ギュムノーず(2)
「なぁに〜?騒がしいわねぇ」
シュッという音がして、砂時計みたいな身体つきをした年配の女の人が、眼鏡を外しながら出てきた。
丸顔でガッツリメイク。左右の目の色が違う。なんていうんだっけ・・そうだ、確かオッドアイっていったはず。青と金の瞳がとても美しくて、思わず見入ってしまった。
白髪の混じったクリンクリンの金髪で、肋骨折れてんじゃないか?ってほどウエストが細い。細いウエストに強調されて、胸もすごけりゃお尻もすごい。ボンッ、ギュウウッ、ボンッって感じだ。
「やだ!あんた達やっと来たのね!どうりでリドレイが大騒ぎしてると思ったわよ。ちょっとリドレイ!アタエ達が来たんだったら、さっさと教えなさいよ!」
迫力ある響きでリドレイさんをどやしつけている。
「あら?なにあんた泣いてんのよ。情けないわね」
泣いてる理由も訊かずに、ひどい言い草だ。
「今日はアタルを連れてきたのね。はじめまして、アタル。ジョーカーのビカクよ」
この人がビカクさんか!
ジョーカーはギュムノーの司令塔だ。
集まった情報を分析したりして、的確な指令を出す重要な役割を担っている。
ビカクさんがジョーカーっていうのは、すごくピッタリな気がした。風格があるというか、強さと賢さを兼ね備えた鋼鉄のキャリアウーマンってとこかな。
「なになになになに、アタルが着いたんだって?良かったよ、出かける前で。私もぜひ会っておきたかったからな」
野太い声がしたかと思うと、ダスダスという足音と共に何かがヌウッと現れた。
なななに?イ、イ、イノシシ?
驚いて一瞬ビクッとなったけど、てっぺんが薄くて散らかった髪形をした、卵型のオジサンだった。
「私はクイーンのスパーバムだ。よろしくな」
クイーンってことは、諜報だよな?
こんな目立つ見た目で、諜報活動なんてできんのかな?
それがすごく不思議だった。
スパーバムさんが、何やらずっとしゃべってるのをいいことに、適当に相鎚を打ちながら観察してみる。
お腹だけじゃなくて背中にも肉がついていて、肉厚な体をしている割に、頭は丸顔ながら普通サイズより一回り大きいだけだ。そして、足はというと、太ももまでは太いけど、先細りになっている。
このバランスのせいで、雪だるまじゃなくて卵な見た目になってしまうんだな。
太い眉毛で彫りの深い顔立ちは、もしかしたら痩せればイケメンなのかもしれない、と思えなくもない。わかんないけど。
ただ如何せん清潔感がない。
ピッタリとしたオレンジ色に、よくわからないアニメのヒロインが描かれたTシャツは、汗でシミができている。んでまた、そのTシャツをズボンの中に突っ込んでるのがイタ過ぎる。
それに足元!なんだってサンダルなんだよ!黒くて田舎の祖母ちゃんちのトイレ用サンダルみたいだ。
視線をうろうろさせていたからだろう、ビカクさんが
「アハハハハ!びっくりするわよねぇ。汚らしく見えるけど、お風呂はちゃんと入らせてるから安心していいわよ!」
と訳の分からないフォローをしてきたのを聞いて、マシンガントークをしていたスパーバムさんが話しを止めた。
「失礼だな。私はスーパースターなんだよ?風呂には絶対入るに決まってるだろう、まったく」
「そうだったわね。スーパースターなんだった。アッハハハ!」
「スーパースター?」
頭の中にハテナマークが浮かんだ。
「そうよ。コイツはね、こう見えて世界的なバンドのボーカルなのよ」
そう言ってビカクさんが盛大に笑うと、スパーバムさんがニヤニヤしながら言い返した。
「ちゃんと正確に言ってくれる?私はドラム兼ベース兼ギター兼ボーカルなんだから」
「え?え?ちょっと待ってくださいよ。全部1人でやってんですか?」
「ああ、そうだよ。他人に合わせるのは面倒だからね。それに、諜報活動には他人がいたら邪魔でしょ」
「ほぇ〜。そういうもんなんすね」
だからさ、他人のこととやかく言う前に、こんな見た目してる方が諜報活動の邪魔になんじゃね?
な〜んて思ってることは、おくびにも出さないように気をつけなければ。
でも1人4役って、普通に考えてもムリゲーだろ。
それは置いとくとして、当然誰もが考えるであろう疑問を口に出した。
「バンドしてたら目立つし、諜報活動に向かないんじゃないですか?」
すると、俺にグッと顔を近づけてきて、
「そう思っちゃったか」
と真顔で言ったあと、クツクツと笑い出した。
「いやいや、これが逆なんだよ。私ほどの超が付く有名アーティストになると、海外渡航なんて日常茶飯事だから、出入国で怪しまれる事なんかないしね。中枢になる人物からの招待だったとしたら、VIPしか入れないような場所に入るなんて事も朝飯前だ。なんたって、招待客に失礼はできないからね」
「世界的ってことは、結構有名なバンドだったりするんですか?」
なんだかすごい自信だけど、スーパースターなんて大袈裟だなぁと思いながら、一応礼儀として訊いてみた。
「『purple gems』って言うんだ。聞いたことないかい?」
ん〜?パープルジェムズ?パープルジェムズねぇ・・
・・・・・・・・・・・
なぬ!?パープルジェムズ!?
「え!?えぇぇぇぇっ!?パープルジェムズって、あのpurple gems?え?違いますよね?え?」
「たぶんそのpurple gemsだよ」
スパーバムさんはお腹をユサユサ揺すりながら声をあげて笑った。
「ええぇぇぇっ!?でもでも、俺の言ってるpurple gemsはメンバー3人のバンドで、ディジュリドゥがボーカルとギターやってるんですよ。スパーバムさんは1人でやってるんですよね?」
スパーバムさんは、いたずらっ子のようにニヤリとして
「俺がそのディジュリドゥだよ」
「えぇぇぇーっ!」
衝撃の事実に頭がくらくらした。




