地下を捜索する俺達、四郎に化けた奴を捕まえた…そして美しい歌が…奴らの本丸はここだろう。
ビルの地下は俺達の想像を遥かに上を行く広さ、そして細い廊下が縦横に走り、あちこちに怪しい部屋が並んでいた。
リリーはまだ手が足りないと判断して先ほどの事務所で証拠を集めているカスカベル3班4班にも応援を要請した。
スコルピオとカスカベルの1班が地下2階を、俺達とカスカベルのもう1班が地下3階を調べる。
俺達は廊下が分かれる程にメンバーを分けて行き、部屋の捜索を続けた。
メンバーはどんどん分かれて行き、ついに俺とジンコ2人で捜索する事になった廊下の右側の部屋を順次開けては中を調べる。
廊下の左側の部屋は凛とクラが調べている。
中々に神経を使う骨が折れる作業だが部屋の捜索は気を抜けなかった。
じりじりと緊張した時間が続いた。
その時、どこかの部屋から銃撃する音が聞こえた。
そして激しく争う音が聞こえて来た。
インターコムからリリーの声が聞こえた。
「各班そのまま捜索を続行!
私達が対応に向かう!
…同士討ちに注意!
各自同士討ちに注意!」
俺とジンコは顔を見合わせた。
同士討ち…何だろうか?
ともかく、俺とジンコはそのまま捜索を続けた。
今の所鍵がかかっている部屋は無い。
「なんでこんな地下迷宮を作ったんだろうね…奴らなのかな?」
ジンコが呟いた。
「さぁ、バブルの頃にはこういう違法建築で部屋を増やしたビルが多いとは聞いていたから…ヒューマンのオーナーか業者が勝手に作ったのかも…。」
俺とジンコは捜索を続けてゆき、少し広い部屋に入った。
30畳ほどの広さでエル字型の部屋は何か怪しい。
俺達は互いをカバーする体制で奥へ進んだ。
その時いきなり四郎の声が聞こえた。
「よう、俺達の担当エリアは捜索が済んだぞ。」
振り向くと四郎が一人立っていた。
俺達は四郎にUMPサブマシンガンを向けたままでいた。
「おいおい、俺に銃を向けるな。」
四郎は笑いながら俺達に近づいて来た。
俺とジンコは同時に四郎に向けてUMPサブマシンガンを発射した。
両足と腰に銃弾を受けた四郎がよろめいた。
「四郎は俺なんて言わねえんだよ!」
「その通り!俺だなんて言わない!
速やかに降伏しなさい!」
俺とジンコの声を聞いた四郎の姿が見る見ると変貌して初老の老人のアナザーに変化した。
持っていたサーベルや装備品も体の中に吸収された。
無機物もひっくるめて変化できるのか…。
初老のアナザーが足を引きずって襲い掛かって来たが部屋に飛び込んできた凛とクラが後ろからアナザーの背中に弾を撃ち込んだ。
アナザーががっくりと腰を落とした。
背骨を破壊したようだ。
再生しようと床でもがくアナザーに俺達はとびかかり抑え込んで手錠をかけた。
「ふぅ、自爆されないで助かったわ。」
アナザーから離れたジンコが指をバラクラバに突っ込んで汗を拭った。
「こちらワイバーン、彩斗、今アナザーを1匹確保した!
奴らは化ける!
味方に化けるぞ!
各自注意!」
「こちらリリー、彩斗、聞こえたよ!
さっきの同士討ちと言う一報も実は化けている奴の攻撃だったよ。
カスカベルでアナザーが1人、ヒューマンが1人負傷、アナザーは回復して戦列に復帰しているよ。
彩斗凄いね!どうやって見破ったの?」
「リリー、四郎に化けたから俺もジンコもすぐに判ったんだ。
いつもの四郎の話し方と決定的に違ったからね。
四郎に化けてくれて運が良かった。」
「なるほど、奴らははた目から観察して見た目だけコピーすると言う事か…じゃあ、こちらの名前が何なのか尋ねれば答えられない可能性があるわね!
サンキュー!皆に伝えるわ!」
インターコムからワイバーンメンバーの声が入って来た。
「彩斗、成る程な。
しかし、奴らは俺達の会話なども聞いて名前くらいは聞き取るかも知れんぞ。」
「喜朗おじ、その可能性もあるね…じゃあ、自分のエピソードや特徴を一つでも言わせれば良いかも…例えば喜朗おじはズラヲタ芸とか…。」
「成る程…しかしそれは…。」
沈黙した喜朗おじの代わりに真鈴が会話に割り込んで来た
「それは良いアイディアかも!
