キャロラインの遺物(12)
「わっはははは!」「クックックック」
驚く俺を他所に、親父と伯父さんが笑っている。
「2人とも、キャロラインさんが金星人だって知ってたんかよ!?」
「当たり前じゃないか」
「地球人だとは言ったことないぞ?」
・・・確かに。確かに誰も地球人だとは言わなかった。
だけど、あんな風に話されたら、誰だって勘違いしちゃうってぇ。
呆然としている俺に、じいさんが話しかけてきた。
「ほれ、キャロちゃんもアタルに会えて喜んどるぞ」
「いやだぁ!感激ィ!きゅるん」
なんなの?こいつ。
ただでさえ新しい金星人の出現にビビってるのに、なに?きゅるんって。コワコワコワ!
親父がクツクツと笑いながら、金星人2人組から少しずつ距離を空けていく俺の肩を抱くようにして
「キャロラインは『金星の使者』なんだよ」
と言った。
「し、死者!?動いてんじゃん。し、死んでんの?」
「違う違う!死ぬのシじゃなくて、使うのシ」
親父は両手を振るようにして、急いで否定した。
「ああ、そっちの使者か」
ゾンビかなんかかとと思ってビビった。
「キャロラインは金星人の代表として、原始の地球人に金星のことを伝えるために、何度も過去を旅してきたんだよ。オーパーツとか、色々時代とそぐわないものがあるだろう?神話だって、不思議だと思ったことないか?神話の多くが、始まりは『混沌』なんだ。これは、キャロラインが金星の使者として、地球人との交流を図っていたからなんだよ。原始の地球人には、地球の成り立ちを理解するのが難しかったんだろうね。簡単に、簡単にと説明した結果、理解されたのは混沌だったんだろう」
「なんで交流を図ってたんだよ」
「それは、金星人と地球人が、共に地球で協力しながら生きていくためじゃ」
じいさんが親父の話しを引き取って続けた。
「金星人と地球人は、見た目からして全く違うからのぅ。しかし、地球に残った金星人もどんどん減ってしまったし、地球人が智恵を得るほどに好戦的になってしまってな。双方にとって危険と判断して、使者を遣わすのはやめにしたんじゃ」
そうか。正確には『金星の使者』じゃなくて『金星の元使者』なんだな。
言われてみれば、確かに宇宙船とか恐竜とか、当時知り得ないことがオーパーツとして残っている。そしてそのどれもが、金星人に教えてもらったんだとすれば説明がつく。色んな事に合点がいった。
俺たちがそんな話しをしている間も、元使者はなぜか「きゅるん。きゅるん」とポージング?をしている。
何してんだろ?
しっかし、昔の人はよく受け入れたなぁ。
気持ち悪いとか思わなかったのかなぁ?
そうか!
自分たちと違いすぎる者を受け入れるために、神様ってことにしたのかも。
恐いもの見たさでジッと見ていると、じいさんが
「そんなに見つめんでも大丈夫じゃ」
などと的外れなことを言い出した。
「アタルの思いは受け止めたそうじゃぞ」
聞いた瞬間、背中に冷水を入れられたみたいにゾゾゾゾゾ〜ッとした。全身が粟立つのがわかる。
ドクン、ドクンと脈打つ音が、頭の中から聴こえるほど大きくなったかと思うと、身体中から汗が吹き出て止まらなくなった。
身の危険を知らせる赤いシグナルが点滅している。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
とりあえず、今の発言は無視しよう。
肝心なのはお宝だ。
とにかく口を開けてもらったら、気が変わらないうちにさっさと帰ろう。
そうだよ、早く帰らなくちゃ・・!
「あ、あの・・」
ダメだ。声がうわずって裏返っちまう。
「ぅうん!」
咳払いを一つして、手をぐっと握り締めると
「た、宝箱を開けてください」
精一杯勇気を振り絞って頼んだ。
「いいわよ〜ん。きゅるぅん」
体をくねらせながらウインクされた瞬間、再びゾゾゾッと震え上がる。と同時に、ピンとくるものがあった。
そうか!こいつ豚まんに似てるんだ。
気づいた途端、怖がっていたのがバカバカしくなった。
なんで豚まんにウインクされなきゃなんねぇの?
しかも「きゅるぅん」ってナニ?
親父たちの方を見ると2人ともニヤニヤ笑っている。
ちっくしょう!
あんた達は、この豚まんに会ったことがあるんですよね!
気持ち悪い動きも見慣れてるでしょうよ!
あまりにもムカついて、親父たちに気持ちをぶち撒けたい衝動に駆られたけど、それをグッと堪えた。
ここで豚まんのご機嫌を損ねて、万が一にもお宝が貰えなくなったら、今までの苦労が水の泡だ。
クソッ。
笑え笑え。お宝全部もらっても、てめぇらなんかに絶対分けてやんねぇからな。
豚まんは、シズシズと宝箱の横に立つと、親父たちに向かって口パクで「クソヤロウ」と言っている俺に声をかけた。
「あっくぅん、じゃあこっち来てぇ。きゅるん」
!? !? !?
「あっくぅん」って、もしかして俺のこと!?
いや、いやいやいや、気のせい、気のせい。
はじめましての相手に、突然「あっくん」呼びするわけない。
俺を見てウインクしてるのも、全部気のせいだ。
親父が口を震わせながらこっちを見ている。
俺は、すべてを無視することにして、粛々とお宝を手に入れることに決めた。
俺は石になる。
気持ちを平らかに、外野のことは気にしない。
そう、俺は玄武岩だ。
岩になった気になると、周りのことが不思議と気にならなくなった。
何も考えない。なぜなら岩だから。
俺が餃子型宝箱の横に立つと、キャロラインさんは1本の足をシュルシュル宝箱に巻きつけ、さらに2本の足をくねらせて、宝箱の半分開いたようになっている口の端を、左右それぞれにポンポンと、優しく叩き始めた。
それに呼応するかのように、宝箱の口が紫色に光りだす。
「おっ!おおお・・・!」
うわあ、思わず感嘆の声をあげてしまうほど、物凄くキレイだ。
よく見ると、無数の細かいものが、紫色の光に沿って漂うようにうごめいていて、それぞれの先にはライトがついているような、小さな光がある。
何かに似てるなぁ。
・・・・・・・
そうか!イソギンチャクだ!
紫色は奥に行くほど青くなっていく。幻想的な美しさだ。
「ほえぇ。すげぇなぁ・・」
この部屋は明るいけど、暗かったらイルミネーションみたいだなと思い、一瞬、ほんの一瞬お宝のことを忘れて魅入ってしまった。
ギュンヌッ ゴォギィッッ
え?
何が起こったのかわからなくて、思考が停止した。
・・・・・・・
思考停止中。
キャロラインさんは4本の足で器用に何かしている。
・・・・・・・
「ほらぁ。中身出して並べるから手伝ってぇ。きゅるん」
そう言って、割れた貝殻の欠片をポイポイと投げ捨てた。
「えっえぇぇぇーー!?」




