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訓練所(2)

すげー!すげー!と走り回って、あちこちで

「わーー!」

と言っては響きを楽しんだ。

やまびこのように反響が楽しめるところ、風呂場のように残響を楽しめるところ、まったく響かないところ、1歩動いただけで、響きがガラリと変わる。だから、声を出しながら走ると、まったく違った響きになるのが面白い。こんなの初めてだ。

「親父ー!面白いな、ここどこなんだよ!」

離れたところから叫んでみる。親父は楽しそうな俺を見て満足げだ。

「富士山の地下だ」

「え!?富士山の地下に、こんな空洞あんの??」

「マグマ溜まりの更に下だから、噴火の影響も無い。いまの地球人では発見できないな」

ほぇ〜。こんな場所が霊峰富士の地下に広がってるとは、みんな夢にも思わないだろう。

「ここは、いろいろな音響効果を得られるようになっている。僅かな音を聞いて、音源がどこなのかを瞬時に判断する訓練をするところだ。

「え!?こんなだだっ広いとこで?」

「そうだ。ナノ、どこだ」

「ここにいるよ!」

「うわっ!」

透明でイボイボしたボールが空中にヌッと浮き出てきた。出現の仕方がジジイと同じだ。

「なにこいつ〜!可愛い〜〜」

ふわふわ浮かんだイボイボールは、うっすらと発光していて、中には小さいボールがたくさん浮かんでいる。昔、何かの授業で見た物に似てるな。あれは何だったっけ?

「触るな!!」

親父に怒鳴られて伸ばした手を引っ込めた途端

ジャキーン!

とイボが伸びて棘に変わった。 

「うわぁ!?」

「ナノ、こいつは俺の息子で、新しくギュムノーになったんだ。敵じゃないから棘は引っ込めてくれ」

シュンッという音がして、棘は元通りイボに変わった。

「こいつはナノといって、人工知能搭載ロボットだ。まだお前を紹介してなかったから、自衛したんだよ」

「じ、自衛って・・」

すっかりビビった俺は、親父の背中に隠れて消え入りそうな声で訊いた。

「ナノの体の中にある小さなボールには、それぞれに異なる機能や知識が入っているんだ。それを悪用されないように、できる限り自衛するようになっている。今のようにトゲボールになったり、例えば・・」

「もういい。聞きたくない」

「そうか?安全だとわかれば触らせてくれるぞ」

「もういいって」

ナノと呼ばれたイボイボールは、こっちを向いた親父の手の平の上でポインポインと跳ねている。可愛い見た目と相反する機能に、げんなりした。どんなに可愛い物でも、この先要注意!絶対に触らないぞ!

「このナノに、訓練を手伝ってもらう。さっき見てわかったと思うが、ナノは周囲の色に溶け込む事ができる。簡単に言えば擬態だな。見えないだけで、存在はしてるんだ」

「へぇー」

もはや何の感情も浮かばない。

特にコイツは突然棘をだすボールだ。油断ならな・・・え?手伝う?いま手伝うって言った?

「え?待って待って、こんな恐ろしいボールが俺の訓練を手伝うっていうの??刺さっちゃうじゃん!」

「いや、だから紹介したんじゃないか。もう敵じゃないってわかってるから、ナノも棘なんか出さないよ」

親父はそう言ってるけど、こっちを見ているイボイボールの目が意地悪く光ったのを、俺は見過ごさなかった。

「こんな危険なヤツに手伝ってもらうなんて、死んでも嫌だね」

「まあ、そう言うな。1人じゃ無理なんだから」

「親父がいるじゃん!」

「父さんは、長老のところに行ったり、他のギュムノーに進捗状況の確認に行ったりしなきゃいけないんだ。こう見えて暇じゃないんだぞ」

「でも時間止まってるんでしょ?」

チッチッチ

親父はまた人差し指を立てて左右に振った。カッコつけてるのか知らんけど、これがウザいんだ。

「金星人は止まらないのさ」

なんだそれ?

「だったら、他のギュムノーが時間を止めてる時は、俺らも止まらないの?」

「そういうことも昨夜説明しようと思ってたのに、お前が帰りたがったから」

「はいはい。俺が全部悪いって事ね」

「そうだよ。全部お前が悪いんだ」

そう言って親父はニヤリと笑った。

カッチーーン

そんなことないよ、という返事がくるとばっかり思ってたから、大いにムカついた。

親父って、こんなに大人気なかったっけ?

まあいい。今回は自分から言い出したから、ここは俺が大人になって我慢することにした。

「とりあえず、座るか」

親父がそう言うので、2人で地べたに座った。土、というより岩なんだろうな。ヒンヤリと冷たい。ナノと呼ばれたイボイボールはふわりと浮かびあがると、俺たちの周りをヒヨヒヨと回っている。こうしていると、すごく可愛いんだけどな。

「じゃあまず、時を止める仕組みを話そう。10人の長老のうち、5人はテレステの使用許可権限を持ってるんだっていうのは覚えてるよな?」

「うん。で、じいさんは惑星と衛星へのテレポート許可なんだろ」

「じいさんって・・」

親父は苦笑したけど、じいさんはじいさんだ。

「ま、いっか。じゃあ続けるぞ。惑星と衛星へのテレポート許可権限を持ってる長老は、あと2人いる。残りの2人が時の管理人だ」

「時の管理人?」

「ああ、そうだ。最重要ともいえる機械を使用する権限を持ってるんだ。だから、父さんは時の管理人って呼ぶことにした。なんかカッコいいだろ。この呼び名でいこうと思って、もっか普及活動中だ」

親指を立ててニンマリした。

本当に俺の親父?キャラが変わってるんだけど?

「ねぇ、親父って、そんな陽キャだったっけ?」

今までの親父像は、所謂「真面目なお父さん」だ。

あまり冗談を言うわけじゃないし、そもそもおしゃべりではない。俺のことも朝芽のことも叱る時は理路整然ときっちり叱って、声を荒げることもなかった。

「そりゃあ、子どもが産まれたら「父親」になるさ。お前が産まれた時、母さんに「父親の自覚を持て!」って何度も叱られたからなぁ。それこそ、子どもは親を見て育つんだ!って何度も何度も言われたよ。だから、家では「父親」をすることにしたんだ。母さんと離婚したくなかったしね」

「今は父親じゃないの?」

「父親だよ。父親だけど、お前は息子であると同時に同僚だ。いつまでも子ども扱いしてたら、お前にも失礼だろ」

そう言って俺にウインクした。

「ほらまた話が脱線した。時を止める仕組みの話をするぞ」

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