例えば彩斗は2回と4分の1野郎…プッ…とか…。」
…全くこの女はこういう時に…。
「そうね!それは良いわ!
彩斗鯨女顔面鷲掴みキス拒否られ野郎とか!」
「おでこに肉と落書きケツ花火小学校全焼というのもあるな!」
「テーブル真っ二つショックでチビリーノと言うのもあるわ!」
「何それ私知らない!」
「凛、彩斗はそう言うエソードに事欠かないのよ。
真鈴のブーツクンカクンカげろ吐き悶絶事件とか…。
「ひゃあ!面白そうです!
帰ったら女子会で暴露大会を是非!」
「凛!俺も混ぜてくれよ!
お前の夫だろう!」
…くそ…俺はワイバーンリーダーなのに…。
「ああああ!俺の事はいいからお前ら捜索に戻れ!
ともかく怪しいと思ったら武器を向けたまま確認を取れ!」
「はい!彩斗リーダー!プッ!」
そう言う訳で俺達は捜索を進めた。
残りの部屋が少なくなりつつある。
俺達は2人グループから4人グループになって残りの部屋を調べて行った。
既に地下で計3名のアナザーを捕らえた。
自爆する者は1人も無く、どうやら幹部級の者達らしい。
今は俺とジンコと真鈴とはなちゃん、そして四郎が一組になって捜索をしている。
「真鈴、わらわが入ったリュックを前に廻すじゃの!」
「はなちゃん、何か感じる?」
「結界内でよく探れんがここまで近づくと何かの気配を感じるじゃの!
何かが近くにいるじゃの!」
「はなちゃん、敵のリーダー格かい?」
「それはよくわからんじゃの!
じゃが…強くはない…決して戦いに強くはないが…なんじゃろうか…何か特殊な奴がいるじゃの。」
四郎が足を止めた。
「まて!何か聞こえるぞ!
皆静かに!」
四郎が押し殺した声で言い、俺達は足を止め聞き耳を立てた。
「四郎…良く判らないわ…。」
「真鈴、ヒューマンでは判らぬかも…歌か…もう少し近寄ろう…こっちだ。」
俺達は四郎を先頭に廊下を進んだ。
「わらわも聞こえるじゃの…歌じゃの…それと…ピアノかの?。」
はなちゃんが小さく声を上げた。
廊下を進む俺達にも微かに高音の子供か女性の歌う声とピアノの音が微かに、ほんの微かに聞こえて来た。
「聞こえるわ…何かの罠?」
ジンコが囁いた。
「ジンコ、そう言う計算は感じないじゃの…ただ純粋に何かを訴えて歌っているじゃの…何かを嘆いているのか…何かを呼び求めているのか…何かに救いを求めているのか…何かに愛を語っているのか…それとも…罠や待ち伏せでは無いじゃの…。」
俺はインターコムでリリーに話しかけた。
「リリー、こちら彩斗、どうやら本丸のような所に行き着いた様だ。
近くにいる者達を集めてくれる?」
「リリー、コピー。
彩斗の発信する場所を確認、私が誘導して近くを捜索している者達を送るわ。」
「コピー。
皆もう少し仲間が集まるまで突入するな。
廊下を廻ってこの部屋に別に出入口らしいものが無いか確かめてくれ。」
四郎とジンコが左右に分かれて壁をチェックしながら進んでいった。
俺とはなちゃんを抱えた真鈴がドアに耳を当てて中の音を聞いていた。
「なんだろう彩斗…何か凄く美しくてそれでいて哀しい歌ね…はなちゃん、奴らの罠じゃないの?」
確かに厚い鉄板のドア越しに微かに聞こえるのだが涙が出るほど美しい歌声だった。
ずっと聞いていたいほどに、ユキを横に連れてきて一緒に聞きたいほどに…その異国の言葉の歌は…美しかった。
「真鈴、罠では無いじゃの。
中の者は純粋に己の心を歌っているじゃの…じゃが、ここに間違いないじゃの。
奴らの本丸はここじゃの。」
やがて、明石と喜朗おじ、クラと凛、そしてカスカベルチームの何人かが静かにやって来てドアの周りを包囲して突入の体勢に入った。
四郎とジンコも戻って来て別の出入口らしいものは見つけられなかったと言った。
突入を前に廊下に待機している俺たち全員が、じっと耳を澄ませ息を殺してその歌声に聞き惚れていた。
何事も許せてしまえるような…美しい歌だった…。
続く




