2 初めての海釣り 釣れるのはおじさんばかり
「あんずちゃんは?」
「さすけね、さすけね!ばぁちゃんがみてくれっから!」
『さすけね』とは大丈夫という意味だ。
軽自動車を走らせて海に向かう2人。
内陸部しかも盆地。夏は40℃を越えるほど蒸し暑く、冬は雪が膝まで積もるほど寒い。地元から一番近い海までは1時間以上かかる。
震災後、復興支援として緊急車両が内陸部まで迎えるよう無料の高速道路が整備され、海へのハードルはこれでもだいぶ下がった。
「はぁーついた!お疲れ様、すもも!」
すももはウインクをして親指をあげている。つぶっている方の口角は変に上がっていた。
朝日がまぶしい。海面を照らした光はさらに反射して、この町名物の大きな橋をも輝かせていた。
うっすら明るい月も見てえいる。たまごは思わずスマホにその風景を残した。
「さぁ、始めっぺ!」
すももは車から釣具を次々出してきた。
「すごい!これ全部買ったの?」
「いや、叔父さんのお古もある!んで、買った物はほとんど100均だで!」
「へー、そんなんで釣れるの?」
「釣れっから!」
「そんな安物で大丈夫なの?」
「その辺の高級な竿集めてるガチ勢のおっさん達よりいい型の魚釣るんだから!」
「ふーん!」
「釣れっとね、おっさん達集まってくっからね!」
『何釣れたの?』
『これはアイナメだね!』
『いやーすごいね!』
『最近はフグばっかでね』
『お姉さんはすごいや!』
『この餌使って』
『頑張ってね!』
「ってな!」
「へー、おじさんが釣れるのね(笑)」
「たまには、おにいさんも釣れっから!」