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キャロラインの遺物(13)

目の前には、さっきまで魅惑的な半開きの餃子だった宝箱が、見るも無惨な有様になっていた。

紫色に美しく光っていた部分はドス黒く変色し、ナニか得体の知れない鼠色の物体が、中から飛び出てデロリと垂れ下がっている。

「ヒッ、ヒィッ、ヒェ、ヒェェェ・・」

思わず尻餅をつくと、そのまま後退りした。

可愛い子ぶってるけど、ガチでヤバいよコイツ・・・

貝殻を両側から力任せに、いや、明らかにそんなに力入れてないけど、力でバッカリ開けちまった。

怖すぎて目が離せない。

見てないうちに、襲われるかも知れないという恐怖。

「ほらほら、アタルが驚いておるぞ。すまんのぅ。キャロちゃんは、ちぃっとばかし力が強くてな」

ちぃっとばかし、じゃねぇよ!

あんなんできるなんて、バケモンかよ!

・・・ダメだ。こんなこと言ったら俺がヤられる。

叫び出さないように両手で必死に口を押さえつつ、親父に助けを求めようとしたその時、

シュルルルル

突然、豚まんの足が俺の体に巻きついてきた。

「!?」

「大丈夫ぅ?きゅるん」

きゅるんじゃねぇよ!

だからウインクやめろってぇ!

ダメだ。心の叫びが漏れてしまう。

口を押さえる手の力を一層強くした。

このままじゃマズい。

なんで誰も助けてくんねぇんだよ。

帰してもらえないどころか、このまま拉致られるかもしんない。拉致られ界隈なんて御免こうむる。

ここは、さっさとお宝ゲットして、さっさとここから退散するっきゃねぇ!

一人で焦りまくっている俺をよそに、豚まんは俺を立たせると、巻きつけていた足をスルリと離した。

へ?

「良かったぁ。怪我してなくて。きゅるん」

・・・なんだ。助け起こしてくれただけだったのか。

拍子抜けすると同時に、猛烈に恥ずかしくなった。

勝手に好かれてると思い込んで、独りでバタバタ大騒ぎしてたのか。滑稽としか言いようがない。

まさか、自分がこんなに自惚れ屋だったとは。

客観的に見ることで気持ちを整理すると、色々なことがストンと腑に落ちた。

そうか。俺は『偏見』という名のフィルターをかけた目で、金星人を見てたんだ。

俺とは違う得体の知れないヤツら。

その偏見から、彼女のやる事なす事すべてを悪い方に捉えていたことに、ようやく気がついた。

そうしたら、不思議なことにあんなに怖かった豚まんが、全然怖くなくなった。それどころか、愛嬌があって面白いヤツなのかもしれないとさえ思える。

だいたい、力が強いのだって豚まんのせいじゃない。

宝箱を壊したのだって、大きさは違えど地球人が牡蠣の殻を剥くのと大差ないのかもしれない。

何より、金星人と地球人の架け橋になろうとしてくれていた人を、勝手に「豚まん」なんてあだ名を付けて呼んでいる。考えたら、俺ってひどいヤツだな。

でも、突然キャロちゃんとかキャロさんって呼ぶのも恥ずい。

・・・ブー子にしとこう。


「じゃあ中身並べてくよぉ」

「どこに並べんの?」

すっかり怖くなくなったことだし、コイツは最初っから馴れ馴れしいんだから、俺だって敬語なんか使う必要もないだろう。

「ここだよぉ」

「ここ?」

テーブルもないけど、どうすんだ?床に並べんのかな?

座ったほうがいいのかな?

ちょっと迷ったけど、訊くのも面倒臭いからそのまま立ってることにした。

デロデロになった宝箱に、ブー子が手を突っ込んで、思わず顔を背けた。

おえぇ〜 あの宝箱の残骸怖えんだよ。

「はい、1個目ぇ。きゅるん」

おお!やっと拝める!

舌なめずりせんばかりの勢いで、ギンッと振り向くと何やら直径60cmくらいのデンデンムシの殻みたいな物を持っている。

「うおっ!?デカっ!」

「うふふ〜。可愛いでしょお。きゅるん」

「・・・なにそれ?」

「アンモナイトの殻」

「そういうのいいから。早く違うの出してよ」

アンモナイトの殻を持ったまま、きゅるきゅる言いながらと宝箱に手を突っ込んだ。

ジュボンと入れた瞬間が俺的には気持ち悪くて、もう一度向こうを向いた。

それにしても、なんでアンモナイトの殻なんかを宝箱に入れてんだぁ?

首を捻りながら次のお宝を待つ。

「はぁい。2個目だよぉ。きゅるん」

よし!とばかりに振り向くと、別の足で黒いすべすべした石みたいなものを持っている。

んん?宝石とか・・・か?

目をひそめてガン見しても、やっぱり普通の石に見える。

「それ・・なに?」

ガン見したまま訊いた。

「ガストロリス」

もしかして、ただの石じゃなく地球では未発見の石なのかも!

どれくらいの価値があるんだろうと思うと、ワクワクした。とはいえ、くれるのが惜しくなると困るから、あまり興奮した様子を見せないようにしなければ。

「それって、金星にしかない石だったりすんの?」

いかんいかん。思わず鼻息荒くなっちまった。

「これ?違うよぉ。恐竜の胃石だよぉ」

「恐竜のイセキ?」

ん?遺跡ってことはないよな。聞き間違いかな?

「化石ってこと?」 

「ううん、胃袋の石。ワニとか草食恐竜なんかには、砂肝みたいなの無いでしょ〜。そのかわり、食べ物をすり潰して消化を助けるために、石を飲むんだぁ。その石なのぉ」

「・・・・・」」

「こんな大っきいサイズの胃石って、なかなかないんだよぉ。ブラキオザウルスの胃石なのぉ。きゅるん」

「次」

「はぁい。ジャジャ〜ン」

「臭っ!」

あまりの臭さに、鼻をつまんで顔を背けた。

なんだこの鼻につく獣臭。く、臭すぎる。

激臭の発信源は、ブー子が3本目の足で持っている、太くて茶色いほぐしたスチールウールみたいなブツだ。

「お前っ!何だよそれ!!」

「これねぇ、マンモスの産毛なのぉ。撫で撫でしたら、いっぱい取れちゃってぇ。剛毛だけど暖かいんだぁ。きゅるん」

「それ!しまえ!臭すぎなんだよっ!」

しばらくごねていたけど、なんとか宝箱に戻させた。

どうしよう・・今のところ、まともなお宝がない。

「ハァァ〜」

頭を抱えて、思わずしゃがみ込んだ。

このあとも、おかしな物が続くんだろうか。

これじゃあ、何のために頑張って交渉したのか、わかんねぇじゃん。

いやまさか。そんなはずはない。

弱気になっている自分の頬を、両手でピシャリと叩いて気持ちを奮い立たせた。

そうだよ、ここまでは要らない物ばっかりだったけど、残りの中には、きっとお宝があるはずだ。

「よし!ブー子次だ!」

「ブー子ってワタシ?きゅるん」

「そうだよ、ほら早くして!ほらほら」

「え、えぇ〜」

ブー子が手を突っ込んでいる宝箱に向かって、

「お宝だせ〜、お宝だせ〜」

と呪文のように繰り返した。

ボロボロの宝箱は見るのも怖かったのに、今となっては平気の平左だ。

次こそお宝頼むよぉ〜。

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