俺達は装甲バンで待機を続けながら、非常にゆっくりと捜索が進むのを待っていた。
午前7時22分。
今までの騒ぎで多少人通りは少なくなったが、町は通勤通学の人達が増え始めている。
しかし、俺には町を歩く人達が言い知れぬ不安を感じていつもより周りに視線を走らせて何か異常が無いか注意している事が判った。
見た目にはいつもの日本の普通の街の風景だが、やはりあの静岡の事件から、そしてネットで煽られた暴動以来、人々の意識はすっかり変わってしまったようだった。
俺の思考を呼んだのか四郎がため息をついた。
「彩斗、その気持ちは判るぞ。
やれやれ、あの平和な時代が戻ってくるのか、われも心配になるな。」
「うん、そうだね四郎。
でも、俺達が頑張ってあの平和な頃を取り戻そうよ。」
真鈴達が深く頷いた。
「彩斗リーダーの言う通りね。
あの頃の能天気なほど平和な頃を取り戻しましょう。」
真鈴の言葉に俺たち全員が頷いた。
やがて装甲バンは町中の道の端に停まった。
運転している警察官が降りてバンの周りにコーンを置き、安全監視警戒中と言う置き看板を置いた。
成る程これなら暴動などが起きた時の為に警戒しているんだと人々は思ってさほど違和感は感じないだろう。
ジンコがノリッピー達から渡された12インチの大型画面のタブレットを開き、全員が覗き込んだ。
画面にはリアルタイムに葛西駅周辺の加奈達が特定したエリアが映し出された。
タブレットからノリッピーの声が聞こえる。
「対応班、捜索班が配置に付いた。
これより北と南から捜索を始める。
一軒一軒しらみつぶしに探るから時間がかかるけど気を抜かずに待機して欲しい。」
俺達は無言で頷き、タブレットを見つめた。
画面には待機している対応班が赤い点で、捜索班が黄色い点で表示され。
しばらく経つとタブレット画面の区域の北と南の一角が青くなった。
捜索が済むとリアルタイムで該当した場所が青くなる。
しかし、やはり丹念に捜索しているのでその進みはじれったくなるほど遅かった。
「やれやれ長期戦になるな。
気を抜かずに待つとしよう。
皆、今回は生け捕りが目的だ、頭と心臓にやたらに撃ち込むなよ。
われ達の練習といささか違うがな。」
「その通りだね四郎。
手足を撃って行動不能にする訓練をしておけば良かったよ。
でも、アナザー相手にそんな事をするとはね。」
ジンコが苦笑を浮かべた。
「そうね、今までの私達は殺すか殺されるかでそんな手加減する訓練はしていないからね。」
はなちゃんが手を上げた。
「確かに今回は些か難しい事をするじゃの!
じゃが、皆殺されぬように気を付けるじゃの!
誰かそのイチゴポッキーを食べてくれじゃの!」
やれやれと真鈴が頭を振りながらもお菓子の山からイチゴポッキーをとると箱を空けてポリポリと齧り始めた。
「やはりイチゴポッキーは美味しいじゃの!
真鈴、今度は2本同時に食べてくれじゃの!」
「あ~はなちゃんは呑気だね~。」
「うむ、まあ、下手に緊張しすぎていても草臥れるからな。
われも何か食べるとするか。」
「俺も食べようかな~!
あ、これ、新発売の奴じゃんか。
この前ユキが美味しかったと言ってたよ。」
運転席と助手席に座った警官達はへらへら笑いながらお菓子を食べる俺達をちらちらと見て呆れた顔を見合わせていた。
俺達はお菓子を食べながら飲み物を飲みながらタブレットを見つめていた。
画面ではゆっくり、非常にゆっくりと青い部分が広がって行った。
壊れたのではないかと心配になるほど非常に時間がかかる場所もあった。
恐らく高層建築のビルなどであろう。
俺は腕時計を見ると捜索開始から50分も経っているが青い画面はまだまだ狭い範囲だ。
四郎が言う通り、奴らの居場所を見つけ出すのにかなりの時間がかかるだろう。
俺達はお菓子を食べながら、時折武器の具合を見たり装備の装着具合を確かめたり、支給された手錠を素早く抜いて奴らの手にかける練習をしたりして時間を過ごした。
町ではこんな作戦が行われているとも知らない人々の歩いている姿が多くなってきた。
町では一人で歩く子供の数がめっきりと減っていた。
電車で通学する小学生もかなりいる場所だが、皆母親か父親がついているか何人かで固まって駅の方に歩いて行く。
出来ればもう少し奴らを見つける時間が遅ければ良いと思った。
何か不測の事態が起きた時に絶対に子供を巻き添えにはしたくない。
通学時間帯が早く終わるように俺は祈った。
「あ~それにしても時間かかるわね~。
じれったいな~。」
真鈴がUMPサブマシンガンのスライドの動きを確かめながらぼやいた。
「しょうがないよ真鈴。
一軒一軒しらみつぶしだし、人がいる部屋や鍵が掛かっている部屋にどんどん踏み込むわけにいかないからね。
恐らく加奈が連れて来たスケベ…スケベヲタクファンタースマが壁を擦りぬけて中の部屋を一つ一つ調べて潰していると思うよ。」
「そうか~、彩斗が言う通りだとしたら確かに時間が掛かるわね。
ビル一つなんか全て調べるのに1時間でも足りないかも。」
「ジンコ、その通りだと思いますぅ~!
