表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき3

飛んだ

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくろくじゅう。

 


 うららかな日差しが窓から差し込む。


 昨夜までのけたたましい雨音が嘘のようになりを潜め、カラリとした空が覗く。

 気持ちのいい青空が広がっている外は、きっといい散歩日和なのだろう。

「……」

 しかし残念ながら、今日はそんな気になれなかったので。

 大人しく部屋で読書をしたり、食事を摂ったりと、何一つ変わらぬ時間を過ごしていた。

 ホントのところ、一瞬買い物に行こうかとも思ったのだ。

 昨日雨のせいで買い切れなかったものを買いに行こうかと、外に出る準備まではした。

 ……のだけど、玄関を開けた瞬間に襲ってきた暑さに一瞬で気が滅入った。

 じっとりとまとわりつくような暑さが、想像以上に気持ち悪くてダメだった。

「……」

 うららかなんて言ったけど、そんなやさしい雰囲気の暑さではなかった。

 夕方になれば、少しはマシになるかもしれないと期待はしているが。

 まだ、外に出られるような気にはなれない。

 部屋の中にいても、若干ムシムシするんだけど……どうにかならないものか。

 これから梅雨時期に入ると、これが当たり前になってくるんだろうけど。何度体験してもこの「蒸し暑い」には、慣れない。よくわからないが、若干生理的嫌悪があるのかもしれない。

 まとわりつく暑さなんて。ホントに。ぞわぞわしてしまっていけない。

「……」

 除湿器とか、買った方がいいんだろうか。

 でもああいうのって、使うタイミングが限定されている気がして、買うのがもったいないと思ってしまう。かと言って、多機能のモノを買うと、もっと値段が張るから手を出すのも気がひける。最近は、簡易なものもあるらしいけど、あれッて効果的にはどうなんだろう。それなりには効くんだろうけど、使ったことがないから分からない。

 ……まぁ、その辺はそのタイミングになってみないと有無が分からないし、おいおいで良いか。いや、必要にはなるだろうから、考えてはおかないといけないのかもしれない。

「……」

 お気に入りのソファに座り、ぼうっとしている。

 今は、昼食まで済ませ、さて読書を再開しようかと、座ったはいいものの。

 本を膝の上に置いたまま、外を眺めている。

 今日は、狼少年の話をモチーフにした物語を読んでいた。

 なかなかに面白い展開で、読む側の心のどこかをなぞるような何かがある。

 丁度、いいところではあるので、さっさと読み進めてしまいたいのだけど。

「……」

 網戸越しに、真っ青な空が覗く。

 この晴れの日が、もう少し続けばいいが。

 天気予報を見た限り、あまり天気のいい日はないらしい。

 台風もできたと言うし、もう本格的に梅雨時期に入っていくんだろう。

「……」

 外の音が聞こえる。

 昨日の雨音の中では聞こえなかったであろう音。

 車の走り去る音が聞こえたり、犬の鳴き声が聞こえたり。

 風の通りすぎる音も心地よく耳に響く。

 これで蒸し暑ささえなければ、完璧に近いのに。

 ―なんて、理不尽な怒りじみた何かを覚えたとき。


『あ!!!!!』


 という、大きな声が鼓膜を叩いた。

 住宅街全体の響いたのではないかと思う程に大きな声。

 思わず、体がびくりと跳ねたのも無理はないと言いたい。

「……」

 何事かと思い、ソファに預けていた上半身を、少し持ち上げて、外を注意深く見てみる。

 まぁ、ここからでは外の道路の様子なんて見えやしないので、何かできるわけでもないのだけど。

 じっと、見ていると。

 ふわふわとうかんできたものがあった。

「……」

 赤い風船だった。

 ヘリウムが中にこめられた風船は、ふわふわと空へと飛びあがり。

 誰の手からも離れて、自由になったとでも言わんばかりに、上へ上へとあっという間に飛んでいく。

「……」

 さっきの大声は、きっとあの赤い風船の持ち主の悲鳴だったのだろう。

 手放すなとさんざ言われていたのに、離れた手をきっと恨むのだろう。

 楽しい気分が台無しになってしまったんだろう。

「……」

 あぁかわいそうに。

 なんて。ぼんやりと思ってもみる。

 思ったところで、何の慰めにもならないし。

 私には何の感慨も浮かばずに、また座りなおすだけに終わるのだけど。

「……」

 赤い風船は、どこまで飛んでいくのだろう。

 案外もう、しぼんでしまっているかもしれないな。







 お題:雨音・狼・赤い風船

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