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訓練所(1)

「うわぁ!すっげー!」

声が反響して気持ちがいい。舞台俳優って、こんな感じなのかな?この気持ちよさを知ったら、舞台俳優になりたくなる気持ちもわからなくはない。なくもない。

連れてこられた訓練所は、めちゃめちゃ広い。

訓練所っていうから、学校みたいな建物を想像してたけど、全然違う。とにかく天井が高い。

壁が岩肌のようになっているのは、自然を利用したからなんだろう。


昨日家に戻ると、親父に

「とりあえず風呂に入ってこい」

と言われた。

はいはい。いったい何だったんだよ。全部が夢だったらいいのに。などとブツクサ言っていた俺だけど、そこで初めて、自分が着ているのは肌着とトランクスだけだってことに気がついた。

学校から帰ってきて制服を脱いでから、そのままあの場所に連れて行かれたんだった!

気づいた途端、急に恥ずかしくなって顔から火が出た。

こんな格好で、あんなおかしなやり取りしてたのか。

コントじゃねぇか。

・・・いや。本当にコントだったら良かったのに。

湯船に浸かってぼんやり考えた。

あんなおかしな状況で、普通だったら、頭がおかしくなってもおかしくない状況だと思うんだよな。

なんだよ。「おかしい」ばっかじゃん。

思わずクックと自嘲気味に笑った。

抵抗している間はあんなに苦しかったのに、諦めて受け入れたら、なんだか気持ちが楽になった。

普通だったら受け入れられないと思う。気持ちが楽になったのは、俺が金星人だからなんだろうか。

うむむ。と首を捻る。

いくら考えても答えなんかが出るわけがない。確実なのは、受け入れなければ、あの化け物になるという事実だけだ。

でも本当かなぁ。親父もジジイもふざけたヤツだし。

とはいえ、本当だったら化け物へ一直線だ。そんな恐ろしいリスクは背負いたくない。

ああぁぁ〜〜嫌だ嫌だ嫌だ!

頭を掻きむしってハッと思いついた。

俺のモットーは「安心・安全第一で、安定した人生を送る」なんだ。とりあえず、引き受けるだけ引き受けて、あとは逃げてりゃいいか。

よし!適当にやっとこ。使えないってわかればクビになるだろ。理由なく勤め上げることができない場合は、地球人になる選択肢は無くなるって言ってたけど、ジジイの都合で辞めさせるんだから、もちろん理由になるよな。

そうだ!そうしよう!

先行きが明るくなってきた!

そうとなれば、腹も減ってきたぞ〜。腹が減っては戦はできぬ、だ。


風呂から出ると、いつも通りの母さんがいた。

「腹減った。今日の飯なに?」

「今日はローストポークだよ〜」

「やった!」

ガッツポーズをすると、目の端に親父の姿があった。

俺が落ち込んでるとでも思ってたのか、こっちを向いて驚いた顔をしている。

いまに見てろよ。

心の中でほくそ笑んだ。

使えない国家公務員の誕生だ!!

腹を括ってしまうと何だかスッキリした。そのせいなのか、風呂に入る前は絶対眠れないだろうと思っていたけど、不思議なことにこれ以上ないほどぐっすりと眠る事ができた。

朝を迎えてカーテンをジャッと勢いよく開けると、朝日がキラキラ輝いている。

目覚めもパッチリ気分爽快!爽やかな朝だ!!ワッハッハ!!

さてと、気持ちよく目覚めたところで、学校へ行く支度しなくちゃ。

なんだかんだいっても、まだまだ高校生。金星人のことなんか当然後回しでヨキヨキ。学業優先だ。

制服に着替えようとしたら、タンスの中に靴下が見当たらない。

あ!そうだ。一昨日履いてたのは穴があいてて、母さんが縫うって言ってたな。あと1年も履かないんだからもったいないそうだ。ケチ臭いって言ったら、だったら誕プレを靴下にしてやるというので「申し訳ございません」と丁重に謝った。昨日のはまだ乾いてないから、母さんに訊いてこなきゃ。

「母さーん。俺の靴下縫い終わったー?」

あれ?

「母さん?おーい」

あ、いたいた。洗濯機に昨日の洗濯物を入れ・・よう・と・・?

「あーー!!またやったなー!!」

母さんが固まっている。どたどたとリビングに行くと、テーブルでは、シリアルを口に運ぼうとした朝芽が、スプーンを持ったまま固まっている。急いで食べているのか、牛乳が口から溢れそうだ。

「クソ親父!!」

親父はソファに座ってニヤニヤしている。

「お父様に向かって、なんという口の利き方なのかな」

「ふざけんなよ!学校に間に合わないだろ!元に戻せよ」

そう言って声を荒げた俺に

「嫌だも〜ん」

とほざきやがった。

「・・親父、自分が何してんのかわかってんだろうな」

あまりの怒りに親父をギロリと睨みつけると、「おお怖っ」と言いながら両手を上げた降参ポーズをしてから、説明を始めた。

「お前が学校なのは、ちゃんとわかってるよ。だけど、すぐにでもカリキュラムを組んでしまいたいんだ」

「なんだよカリキュラムって」

昨日からずっと腹が立ちっぱなしだ。血管切れたらどうしてくれる!

「お前はギュムノーのための訓練を受けなくちゃいけないんだが、それに先立って、現時点でどこまでできるのか、特性は何か、どんな武器が得意かなどなど、たくさんの測定をする必要があるんだ。その結果によって、お前に最も最適な武器や防具が用意されるんだよ。それから本格的な訓練が始まるんだ」

「ぶ、武器!?防具はまだわかるけど、武器って何だよ!俺は闘わねぇぞ!!俺のモットーは「安心・安全第一で、安定した人生を送る」なんだ。武器を持たせるなんて、全然安全じゃねぇって事じゃん!!」

「落ち着けって。武器っていっても、デカいザリガニを倒すような感じなんだよ。急に襲われたら困るだろ?護身用だ」

そう言って鼻息が荒くなった俺を宥めた。

「・・・」

信用ならない。親父もジジイも涼しい顔して嘘をつくからな。

じとーっと横目で見る俺に、とりあえず訓練所に行こう、行けばわかるさ、と言った。

「場所はどこなんだよ」

「ついてくればわかる」

そうして連れてこられたのは、地下にある巨大な空洞だった。

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