全く見えない。ただただ白いだけの世界になった。
「え?何ここ?何も見えねえじゃん」
思わず台車のハンドルから手を離して、周りをキョトキョトと見回していると、親父が
「俺たちと俺たちが持ち込む物以外は、何も入り込めないように、外部と遮断されている全く別の空間なんだよ」
と言った。
「え!じゃあ、例えば虫とか飛んできたらどうなんの?」
「ここを通過する。何事もなかったようにね」
ほえぇ。そんなふうになってんのか。
「じゃあさ、俺たちがこうやって運び込んだりしてる間に、外に恐竜とかいたら・・」
「この時代に恐竜なんていないよ」
畳み込むように言われてドキリとした。
やべぇ。とっくに絶滅してるって言ってたっけ?
「た、例えばだよ、例えば!」
ハッタリは大切だ。とりあえず誤魔化すことにして、知ってる風を装った。
親父は「本当は忘れてたんだろ」と言わんばかりの疑いの目を向けていたけど、諦めたようだ。
「だから、ここから出る時は気をつけなきゃならないんだよ。そんな心配をしなくてもいいように、リドレイと安全な座標を決めようとしてたんだけど、なぜか上手くいかなかったってわけだ」
親父はそう言いながら、カゴのようなものに入れた球と八面体を、宝箱の横にヨイショと置いた。




