キャロラインの遺物(15)
「きゅるるるる〜〜ん」
スチャッ
勢いよく出してきたのは、ゴザみたいな紙みたいな布みたいな代物だった。
「・・・・・何それ?」
「地上絵を描く時の下絵だきゅるん」
「・・・・・・・・」
「まずこれに描いてから、地面に拡大して描くんだよぉ。いろいろ試したんだけど、地上絵を描くのってすご〜く難しいのぉ。例えば、貝殻で線にするのは、強風で飛んでっちゃうからダメだったんだぁ。木を並べてみたこともあるんだけど、何年かすると腐っちゃったのぉ。石はいい感じだったんだけど、恐竜とか大きな生き物が蹴散らしちゃうしぃ。だから、層になってる地面に深く線を描いてぇ、下の層を剥き出しにするか、そこに石を置いてみることにしたんだぁ。そおしたら、結構いい感じにできたのぉ。でも、雨が降りやすいところだと、すぐグチャグチャになっちゃうからぁ、雨が降らないところを選ぶのがコツなんだよぉ。きゅるん」
なんだろう。腹が立ってきた。
いや、さっきからイラつきはしてたけど。
最初がアンモナイトの殻。次に、なんちゃら恐竜の胃石。そん次が、殺人級の激臭毛玉。日干しレンガに、ここまでで唯一のお宝であるメガネウラの羽。挙げ句の果て、最後に出てきたのがこれかよ!!
地上絵なんてカッコつけた名前つけやがって、さっき見たのはただの殴り書きじゃねぇか。それの下絵ってなんだよ。んなもん、必要ねぇじゃん。
なんだよ、このお宝とは程遠いラインナップ。
そんでまたコイツの喋り方がムカつく。
きゅるきゅる言うのも最初はイラッとしたけど、いまとなっては許容できる。口癖みたいなもんだし。
語尾だよ、語尾!
語尾に付く母音が、イラつきを増幅させんだよ。
なんでいちいち語尾に小っこい「ぉ」とか付けるわけ?
貰えるのが金銀財宝だったら、「ぉ」なんか可愛く聞こえちゃうかもしんないけど、なんたってあのクソ臭い毛玉の臭いまで嗅がされてんだから、たまったもんじゃない。
怒りのバロメーターがMAXになろうとした、まさにその時、
「あれぇ?これなんだろ?きゅるるる?」
ブー子が何かを取り出した。
灰色がかった20cmくらいある卵形の物体だ。
色や雰囲気からして、化石とかではなさそうだ。
というより、アンモナイトの殻にしてもメガネウラの羽にしても、餃子型宝箱から出てくるのは、その時々でブー子が手に入れてる物だから、化石のはずがない。
つまり何かの卵?
思いがけないものが出てきて、さっきまでのイライラが、どこかへ行ってしまった。
「なあ、それって卵だよな?何の卵?」
「きゅるー・・・?」
ブー子は何も言わず、ためつすがめつ眺めている。
「あっくん・・」
突然馴れ馴れしく俺の名前を呼んできた。
何だよと思いながら卵からブー子へ視線を移すと、ブー子は眼をウルウルさせて、見る間に滝のような涙がダバダバと溢れ出した。
「えっ!な、何だよ、どうした、どうした」
突然の号泣に、慌てて声をかける俺に向かって、
「・・・ごね」
「ん?」
「卵ね?これ、あっくんの卵なのね?」
「は?」
「ワタシに卵をくれたのね」
「・・・・・・」
言ってる意味がわからなくて一瞬フリーズしたあと、はっ!と我に返った。
「はあぁぁぁ!?おまっ、お前、なに言っちゃってんの!?」
「あなたの気持ちは受け取ったわ。きゅるうん」
突然ブー子が迫ってきて、恐怖を覚えた俺はジリジリと後ろに下がっていく。
眼から涙を吹き出している様子は、まるでマンガのようだ。
「だ、だから、なに言ってんだよ!気でも狂ったのか!?」
「ぶふぉっ!ぶわっははは!」
離れたところから、親父の爆笑が聞こえた。
くそっ!ポンコツ親父め。笑ってる場合じゃねぇぞ。息子の大ピンチだ!
文句を言おうにも、ブー子がグイグイ迫ってくる。
「あっくぅん!この子は大事に育てるわぁ。きゅるん」
「よ、よせ、俺は男だ!卵なんか産まない!よせえぇぇ」
あっという間に全身をブー子の足に絡めとられ、気づいた時には、ブー子が俺の顔に自分の顔をスリスリしていた。
「うっぎゃあぁぁぁぁぁ」
「まったく。やり過ぎじゃて」
「ごめんなさぁい。嬉しくなっちゃってぇ。きゅるん」
俺はというと、足を踏み鳴らして怒鳴り散らしている。
「ふっざけんな!!」
ブー子は反省してるのかショボンとしているが、こっちは怒りが収まらない。
「人のこと勝手にグルグル巻きにしてんじゃねぇよ!!しかも、なにが「嬉しくなっちゃった」だよ!だいたい、俺は男なんだよ!わかるか?オスなんだよ!卵なんか産まねぇんだよ!」
鼻息荒く、肩で息をしながら捲し立てた。
「信じらんねぇ!信じらんねぇ!信じらんねぇーっ!だいたい、お宝なんてねぇじゃねぇか!なんで南極くんだりまで行って、腹に餃子箱ぶつけて、ペンギンに頭突つかれて、ゴマまですって、結果なんにもねぇんだよ!無駄じゃん、全部がチョー無駄だったじゃん!!」
一つずつ指折り数えながら文句を言い続ける。
「まあ、落ち着けって」
「落ち着いてられっこねぇだろ!」
肩をポンと叩いてきた親父の手を振り払った。
「こっちは死ぬ思いで餃子箱取ってきたってのに。なんだよ、あれがお宝って言えんのかよ。だいたいなんで俺が卵なんか産んで、あんな餃子箱に入れる必要あんだよ!」
「アタル、嫌な思いをさせて申し訳なかった。キャロちゃんは、アタルをからかうつもりなど毛頭なかったのだ。それだけは、わかってやってはくれまいか」
じいさんがとりなしてきたけど、そんな事で腹の虫が収まるわけがない。
「俺が卵産んだなんて、どう考えてもふざけてるとしか思えないんだけど」
「当!長老に失礼だぞ!」
じいさん相手に語気強く言い返したら、伯父さんが怒り出したけど、そんなの知ったこっちゃない。
「良いのだ、藍善。アタルが怒るのも無理はない。だがな、ふざけてなどおらん。キャロちゃんは金星人のことしか知らんのだ。お前が地球人のことしか知らんのと同じようにな」
「どういうことだよ」
「金星人はな、男女の区別なく卵を産めるんじゃ。というよりも、もともと性別などないのだ」
じいさんの発言は、俺にとって青天の霹靂だった。