もっと手下のファンタースマを沢山連れてくればよかったですぅ~。」
加奈が言ったが、死霊…ファンタースマの言葉を聞けない真鈴とジンコの為にはなちゃんが加奈の言葉を伝えた。
「成る程ね~でも、もっと死霊…ファンタースマが…ひゃっなんか恐ろしいわ~。」
真鈴がそう答えてブルっと体を震わせるとジンコがおかしくてたまらないと言う感じで言った。
「あはは、真鈴は昔から生きている奴には強いけど幽霊とかは苦手よね~。」
「うきゃきゃきゃ!真鈴はおかしいじゃの!
わらわも加奈もファンタースマじゃの!
今この時に一緒にいるのに怖がるのは変じゃの!」
真鈴が不貞腐れた顔つきでイチゴポッキーを齧った。
「あら、最初は依り代に入る前のはなちゃんも恐かったわよ。
それに、加奈は生きている時から知っているし親友だったからね。
はなちゃんだってもう親友だしさ~。
私に変な事や怖い事しないってしっかり判ってるもん。」
成る程、その人となりを知れば怖くなくなると言う事か。
確かに見ただけでどんな人か良く判らない時などはその人がちょっとやさぐれた雰囲気の服とかしていたら怖いもんな。
人は何か判らない事、どう行動するのか判らない人などを怖がり疑い警戒すると言う訳だ。
「それに四郎が復活した時も恐かったわよ。
ああ、マジの吸血鬼だ!私の人生も終わりだぁ!と思ったわよ。
その後四郎の事を色々と聞いて話して怖さは全然無くなったけどね~。
やっぱり知ると知らないじゃ全然違うわね~。」
ジンコが苦笑を浮かべた。
「真鈴の言う事は判るわ。
ヒューマン同士だってトラブルが起きる原因で誤解や偏見、その人に対する無知で色々な悲劇が起こるものね~!
明らかに悪意や害意や殺意を持っていない限りはそう言う行き違いで哀しい事が起きると思うわ。
互いに知れば、互いに分かり合えれば優しくなれるものね。
世界中がそうなれば平和になって万々歳だけど。
ヒューマンだけで75億人もいるから、それは無理な相談かもね~。」
ジンコの言う事はもっともだ。
「はぁ~私たちワイバーンなんかアナザー、ヒューマン、そしてファンタースマだって判り合い助け合って生きているのにね。
難しい物だわ~!」
真鈴が腕組みをして自分が言った言葉にうんうんと頷いた。
「その通りだね真鈴。
皆が判り合えればお互いにもっと優しく接して世界は随分平和になるよね。」
インターコムから凛の声が聞こえた。
「聞いていたわよ~!
彩斗リーダー、確かにジンコが言う通りよね~!
私達はこんなに仲が良いのにね~!」
「本当にそうですよ。
俺と凛なんかヒューマンとアナザーだけどこんなに愛し合っているのに~!」
「もう~クラ、何言ってるのよ~!
でも嬉しい~私もクラを愛してるよ~!」
「凛~俺も~!」
インターコムから聞こえてくる凛とクラののろけ話を聞いて俺達は苦笑を浮かべた顔を見合わせた。
その間、タブレットの画面はじりじり非常にゆっくりと青い範囲が広がって行き、ノリッピーは青い範囲の飲み込まれた対応班の位置を移動させる指示を出して残りの未捜索範囲のカバーを密にした。
まもなく町中のビルが立ち並ぶ地域に捜索がかかり、ますます青い範囲の広がりが遅くなった。
「そろそろ引っかかるかもな。
みな、体をほぐして置けよ。
今のうちにトイレも交代で済ませよう。」
四郎がそう言って背筋を伸ばし、立ち上がって膝の屈伸を始めた。
続く




