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ギュムノーず(1)

「やあ!アタル!はじめましてだね!」

両手で俺の手を握って、ぶんぶんと振っている。

初めて会ったリドレイさんは、底抜けに明るい人だった。

うわぁ・・!綺麗な人だなぁ。

というのが、僕の第一印象だ。

菫色の瞳を持つハッキリした目鼻立ちの、黒縁眼鏡をかけた長身極細身のイケメンで、ストレートで肩下まであるさらさらな白髪を、なぜかウサ耳のカチューシャでまとめている。

肌はもちろん、眉毛も睫毛も真っ白で、まるで雪の精みたいだ。

大きな口が印象的で、笑うと眉毛も目尻も垂れ下がり、思わずこっちまで笑顔になった。

今いるこの部屋はジャック、つまり技術を担当する2人のための部屋で、親父が真っ先に連れてきてくれたのがここだった。


「やっぱ何もないんだな。白い穴に落ちたみたいだ』

キョロキョロと見回す俺を見て、伯父さんは

「なんの。慣れれば違いも直ぐにわかるんだがな」

そう言って面白そうに笑っている。

何もかもが白い、まるで空間のような通路・・通路かどうかも解らない・・を進むと、親父がおもむろに立ち止まった。

扉を開く儀式をするんだろう。

『儀式』なんて、俺が勝手に思ってるだけなんだけど、こめかみに指先をあてて何かを唱えるなんて、普通に考えて扉を開ける動作じゃない。

今回もまた、壁際で親父が呪文を唱えると、シュッという音と共に壁が消えて、車が1台通れるくらいの通路が現れた。そのまま進んでいくと、広い空間に繋がっている。

後になって考えてみると、真ん中に空間を設けた蜂の巣のようだ。

空間には丸いテーブルがポツンとおいてあって、なぜか椅子はなかった。

親父によると、今いる空間を囲むようにして、部隊の数プラス3つの扉が配置されているそうだ。

なぜ「そうだ」と言ったかというと、俺にはただの白い壁にしか見えないから。消えたり現れたりする扉だからだ。

プラス3つの扉は、それぞれ倉庫、加工、分析など、様々な用途に分かれている。主にジャックが使っているから、親父も何があるのか把握していないと言っていた。

説明しながら歩いていた親父が、ある場所まで来ると立ち止まって、

「リドレイ、きたぞ〜」

と声をかけると、どこかからくぐもった声がした。

「合言葉を訊け」

訊け?逆に確認しろってこと?

聞いたことがない合言葉の確認方法に首を傾げている俺を他所に、親父はニヤリと笑った。

「キャロライン」

「馬鹿力」

「ブフッ!アッハッハ!俺の負けだ」

親父の笑い声が響くと、扉がシュッと開いてリドレイさんが飛び出してきた。

「イェーイ!我が友、会いたかったよー!」

リドレイさんは親父に抱きついた後、2人で

「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ、ハーイ!」

お約束のジェスチャーっていうの?秘密の握手みたいなのをやって、最後にハイタッチした。

「アイツらは、昔からあんな事ばかりやりよるのだ」

・・・想像と違うというか、想像通りというか。

「やあ!アタル!はじめましてだね!」

リドレイさんは「握手!握手!」と言いながら俺の両手を取ると、

「いやぁ、プッ、そのおかしなユニフォームめちゃくちゃ似合ってるよ!ククク。今日はさ、アタエだけじゃなくてアタルと藍善さんが来るはずだからって、さっきまでみんなで待ってたんだよ。なかなか来ないから、みんな一旦部屋に戻っちゃった。ボクはウズウズしちゃって、も〜う居ても立っても居られなくなっちゃって、ウサギちゃんとココでこうやって待ってたってワケよん」

そう言って、壁に張り付く仕草をした。

ちぇっ。他人の服を何度も笑いやがって。いくらリドレイさんでも、ひどいんじゃね?

若干のムカつきはあったけど、それより気になったことがある。

「ウサギ飼ってんすか?」

思わず周りをキョロキョロ見回したけど、ウサギなんてどこにもいない。

「ん〜?飼ってるわけじゃないよ。ちょい待ち」

そう言って部屋へ戻って連れてきたのは、くったりとしたデカいウサギのぬいぐるみだった。

ウサギの頭はリドレイさんのそれより大きくて、足の先は膝くらいまである。

「え!?ぬいぐるみ?」

「しっつれいな子だねー!キミは!」

リドレイさんは両頬をぷうっと膨らませると、俺からぬいぐるみを奪い取った。

「この子はぬいぐるみなんかじゃない!ボクの大事な友達だよ!」

「・・あ、はい。すみません」

え〜、なんかヤバい臭いがする。

なんだよ、ウサギのぬいぐるみが友達って。

よく見ると、モスグリーンのTシャツにもウサギのワンポイントが入ってるし、腰に下げてるのは小さなウサギのぬいぐるみだった。

なんかちょっと、言動にも子ども入ってるし、めちゃくちゃ変わった人なのかもしれない。

「まあ、わかったんならよろしい。ウサギちゃんて呼んでやってくれ。それはそうと、」

今度はリドレイさんが、周りをキョロキョロ見回した。「藍善さんは?あの爺さん、まだ長老んとこにいるの?長老のこと、大好きだからなぁ」

それを聞いて思い至った。

そうか。リドレイさんが最後に会ったであろう20年前は、伯父さんは当然人型だったわけだから、目の前の宝珠になってるなんて夢にも思ってないんだ

「クックック」

親父が悪い顔をして笑っている。

どうしよう、リドレイさんに教えてあげたいけど、余計なことして伯父さんに叱られたくないし。

「爺さん同士で何の話ししてんだか。どーせ、年寄りお得意の、健康の話とか温泉の話だろうなぁ。腰が痛いだの腕が上がらないだの言ってんじゃないの?あ!長老は温泉なんて入んないし、手じゃなくて足だから肩とはいわないか〜」

そう言ってゲラゲラ笑っている。


ボゥワッ


突然、宝珠から火柱があがった。

「うわぁ!?」

リドレイさんは飛び上がって驚くと、

「アタエ、なんか燃えてるって!早く消さないと!」

大騒ぎで消化器を探し始めた。

「俺ばかりか、長老のことまで愚弄しおって!」

「あ、あ、あ、藍善さん!?」

「そこへ直れぃ!」

「うわぁぁぁっ」

「プッ!ブァッハッハッハ」

なぜかはわからないけど、リドレイさんは涙を流しながら、満面の笑顔で逃げ回っていた。

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