表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/38

加奈のお別れの会が済み、いよいよ火葬に付される…隣の大将が見える人だった。

俺と凛が喜朗おじとサンドウィッチを作っていると『みーちゃん』ママがキッチンにやって来た。


「吉岡ちゃん、私も何か手伝おうか?」

「あ、いや大丈夫です。

 ありがとうございます!

 どうぞごゆっくりしてください。」

「そう…なんか申し訳ないわね。

 それにしても加奈ちゃん、あんなに若いのに可哀想に…。」


『みーちゃん』ママがハンカチを出して新たな涙を拭った。

 いつの間にか近くに来ていた加奈が、申し訳無さそうな顔をして後ろからそっと『みーちゃん』ママをハグしている。


「それにしてもここは凄い所ね。

 豪華だし景色は良さそうだし。

 ユキから話は聞いていたけど…。」

「明るくなったらユキに案内してもらってください。

 気晴らしのお散歩にもってこいの所ですよ。」

「ありがとう、そうするわ吉岡ちゃん。

 暖炉の所にいるから何か手が必要な事があったら呼んでね。」


『みーちゃん』ママがキッチンを出て行った。

 加奈はいつの間にか戦闘服から、棺に入れられた時に着せられた夏用の軽やかなワンピース姿になっていた。

 死霊は暑さや寒さに関係が無いため、いつでも好きな服を着れると言う事か…傷跡も消せるようだしその辺りは便利と言えば便利かな?


「うう~、加奈の油断で結構沢山の人が悲しんでいますぅ~!

 今回は不覚を取りました~!

 彩斗達も気を付けてくださいね~!

 一瞬の油断が一生の後悔を招く時があるですよ~!」


加奈は交通安全の標語のような事を言いながらキッチンを出て行った。

なるほど、確かに。

俺達は一瞬の油断で命を失いかねない事をしているのだ。


サンドウィッチが出来上がり、暖炉の間に持って行くとやはり見る見ると無くなって行き、喜朗おじが苦笑いを浮かべてまたキッチンに行った。


明石とクラが『ひだまり』から戻って来た。

加奈の為のささやかな献花台を作ったとの事だ。


クラは喜朗おじに呼ばれ、キッチンで追加の料理を作りはじめた。

暖炉の間の続きの書斎と、2階の空き部屋に疲れて仮眠する人の為にベッドが用意された。


俺は何やかやで忙しく、仮眠をとる事もしなかった。

自室に戻り、何年か前に買った喪服用の黒スーツはやはり肩回りなどがきつくなっていた。


明るくなって来て、俺と四郎とクラの3人で喪服のスーツを手に入れるためにランドクルーザーで出かけた。

2月になったばかりでまだまだ寒く、黒いスーツと一緒に俺達は手袋とコートとカシミアのマフラーを買って死霊屋敷に戻った。


岩井テレサの方で霊柩車も手配してくれて助かった。


昼近くになり、午後に出棺する事にしてささやかなセレモニーというか、喜朗おじと岩井テレサの簡単なあいさつ程度と加奈の棺に皆一輪ずつ花を入れようと言う事になり、四郎が懇意にしている『おはようからお休みまで、いつもあなたに最高のお花をお届けします!大町生花、駅前ロータリー本店』に急遽白や軽やかな赤や青の花を用意してもらった。


中華料理屋の大将とその息子夫婦、また、近所に住む『ひだまり』の常連の老夫婦や、圭子さんのママ友で加奈の顔見知りなどの人達がお別れ会にやって来た。

中華料理屋の大将などは涙をボロボロながしながらこんな若い娘がぁ!と泣いていた。

加奈が暖炉の間の隅でその様子を見ていて、申し訳なさそうに頭を下げていた。

死霊が見えてすぐそばに加奈がいるのを見ている俺でさえだんだん悲しくなってきた。


初めて加奈と会った時から、そしてククリナイフを操る加奈の恐ろしいほどの戦闘能力を

屋根裏で真鈴と共に見せつけられ、廃ボーリング場での加奈の人間とは思えない悪鬼を圧倒する戦いぶりをじかに見て、真鈴とドライブに出かける加奈を見て、実際に富士樹海地下の戦場で『加奈・アゼネトレシュ』の強烈な破壊力でたびたび助けられ、クラと凛の幸せの為に自分の幸せを密かに胸の奥にしまい込んだ底知れぬ優しさを持っていた加奈を見て、共に泣き笑いしたワイバーンメンバー、人間最強のワイバーンメンバーを失った悲しみが、今更ながらに改めて込み上げて来た。


