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キャロラインの遺物(9)

ジャイアントペンギンの足の隙間から、適当な大きさの石を選んだ。

「ごめんな」と言いながらペンギンの 足元のたるみを持ち上げる。

「うおぉっ!?」

にょっきりと長い足が出てきて、思わず尻餅をついた。

「ぺ、ペンギンの足って、こ、こんなに長いんだ」

なんだか勝手に他人の秘密を見てしまったような、すごく申し訳ない気持ちになって、持ち上げたたるみをそっと元に戻した。

その後も、大きめの石を選んで球と八面体の周りに並べる。

「よーし、こんなもんかな。オェップ」

そう言ってヨロヨロと立ち上がった時には、もう宝箱は片側に傾いでいた。


現実世界に戻ると、ペンギンたちはゾロゾロと何処か散っていくところだった。「クアーッ クアーッ」と大きな鳴き声が、そこここで聞こえる。

コイツらこんな声で鳴くんだな。なんでこんなに鳴いてんだろ。なんかの合図でも送ってんのかな。

現代のペンギンも、ヒナの大群から自分の子どもの鳴き声を聴き分けることができるんだから、祖先のコイツらも同じ様に、互いの声を聴き分けることができるんだろう。

気づくと、不思議なことに俺の吐き気もすっかり治っている。

「アタル!大丈夫か!?」

親父が、ジャイアントペンギンの波に逆らうようにして、こっちに走ってきた。

「やっと来やがったな。マジひでぇよ。守ってくれって言っただろ」

ジロリと睨むと、

「すまなかったよ。ペンギンたちを傷つけたくなかったんだ。悪かった」

と両手を合わせて謝ってきた。

「カカカカ!息子に叱られるか。アタエもかたなしだの」

伯父さんに言われて、バツが悪そうにしている親父に

「ったく。もういいよ。それよりほら、これ」

ボーリングの球と八面体を顎で指し示した。

「ん?なんだ?・・・これは!」

親父はハッとすると、飛びつくようにしてブツの脇にしゃがみ込んで、目を光らせながら夢中で調べ始めた。

アタルの戦利品だ。まったく、大したものよ。ただのへっぴりではなかったわ」

伯父さんはそう言って、カラカラと笑っている。

「失礼だなぁ。このくらいお茶の子さいさいですよ」

珍しく褒められたもんだから、思わず顔がニヤけてしまう。バレないように、慌てて向こうをむいた。

ふふん。俺だって、やればできるんだよ。

親父は、リドレイさんにデータを送るべく、球と八面体をスキャンしている。今回の八面体は隠れなかったから、無事に捕まえてスキャンすることができたようだ。

球は

「あ!俺の吸盤・・!」

リドレイさんで思い出した!

慌てて腹をさぐったけど、吸盤は無くなっている。

「はぁ〜。よかった〜」

じゃあ、あの吸盤どこいったんだ?

振り向いて宝箱をみると、吸盤はそこに貼り付いて残っていた。

「何を見ておる?」

「吸盤が・・・あ!」

見る間にサァァと消えてしまった。

「役目を終えたから消えたのだろうて」

そうか。今度リドレイさんに会ったら訊いてみよう。

「なぁ伯父さん。この餃子みたいなのが、本当に宝箱なんですか?」

「餃子?餃子・・ブアッハハハハハハハ!」

宝珠があっちこっちへジグザグに飛んでいる。人間でいうところの、身をよじっているってとこか?

そんなに爆笑するほど、変なこと言ったかなぁ?

でも、どうみても宝箱には見えないんだけど?

「それはな、『オオシャコガイ』だ」

「え!?貝?これ貝なの!?」

「そうだ。キャロラインは、オオシャコガイの中でも抜群にデカいのだけを集めて、宝箱にしておるのだ」

「じゃあ、お宝って・・」

「うむ。その中に入っておる」

「うおぉぉぉ〜っ!!ついに!つ、い、に、お宝ゲットしたぜ!!」

「カカカカ!すっかり貰う気になっとるな」

「だってこれ貝なんだろ?貝ってことは、デカい真珠とかはいってんじゃねぇの?グフグフグフグフグフグフ」

ダメだ〜。笑いが止まんない〜。

さっさと交渉して中身をゲットしなくちゃだぜ!

「親父ぃ!早くお宝届けにいこうぜ!」

はやる心を抑えきれず、親父に声をかけた。

「いまスキャン中だから、ちょっと待っててくれ」

「チッ!おっせえなぁ」

こっちは早く行きたいってのに。

「まあまあ、お宝は逃げんからな。ほれ、虹だぞ」

伯父さんに言われて空を見ると、大きな虹と白くたなびく雲が見えた。

へぇ〜。この世界で虹を見るのも不思議だな。

「おお、あれはまた、立派なレヴィアだの」

「レヴィア?」

「あれがレヴィアなんですか!?」

親父が飛んできた。

どうやら、親父も見るのは初めてらしく、ひどく興奮している。

「伝説では、レヴィアはクラーケンを餌にするって言われてるんですけど、本当ですか?」

まるで少年に戻ったようだ。

「ちょっと待ってよ。レヴィアって知らねぇんだけど」

「あれ?レヴィアもゲームに出てこないか?」

親父は首を捻ると、手のひらを拳でポンと叩いた。

「ああ、そうか。金星人の記録ではレヴィアだけど、地球では変化して、呼び方が違うんだった。レヴィアタンとかリバイアサンだったらどうだ?」

リバイアサン!ゲームに出てくる最強クラスの敵だ!

「知ってる知ってる!知ってるよ!アレがマジでリバイアサンなの!?」

「リバイアサンと呼ぶかは知らんが、あれは間違いなくレヴィアだ。何種類かいてなぁ。確かに海に住むレヴィアは、クラーケンを餌にするという伝説があるようだ。本当に喰らうわけではないんだがな」

「餌にするわけじゃないんだ」

「いかにも。彼らは精神体だからな。モノを喰らうものではない。見知らぬ生き物には、とかく伝説という名の空想がついて回ることがあるのだ」

「そうなんですね」

「でも、俺には雲にしか見えないけどなぁ」

アタルには見えんのか。アタエはどうだ?」

親父が頭を掻きながら「ぼんやりとしか」と答えると「ハァ、情けない。指南してやる」と言った。

「レヴィアから目を離さず、丹田に気を集中してみろ。早くせんと泳いでいってしまうぞ」

「ええ!?」

丹田はよくわかんないから、丹田にある球に意識を集中してみよう。

球に意識を集中しながら、レヴィアと言われた雲をじっと見る。そうやってひたすら見ていると、何かキラキラと輝くものが現れた。

・・なにあれ?・・鱗?

やがて、朧げながら、輝く鱗を持つ長い胴体、続けて足、頭と・・あれは角?が見えてきた。

「すげぇ!見える!ボンヤリとだけど見えるよ!」

「やあ!俺も見えました!うわぁ、なんて美しいんだ」

伯父さんが、満足そうにしているのがわかる。

「他の呼び名もあるのだぞ。お前たちは知らんか?」

「他の呼び名?」

「龍だ」

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