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加奈が死んでしまったが…何と言うか…あまり悲しくないと言うか…俺達は混乱した。

吸血鬼ですが、何か? 第11部 地平の彼方編





返り血を浴びた明石と四郎、それにはなちゃんをリュックに入れた凛が階段から降りて来て、倒れて事切れている加奈と、その横に蹲る喜朗おじを見て固まった。


「彩斗、ぐずぐずするな。

 処理班を呼んでこいつらの収容と加奈の遺体の収容を頼め。」


明石はそう言った後で頭を抱えて作業場の椅子に座り込んだ。


「なんて事だ…加奈…油断したか…。」


四郎が呻くように呟いた。


「加奈…ちぃとばかり早すぎるじゃの…。」


はなちゃんが入ったリュックを目を見開いた凛がぎゅっと抱きしめている。


「加奈!うわぁあああ!加奈ぁ!

 加奈ぁあああああああ!」


真鈴が沈黙を破り叫びながら加奈の身体に駆け寄り、しがみ付いた。


「加奈ぁ!うわぁあああああ!

 嘘だぁ!嘘だよぉ!」


続いてジンコが加奈に飛びつき、まだ体温が残る手を握り自分のほほに押し当てて泣き崩れた。

クラが全弾撃ち尽くしたオリジンショットガンにすがるように膝をつき、じっと加奈を見つめて涙を流していた。

俺の視界も涙で歪んでいる。


しかし、ここで泣いているだけでは何もならない。

俺は周辺を警戒している警察に事案が終了した事を告げ、ついで待機している岩井テレサの処理班に生け捕りにした人間構成員の男女の収容とまだ気色悪い笑顔のまま死んでいる痩せっぽちの男の死体と…そして、加奈の遺体の収容を頼んだ。

男女構成員についてはこちらで尋問後に警察に引き渡され、悪鬼の部分を非公開にした裁判が行われて判決が出て刑の執行が行われるだろう。


喜朗おじがよろよろと立ち上がり、作業場のテーブルの上を手で払ってその上の物を全てどけると、加奈の遺体を抱き上げてその上に寝かせた。

加奈のはだけた胸を閉じると、胸の服に空いた傷を除けば加奈はただ、安らかにその場に横になっているようだった。


喜朗おじは加奈のおでこを優しくなでてやり、そして俯き、タバコを取り出すと1本火を点けた。


真鈴とジンコとクラが作業台に縋り付いてすすり泣きを続けていた。

凛ははなちゃんが入ったリュックを抱きしめながら大きく見開いた眼で加奈を見つめ、涙を流していた。


明石も四郎も、気絶した男女の構成員を見張りながらも歯を食いしばり、無念の表情を浮かべていた。


やがて処理班が入って来ると、全員が並んで加奈の遺体に頭を下げて黙祷をした後で男女の構成員を連行し、2階の悪鬼の死体と加奈を撃ち殺した痩せっぽちの男の死体を運び去り、現場の血の跡などを掃除し始めた。

処理班の男が喜朗おじに近寄り、加奈に手を合わせて黙祷した後で、加奈の顔を観察した。


「この度は誠に残念でした。

 加奈さんが抜け出るのはもうそろそろかと…そうなればご遺体は此方で清拭などを行いますが…。」

「ああ、そうしてくれ…。」

「ご遺体は清拭後そちらにご案内しますが…その後はどうされますか?」


喜朗おじが天井を見上げた。

そして、俺を見た。


「彩斗、死霊屋敷の一角を加奈にやってあげてくれるか?

 あの敷地の中に墓を建ててやりたいんだが…。」

「もちろんだよ、喜朗おじ、好きな所に、加奈が好きな所に建ててやって…。」


そこまで言ってから俺の体に震えが走った。

加奈が死んでしまった事が今更に実感できた。

俺の目から新たな涙が溢れ、震えて歯がガチガチと鳴った。

俺は震える手でタバコを取り出し火を点けた。


真鈴とジンコとクラはまだ涙を流しながらも放心状態で椅子に座り、加奈の遺体を見つめていた。


「喜朗おじ…そろそろか?」


明石が尋ねた。


「ああ、もうじきだろうな…。」


俺は明石と喜朗おじが何の事を話しているのか、判らなかった。


「あ~!ドジしちゃったですぅ~!」


加奈の声が聞こえた。

はなちゃんが手を上げた。


「全く加奈はドジを踏んだじゃの!」


見ると、作業台に横たわっている加奈の遺体から加奈の死霊が上体を起こしていた。

死んだばかりなので、生きている人間と寸分もたがわぬ鮮明さで俺には、そして死霊が見えるメンバー、喜朗おじ、明石、四郎、はなちゃん、凛には加奈が見えていた。


加奈が見えない真鈴達はそのまま加奈の遺体を見つめたままで座っていた。

加奈は自分の胸の傷を見下ろして、おぇ!と声を上げてから手で拭うと、傷が消え去り、無傷の戦闘服姿になった。


「あ~やっちまったよ~!