ちょっと驚いたが、あの乾が来ており、加奈の棺に花を入れて神妙に頭を下げて祈っていた。


案の定、喜朗おじの挨拶はやはり涙で歪み嗚咽交じりでよく意味が判らなかったが、娘、一人娘の加奈が死霊になったのでこれは仕方ないであろう。

参列してくれた人たちへの感謝で締めくくって深く頭を下げた喜朗おじに並んで目を赤くした加奈も揃って頭を下げていた。


そして岩井テレサがマイクを持った。


「皆さん、私達は今日、若宮加奈と言う、朗らかで善良でそして非常に強い仲間を失いました。

 彼女がこの世界で生を受けてまだ20年、とてもとても短い年月です。

 また、その年月も決して平坦でなく、様々な苦労を切り抜けてきた女性でした。

 遥かに歳を重ねた私から見ても非常に尊敬に値する女性だと確信します。」


岩井テレサがちらりと加奈を見た。

加奈がかしこまって頭を下げた。

岩井テレサが微笑んで小さく頷くと話を続けた。


「今日は私達が若宮加奈を失った悲しみの日であります。

 しかし、私はこう考えます。

 この世に生を受けた人々それぞれが、一冊の本のような長い長い物語を紡ぎ出しています。

 長い長い、それぞれの人が世界で唯一無二のその人だけのお話を紡いでいるのです。

 本日、若宮加奈はその人間としての人生を終えましたが、まだまだ若宮加奈の長い長いお話は終わりません。

 終っていないのです。

 『死』には全てを終わらせる力はありません。

 若宮加奈は、彼女の物語の人間としての第1章を終え、新しい存在としての第2章を踏み出すのです。

 判る人には判るでしょう。

 私達は若宮加奈の人生の第1章を優しく見送り、新しい人生の第2章を温かく迎えましょう。

 人間としての生を終え、新たな存在になった若宮加奈に大いなる幸運を。

 そして、若宮加奈と知り合い縁を結んだ人達にも今後大いなる幸運が訪れますようにお祈りしながら私の挨拶を終えさせて頂きます。」


若宮加奈の入った棺の蓋が閉じられ、霊柩車に載せられた。

俺達が頭を下げる中、霊柩車が医療屋敷を出て行った。

俺達は小型バスや数台の車の同乗して霊柩車の後を追った。

乾はいつの間に姿を消していた。


火葬場につき、俺達は加奈と、魂が抜けた加奈の身体と最後のお別れをした。

司や忍は加奈の頬をさわりその冷たさに驚いてまた泣き出した。


加奈の火葬が終わるまで俺達は部屋で待たされた。

大将が俺に話しかけた。

 

「なあ、吉岡さん。」

「なんですか?大将?

 さっき挨拶をした人…。」

「ああ、岩井テレサさんです。」

「そうそう、なんか、少し不思議な感じの事を言ってたけど…俺にはしっくり来たんだよね…あの…『死』には全てを終わらせる力が無いってやつだけどさ…おいらは本当にその通りだと思うんだよ…実はさ…見えるんだよね…。」

「大将、何が見えるんですか?」

「ほらっあそこ。

 今火葬されてるはずの加奈ちゃんが新人の凛ちゃんと座って話してるのが見えるんだよね。

 加奈ちゃんは夏物のワンピース来て寒くないのかね?」


大将が指差す先では、加奈が小声で凛にRX-7のギアチェンジのときの注意点を話している

確かに大将が言う通り、あの夏服ワンピースは今は寒く見えるな。

とりあえず俺はとぼける事にした。


「ええと…俺には加奈は見えませんけど。

 岩井テレサさんは色々な事を知っている人ですから、その通り、死んだ後も人って存在し続けるかも知れないですね。」

「そうか…まぁ、そうだよな。

 でも、俺にははっきり見えるよ。

 加奈ちゃんは屈託なく笑ってるよ。

 まぁ、幸せそうで良かった。」


俺は外にタバコを吸いに行く時に凛に声を掛けた。


「なんですか?彩斗リーダー。」

「凛、どうやら隣の中華料理屋の大将、見える人らしいよ。

 しっかりと加奈の服や凛と話しているのを見ているね。」

「…ええ!そうなんですか?」

「うん、加奈にあまり大将から見える所に居ないようにするか…思い切って挨拶に行くかした方が良いと伝えてくれる?」

「はい、加奈に伝えます。」


俺は大将にどう対応するか加奈に任せる事にした。

加奈はきっとその後も『ひだまり』の近所とかも行くかも知れないからな…しかし、大将も…あれ?…ひょっとして…。


俺は再び部屋に戻り大将に話しかけた。


「あの…大将。」

「なんだい?吉岡さん。」

「大将って…ひょっとして『ひだまり』にいるあの…スカート覗く奴らを…あの。」

「おう!知ってるよ。

 まぁ、お隣様の店でああいうのがいるって言うのもあまり人様に話せねえからな~!

 おいらは結構子供の頃から見えてるけど、あまり見えない人には言わないようにしているんだよ。」

「大将、お心使いありがとうございます。

 今後も『ひだまり』のスケベ死霊達の事は…。」

「おお、誰にも言わねえよ。

 安心してくれ。」

「ありがとうございます!

 なんかあいつら、一種の座敷童みたいなやつらなんで。」

「へぇ~そうなんだぁ。

 お隣が繁盛してるからこっちも助かるからな!

 絶対に秘密にしておくよ!」


大将がニヤリとして親指を立てた。


俺は大将に礼を言ってまたタバコを吸いに行った。

明石や四郎と圭子さんが煙草を吸っていた。

俺は隣の中華料理屋の大将が死霊を見える人だと伝えた。

そして、スケベヲタク死霊軍団の事も内緒にしてくれると約束してくれた事も話した。

明石達は感心した声を上げた。


「それは一安心だな~!

 後は加奈にあいつらの存在をどう伝えるかだな~!」


明石が言った。


「え?景行、凛とはなちゃんから加奈に伝えてくれたんじゃないの?」

「いやぁ~、彩斗、何となく言いそびれたらしいんだよねこれが…。」

「…ええええ?」

「俺とクラで今朝、加奈の献花台を作りに行っただろう?

 あの時に暗黒の才蔵達に加奈が死んでしまったと伝えたんだ。

 加奈がすぐに天に昇る事も無いだろうと言う事もな…そうしたらあいつらがぜひ加奈様にご挨拶を!とか言い出していてな…。

 死霊屋敷に戻ってきたら凛とはなちゃんが加奈にあいつらの話をしそびれたと判明してな…さて…加奈にどう伝えるか…やはりここは彩斗のプレゼンテーションの出番だろうな。」


え~!またあれをやるのか~!

俺はしゃがみこんで頭を抱えてしまった。






続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