ギュムノーず(3)
「あのー、もう1回訊きますけど、ほんっとーに『purple gems』なんですか?『パープリンジェームズ』とか、別のバンドってことないですか?」
「なんだそれは?私は正真正銘ディジュリドゥだよ」
「ブハッ!」
そのとき誰かが吹き出した。
見ると、親父とリドレイさんが肩を組んで・・というより、肩を叩き合ってゲラゲラ笑ってるところだった。
「お前と朝芽が一日中聴いてるのは、間違いなくそいつの曲なんだよ」
「えぇーっ!?親父知ってたのかよ!」
「当たり前だろう。朝芽が目をハートにして「ディジュリドゥ様ぁ」なんて言ってるのを見ると、可笑しくって可笑しくって。笑いを堪えるのに必死だったよ」
がーーーん!超ショック!
いやいや、俺としては歌詞と曲がいいんであって、たとえスパーバムさんがディジュリドゥだったとしても、問題ないはずだ。そう、くどくどしい歌詞に中毒性があって、曲もクセになるわけだから、スパーバムさんの創作だからといって、価値が下がるわけではなくて・・
「おーい、さっきからブツブツ失礼なことを言ってけど、全部ダダ漏れだぞー」
親父に言われてハッと気がついた。
こっちを見ているスパーバムさんと目があって、瞬時に顔が熱くなる。
「あ!あ!す、すいません!」
「アタル〜。すみませんだよ〜」
親父とリドレイさんにゲラゲラ笑われて、いっそう顔が熱くなった。
「フハハハハ!」
笑い声に驚いて見ると、スパーバムさんが天井の方を向いて笑っている。
へ?
「気にすることはない。私の曲を気に入ってくれてることには変わりないからね」
「ゴーストライターとかは・・」
「コラコラコラコラ!」
親父に止められて、慌てて両手で口を塞いだけど、口から出ちゃったものは引っ込められない。
「ハッハッハッハ!そんなに信じられないかい?」
頭をコクコクと激しく縦に振った。
「じゃあ、私を見ていてくれ」
スゥー・・
「え・・?え・・え・・?」
目の前には、長めで少しクセのある無造作ヘアをした、彫りの深いアラブ風イケメンが立っている。
「は・・え?・・ど、どちら様・・で?」
イケメンはニヤリと笑うと
「スパーバムだよ」
と言った。
・・・・・・・
「え!?えぇぇぇーっ!?」
服装も全く違う。
さっきまでは、汗染みのついたオレンジ色のイタいTシャツをズボンインして、トイレサンダルを履いていた。
それが、今はどうだ!
黒いカッターシャツを黒いパンツの中に入れ、革のジャケットを羽織っている。靴は黒のショートブーツだ。
「もー、からかわないでくださいよ。本物のスパーバムさんはどこですか?」
「ふふん。じゃあ、私を見ていてくれ」
スゥー・・
「ほえぇ・・?」
そこにいたのは、ピッタリとしたオレンジ色に、よくわからないアニメのヒロインが描かれたTシャツを着て、トイレ用サンダルを履いたスパーバムさんだった。
「あ、あれ?さっきのイケメンさんは?」
キョロキョロ周囲を見回す俺を、みんなが笑っている。
「アッハッハ!アタルが驚くのも無理ないよ。これがコイツの能力なんだわ」
ビカクさんが言ってる意味が、サッパリわからなくて首を捻っていると、「そう、特性」と言ってスパーバムさんが説明を始めた。
「エースの能力は過去にいけることだ。特別なユニフォームを身に纏ってね。ならばクイーンたる私の能力は?それは見た目を自由に変化させることだ。好きな時間、好きな場所、好きなタイミングでね。それから、こんなこともできるぞ」
そう言って、スパーバムさんが3人になった。
「あ・・え・・へ?」
「ニンジャ風に言うと『分身の術』ってとこだな」
スパーバムさんはまたしてもお腹を揺らして笑った。
「ボクたちには、それぞれ部隊ごとに与えられた能力があるわけよん。ちなみにボクは加速、計測、推測etc.。色んなことにピンピーン!と素早く勘づいちゃうわけ。加えて周りの物、機械とかね、そういうのを加速させることもできちゃうんだよ。ガチすごいっしょ!おまけに、」
「う、うわぁっ!?」
リドレイさんの腋から細〜い手が何本も出てきて、思わず尻餅をついた。
「名付けて『秘技!千手リドレイ』!この手の一つ一つに脳みそみたいな機能があってね、単純作業だったら何でもこなせちゃうんだよ〜」
リドレイさんは、例の屈託のない笑顔を向けてくれたけど、それが逆に怖い。
ば、化け物・・?
まさかギュムノーって・・化け物集団・・なの?
目を白黒させている俺を見て、ビカクさんがまたしても声をあげて笑った。
「アッハッハ!初めて見たら、そりゃあ気持ち悪いわよね。だけど、タコで考えてごらんよ。岩に擬態する時なんかは、表面に突起までできるでしょ。タコとかイカの皮膚はね、『乳頭突起』っていう小さな突起で覆われてるのよ。これを使って、色んな形を作り出してるってわけ。リドレイの手も、スパーバムの見た目も、これと同じようなもんよ。コイツらだけじゃなく、アタルの能力だって十分特殊なんだわ」
う〜ん、確かにどの能力も特殊かもしれない。
「あ。じゃあビフルさんも何か能力があるってことですよね?」
「アタシかい?アタシの能力はね、」
そう言った後、ビフルさんは押し黙ってこっちを見た。
こっちを見て・・あ・・・・・。
パンッ
手を叩く音で我に返ると、逆立ちで胡座をかいてる。
「え?・・へ?・・うわぁ!」
ドサッ
「痛ってぇ〜・・」
しこたま背中を打ってしまった。
「あれ?え?なんで?・・」
パンッ
再び我に返ると、膝をついた俺の口に、リドレイさんがチューブわさびを入れていた。
「グエッホッ、グェッ、カッ、オェェ・・」
激しくむせながら、リドレイさんが渡してくれたビニール袋に口の中身を吐き捨てる。
「ごめんごめん、もったいないからちょびっとしか入れてないんだけど、そんなに苦手だった?」
リドレイさんはそう言いながら、これ飲むと収まるらしいとコーラをくれた。
「これよ」
涙と鼻水を出しながら声のした方を見ると、
「これがアタシの能力なのさ」
ビカクさんはそう言ってウインクした。




