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キャロラインの遺物(16)

金星人には男女のない区別がない?

にわかには信じられないんですけど。

だってじいさんじゃん?

あれ?

もしかしたら、俺がじいさんと思ってただけで、本当はばあさんなのか?

ブー子の言動は、どう見てもメスじゃないの?

あ、メスって言ったらダメなのか?女の子か?

あれ?そもそも男なのか?

そしたらブー助とかブー太郎に改名しないとダメじゃね?

思考回路がすっかり混乱してしまい、その結果、どうでもいい事のほうが気になった。

俺の理解の範疇を超えている。頭の中がグチャグチャだ。

そんなことを知ってか知らずか、じいさんは話し続ける。

「すべての金星人には、卵を作る卵胞らんほうという器官と、卵袋らんたいという卵を育てる袋があってな、卵胞から出した互いの卵を、どちらかの卵袋に入れることで卵が融合して、地球人で言うところの受精卵になるのだ」

「え?待って待って、卵はどっちが産むわけ?」

「そりゃあ卵袋に入れた方じゃな。そこである程度大きく育ててから、外に出すのだ」

「てことは、外に出してから巣で温っためるとかなわけ?」

「巣?我らは疾うに、そんなものは持っておらん」

「じゃあ、卵どうすんだよ。放っとくのか?まさか、水の中に入れとくとか?」

「何を言う。大切な卵に、そんな事するわけないじゃろう」

「じゃあ、孵るまでどうするんだよ?」

「孵るのではなく、孵すのだ」

「孵す?」

「そうじゃ。パカリと」

「パカリ?」

首を傾げる俺に、

「お主ら地球人もやるではないか。ほれこうやって」

そう言うと、2本の足を使って、卵を割る仕草をした。

「それってもしかして、これ?」

確かめるために、目玉焼きを作る時の要領でコン、コン、パカッとやってみせる。

「そうそう。そうやって赤ん坊が産まれるというわけじゃな」

「えぇぇぇぇー!?割って出しちゃうの!?」

「遥か昔、水中で生きておった頃は、赤ん坊は自力で殻を割って出てきたんだがのぅ、今は水分が蒸発しないように、殻が堅くなったんじゃ。そうなると赤ん坊の力では割れんから、親が割ってやるんじゃよ」

ほへー・・そういうのもあるのか。

星が違うと、勝手も違うもんだ。

でもそうなると、あれ?

「そしたら、なんでじいさんはじいさんなんだよ」

ん?俺変なこと言ってる?

言った本人でも、よくわからない事を言ってる気がして首を捻った。

「フォッフォッフォ。要するに、わしとキャロちゃんが、地球でいう男と女に分かれているのではないか、とうことじゃな?」

「そうそう!じいさんは男、ブー子は女だと思ってたんだけど」

「ふむ。地球人であるお前の目にはそう映るのだな。まあこのような姿であるから、性別で分けたがる地球人がそう考えるのもやむを得まい。生物学上、能力に違いが出ることもあるからであろうが、性別があるというのも、面倒なことよのぅ。金星人には性別はないがな、地球人と同じように個体での違いはあるのだぞ。目の大きさ、輪郭、足の長さ、太さ、力の強さ。身体の色や装飾などは、自ら自由に変化させることができるがな」

「えぇ!?じゃあ、じいさんは自分でこんなダルダルに垂れたデカい頭になってるってこと?」

「ダ、ダルダル!?そんなに垂れておらんわ!」

ん?なんか前にも、こんなやり取りした気がするなぁ。

「わしほどのよわいにもなると、張りもなくなるのだ。その点、キャロちゃんはプリプリじゃ」

じいさんがブー子の方を向いたので、つられるようにしてそっちを見ると、何やらゴソゴソやっている。

あいつ何してんだ?

と思った瞬間、さっき見た灰色の卵をしっかりと握ったまま

「長老さまぁ。きゅるるるるるる」

半べそで長老に泣きついた。

ゲゲッ!ブー子の奴また泣いてやがる。

「ど、どうしたんじゃ」

じいさんは慌てているが、反対に俺の方は冷めていた。

まったく、泣けばいいと思いやがって。

そんなことより、持ってたエセお宝はどうしたんだ?

見ると、本来なら宝箱だったはずの餃子箱に、メガネウラの羽がぶっ刺さっている。

とりあえず、唯一お宝と呼べるメガネウラの羽が無事だとわかって、ホッと胸を撫で下ろした。

そんな俺の様子を知ってか知らずか、ブー子はきゅるきゅる言いながら、じいさんに何やら訴えている。

「あっくんの卵が、ワタシのと融合しないんですぅ。きゅるるるる」

ズルッ

あまりのバカさ加減に、肩から崩れ落ちた。

「・・お前なぁ、俺は卵なんか産んでねぇっつってんだろ。さっきからその話ししてただろうが」

「だってぇ、ワタシが入れてないのに宝箱から出てきたってことは、あっくんが入れたんでしょお?きゅるん」

「知らんがな!」

「恥ずかしがっちゃってぇ。きゅるるる」

ブー子はニンマリしてグフグフ言ってるけど、当然ながら、まってくもって、俺にはさっぱり心当たりがない。

「ガチでもう勘弁してくれよ〜」

頭を抱えてしゃがみ込む俺を見て、じいさんがブー子に

「どれ、その卵とやらを見せてくれんか?」

と言った。始めは渋っていたブー子だったけど、長老には逆らえないのだろう、渋々「俺の」だと言い張る卵を、じいさんに差し出した。

「ふむ。これは・・少し模様が違うがジャイアントペンギンの卵に似ておるな」

「えぇ!?」

「宝箱の周りに無数のジャイアントペンギンがいたというのであれば、おそらくその卵が何かの拍子に宝箱に入ったんじゃろうて」

「そんなことない!」

ブー子は素早く手を伸ばすと、じいさんからひったくるようにして、自分の手元に卵を引き寄せた。

「これは絶対あっくんの卵なんだからぁ!きゅるん」

こ、怖え・・。こいつ頭おかしいだろ。

「仕方がない」

「へ?」

「そういうことだから」

「へ?」

「すまんが、しばらく我慢してくれ」

「えぇ!?なんだよそれ!」

カッと一瞬で顔が赤くなったのがわかった。もの凄く熱い。

このくそジジイ、ちゃんとわかってるくせしやがって。

「まあまあ。落ち着け」

「落ち着いてられるわけねぇだろ!くそジジイ!」

猛烈に腹が立って吐いた暴言・・俺にとっては、ジジイの方が暴言だけど・・に宝珠が反応して火を吹いた。何か言ってるけど、まったく頭に入ってこない。

「まあ、わしの話しも聞け。キャロちゃんは、ちぃっとばかし思い込みが激しくてな。あの卵は、見たところそろそろ孵化するようじゃ。何度も地球に言っておるから、頭の隅ではアタルが産むはずはないとわかっておるはずだから、雛を見れば納得するじゃろうて」

じいさんの言うこともわかる。

ここまできたら、その通りなのかもしれない。

「・・・それまで我慢しろってことか?」

ガックリと肩を落とした俺の肩を、親父が

「な。ちょっとの辛抱だよ」

そう言いながらポンと叩いた。

「しゃーないか。慰めてくれて、ありがとな・・」

ショボボンとしながら振り向くと、そこに満面の悪い笑みを浮かべた親父がいて、迷わずグーパンかましてやった。

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