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お化けの晩餐会シリーズ

お化けの晩餐会2

作者: キャメルライト

タイトルに2とある通り、お化けの晩餐会の二作目です。

軽く読んで、気になったなら、まずは前作をお読みください。

 お化けというのは、世界中にいる。


 木船で海を渡ってくる猛者までおり、そこで他国の国の言葉を覚え、流暢に話す者までいる。


「如何です?」


「これはっ――、なんと先鋭的な料理か! 形そのまま、生命の息吹を感じる……なんと怨念宿る瞳を向けてくるのか! ナマナレ、素晴らしい! こちらのフナズシというのも、覗くはらわたから深い怨みの香がかおってきますとも。食欲を大いにそそられる! 高貴な者だけが食べていたというのも頷ける!」


「ごれほんどに人が食べでたのがぁ?」


「食べていましたとも。それはもう喜んで」


 お化けアナグマは言う。ノブロウという名で、本人はタヌキと言っていたが、アナグマにしか見えない。

 旨そうなのを捕まえた、と庭師のグエンが連れてきた。首根っこを掴んで。


 命乞いをされ、自らの代わりに提供してきた物が、それらだ。

 日の本という国から来たそうで、見た者に化けられるという変わった特技を持つ。


 しかし、何より興味を引いたのは、その国の食文化。人の食べ物とお化けの食べ物に垣根が無い。


 これならばと、片手を胸に添え、腰を曲げ、アートは膝下くらいしかないノブロウにずいっと顔を近付ける。

 

「名乗るのが遅れて申し訳ありません。私の名は、アート。絵画のお化けでして、貴方を連れてきたのは、この館で庭師をしている狼男のグエンです。まずはその非礼を彼に代わってお詫び致しましょう。お許しを」


「いえいえ、そんな、滅相も」


「こちらの彼は、見ての通りの調理人。ウォッシェンという名です。馴染みのある顔付きをしているのではありませんか。これほどの魚料理があるくらいです」


「はぁ、まぁ」


「他にも当館(とうやかた)には様々なお化けがおりますが、それらを紹介する前に、まずは主の元へとお連れ致しましょう。この素晴らしき料理と共に」


 さぁ、行きますよ皆さんと、料理を乗せた皿をトレイに乗せ、クロッシュを被せて持っていく。


 きっと気に入ってくれることだろう。食欲も大いに湧き立つはず。胸躍るような気持ちで食堂に運び込み、主を呼びに行く。ノブロウを連れ立ってだ。


 部屋の前、ノックを一つ。


「リモネお嬢様。食事の準備が整いました」


「……いりません」


「まぁそう仰らず。今宵は紛れもなく人の食べる料理をご用意致しました。それはこの館に遠い国より来訪された、このノブロウが保証致します」


 かちゃ、と扉が開いて、リモネは顔を出す。


「まぁ、可愛らしい。当館の主、リモネと申します」


「こっ、これはどうもご丁寧に。ノブロウと申します。以後お見知りおきを」


 彼女の目が、すっとこちらを向いた。


「それで、この方がそれをお持ちくださったと?」


「はい。先鋭的かつ大胆不敵、いえ、独創的な発想を元に作られた至高の料理であることは、このアートが保証致します」


「お貴族様が口にするものです」


「まぁ、では貴方はよほど腕の立つ調理人なのね。その上こんなに可愛いなんて、うちのとは大違いだわ」


「お嬢様。ウォッシェンが聞いたら泣きますよ」


「あら失礼。でもその通りでしょう?」


「耳にしなかったことに致します」


 滑り出しは上々。その愛くるしい見た目で、見事ハートを掴んでくれた。足取りも軽快で、いつものように嫌々な感じで歩いて行かない。


 長かった。ここまで。お化けの為の料理、生気溢るる生き顔料理は、嫌だ何だと駄々をこね、時には叫び声を上げて逃げ出す始末で、ちっとも口にしようとしてくれなかったが、ついに食してくれよう。


 涙がほろりとこぼれ落ちそうだ。そこから段々と、人由来の物に変えていけばいい。

 その血を残すグエンも言っていた。慣れであると。


 まずは魚の深い怨みの念を口にして頂き、気持ちを慣らして貰う。

 席について貰い、今か今かと待ちきれない様子を見せたかと思うと、途端にリモネは顔を曇らせた。

 

 何故と思う。


「なんか臭う。くさい……」


 なんだと思った。大したことではない。


「怨みの念が放つかぐわしき香にございます。では、どうぞお召し上がりください」


 パッと被せたクロッシュを取ると、リモネの顔が引きつる。

 同時に鼻をつまんでいた。見る見るその顔が青くなっていき、信じられないようなものでも見るような目で、見られた。


「これは何? これが本当に人の食べ物だと言うの?」


「ノブロウ! 説明致しなさい!」


「ほ、本当です、リモネお嬢様! 日の本では間違いなく、高貴な者達が食していた保存食となります! 信じてください!」


「信じたい気持ちはあるわ。でもどう見たって、腐ってる……」


「腐っているのではなく、いえ、あえて食べられる程度に腐らせているのです。味噌と同じです!」


「ミソ?」


「あ、失礼。こういうもので」


 と、背負った包みからノブロウは壺を取り出し、見せてくる。これまた鮮烈な怨念が漂ってくる。何をそこに詰めたと思うと同時に、顔が蕩けた。


「おぉ、なんと芳醇な香りかっ!」


「どこがよ。下げて。食事をする気が起きなくなりました。部屋に戻ります」


 ガタンと席から立つと、すたすた部屋まで戻って行ってしまい、あぁ、お嬢様と思って、思わず腕を伸ばして、すっと下ろして崩れ落ちる。


「今度ばかりは、いけると思ったのですが。何がいけなかったのでしょうか。私にはわかりません」


「いやぁ、なんとなくそんな気が、拙僧には端から」


「ふむ。何故それを早く言わないのです。やはり貴方の丸焼きの方が、良かったですかねぇ?」


「待って、やめて、だってそんなこと言ったら、いやああああああああああっ!!」


 恒例の反省会が始まった。中央には丸焼きが鎮座している。デカイ猪のだ。ノブロウは無事。グエンがもっと大きな獲物を仕留めてきたからであり、それを見ながらノブロウは、漫然とした顔で言う。


「野蛮極まる料理ではありますが、これをお出しした方が、まだ食べてくれたのではと拙僧は思いまする」


「この子随分愛らしいし、多分この子の丸焼きよりは、ずっと良いでしょうね」


「リューズ! 甘やかしてはなりませんよ! お嬢様に不適切な料理を提供した罪は、それほどまでに重いのです。これが、わァアかりませんかねぇ?」


「はいはい。それを言ったら貴方は即座に絞首台送りね」


「んだなぁ。スッパァアアアアアアアア!!」


「それプラムだよな? 匂いは変わってるが」


「梅干しという食べ物で、この身はプラムとはまた別種のように思います。同じように漬けてみましたが、味も違えば風味もまるで別物のようになっていたと言いますか」


「ほう。つまりは日の本という国でしか作れない食べ物というわけか。どれどれ――ホォオオオオオオオオオ!!」


 二人が示したその反応に興味を引かれ、次々と梅干しを口にしていったお化け達の口からは、形容し難い悲鳴が上がり続け、それは傍にある森を越え、近隣の町にまで響き渡り、世にもおぞましい声として届く。


       耳にした者達は、皆こう思った。

    お化け達が夜半に、怨嗟の晩餐会(うたげ)を開いている、と。


ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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