 若宮加奈、最大の不覚だぁ~!」


加奈が頭をがりがりと掻きながら作業台から降りて俺の横に立った。


「彩斗、タバコ吸わせてもらうわね~!

 喜朗父、もう加奈はタバコ吸っても良いでしょ~?」


喜朗は呆れた表情で頭を振った。


「もう死んだしな。

 身体の心配もしないでよいしな、好きにしたらよいさ。」


喜朗の言葉を待たずに加奈が俺が持っている煙草の吸い口に口を付けて吸い込んだ。


「プハ~!一応くらくらするよ~!

 でも、確かにはまるかも~!

 なんか、落ち着くですぅ~!」


作業員たちが加奈に気が付いて加奈の方を見て深々と一礼した。

加奈は少し慌てながらも礼を返した。


「お抜けになったようなのでご遺体を引き取らせて頂きます。

 急いで清拭を済ませてお屋敷にご案内をしますので、加奈さんが好きだった服など用意しておいてください。」

「はい、判りました。」

「それであの、加奈さんはどういう形式で埋葬されますか?

 許可を取れば棺での土葬も…。」

「あ~私は火葬が良いですぅ!

 お骨にしてください~!」


加奈が慌てて言い、処理班の男が加奈に向かって答えた。


「かしこまりました。

 それでは火葬後にお骨をお屋敷の敷地にお墓を作ると言う事で。

 若宮加奈さん、お疲れさまでした!」


その場にいた作業員が再び加奈に深々と頭を下げた。

流石に真鈴達がその異様さに気が付いた。

作業員たちはストレッチャーを持って来て、加奈の遺体を丁寧に乗せて出て行った。

真鈴が喜朗おじに尋ねた。


「え…加奈はここにいるの?」

「うん、もう魂が抜け出たようだな…そして、加奈は暫く天に昇らないだろう…俺達が加奈に代わって加奈の家族の仇を討たない限りはな…。」

「え…そうなんだ…加奈!いるんでしょ?返事してよ!」


あちこちを見回して加奈を呼ぶ真鈴の顔の前に加奈が顔を突き出したが、真鈴が全然気が付かない。


「真鈴、加奈はお前の目の前にいるけど…見えないだろうな~。」


俺が言うと真鈴は目の前の空間に手を伸ばした。

加奈の身体に手が当たりすり抜けた。


「え…何にも判らないよ…彩斗、喜朗おじ…こういう時はどうすれば良いのか判んない…。」


真鈴の言葉にジンコもクラも頷いた。

明石が煙草に火を点けてぼそりと言った。


「まぁ、死霊となっても加奈の人格は変わらないしな…俺達には死にたてほやほやの加奈がまるで生きている人間と変わらずに見えるし話も出来るんだが…真鈴やジンコ、クラ、俺達は加奈と普通に会話するから、その時は適当にスルーしてくれ。」

「そうですよ~!真鈴達とお話しできないけど、加奈はここにいますからね~!」


明石が苦笑を浮かべて俺に言った。


「彩斗、加奈が今言った事を真鈴達に伝えてやってくれ。

 加奈の口調を真似てな。」

「…え…。」

「ほら、早くやれよ。」

「彩斗、早くやるですぅ~!」


加奈は死霊になっても俺をいじる…。


「え~と…ごほん!

 え~、そうですよ~!真鈴達とお話しできないけど、加奈はここにいますからね~!」


俺がそう言うと加奈は腕組みをした。


「まあまあですね~!

 もう少し練習するですよ~!」


真鈴達はポカンとした顔で俺を見つめていた。


「さて、加奈の葬儀をせにゃいかんからそろそろ引き上げるか。

 圭子と司と忍になんて言うべきか…。」

「景行ちん!

 加奈の一生の不覚でした~!」


加奈が頭を下げたが、何と言うか、俺は感情の整理がつかずに混乱している。

真鈴達の様に死霊が見えないなら素直に加奈の死を悲しむ事ができるのだが…。


「彩斗リーダー、その気持ち、判りますよ。」


凛が俺に囁いた。

死霊が見える者同士、やはり混乱しているのだろう。

俺達は似非自然食品店を出てそれぞれの車に乗り込もうとした時、紅いRXー7の前で加奈が頭を抱えて地団太を踏んで叫んだ。


「ああ!もうこれの運転が出来ないですぅ!

 あんまりですぅあんまりですぅ!

 ぎゃひ~!加奈は!加奈は死んでしまったですぅ~!

 無念じぁああああ~!」


…今更かい…。








続く



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