俺達は活動を続ける、ランドローバーは修理に時間が掛かるようだ、屋敷の近くに『みーちゃん』が開店するかも…そして、加奈が率いる死霊軍団が何者かに襲撃を受けた。
明石夫婦が決済が済んだ書類とデータが入ったメモリを持って俺の部屋に来た。
「彩斗、今月の書類仕事は全部片づけたぞ。
後、これはランドクルーザーの修理の見積もりだ。
最近部品が中々少ないが何とか2週間程度で仕上げるそうだ。
それで今、深海オートの親父と正平君が来てな、ランドローバーをどこまで直せるかガレージで見ている。
俺も見物に行くが彩斗も…おや?」
明石と明石に肘で脇を小突かれた圭子さんがしげしげと俺を見た。
「なに?2人とも?」
明石夫婦はニヤニヤして俺を見ていた。
「なるほどね~彩斗、もう少し男前が上がったかしらね~!」
「そうだな、彩斗はまた少しリーダーの顔になっているな。
この機敏を判るのは悪鬼のだいご味かもな~!」
なんの事か良く判らない俺を残して明石夫婦は1階に降りて行った。
何かのDVDを何枚も抱えたはなちゃんがよちよちと廊下を歩いて来た。
「なるほど~!
景行と圭子が言う通り、最初にわらわが見た時の『下僕』の彩斗とはかなり違ってきておるじゃの!」
「なに?はなちゃん?
俺、何か変わった?」
「はぁ~、彩斗は少しも己で考えたり考察せずにすぐ人に聞くところはまだまだ小僧の甘ったれじゃの。
まぁ、知ったかぶりするよりも人に聞く事は少しはましなんじゃがの。
彩斗が今日の見た事を感じた事を自分の胸に聞いて深く考えれば自ずと判るじゃの。
まぁ、景行も圭子も、そしてわらわも彩斗がまた成長したと祝福しておるじゃの。
下僕、2回と4分の1野郎、鯨女顔面鷲掴みキス拒否られ野郎、ちびりーの彩斗、顔面落書きケツ花火小学校大火災小僧からは随分成長したと言う事じゃの!
まだまだ時々どんくさい事を仕出かしてずっこける時があるのじゃが、それは彩斗の『売り』みたいな物じゃからしょうがないじゃの!
とにかく成長を続ける自分を喜べじゃの!」
はなちゃんは今までの俺の恥ずかしい異名の数々を言った後で成長したと言って廊下を歩いて行き、階段をえっちらおっちら降りて行った。
…なんだよ『売り』って…。
奥のドアが開いてユキが出て来た。
「彩斗、夕方時間があればみーおばさんがもう一度2件目に見たお店を見に行きたいって言ってるけど…良いかな?
なんかみーおばさん頑張っててね、昨日と大違いよ。
少し若返ったかも。
あの2軒目のお店を見て内装のイメージを固めたいんだってさ。
それに夕方や夜の人通りも見たいとか言ってるのよ。
どうもあそこで『みーちゃん』復活かもね。」
「ああ、全然構わないよユキ…ところでユキ、俺の顔…なんか変わった?」
ユキが近づいて来て俺の顔をじっと見た。
「え…どうなんだろう?
時々どんくさい事してずっこけそうになるけど…『みーちゃん』にき始めた時よりずっと良い男になったよ彩斗は…。
かなり成長したと思う…でなければ私が彩斗に告られてオッケーするはず無いじゃん。
まぁ、時々どんくさいこと仕出かしてずっこけそうになる時有るけど、まぁ、それが彩斗の『売り』なんだから仕方ないかもね~!」
…なんだよ『売り』ってさ…。
「でも…彩斗良い男になったよ。
顔に凄い傷がついたけど…私にとっては彩斗はハンサムでイケてる男だよ。」
ユキはそう言って俺の頬にキスをしてくれた。
「ありがとう、ユキ。
ガレージで真鈴が借りたランドローバーがどこまで直せるか深海オートの人が見に来ているんだ。
一緒に行く?」
「うん。」
ユキがそう言って俺の腕に自分の腕を絡めて来た。
ガレージでは明石夫婦が立ち会う中で深海オートの社長と正平がランドローバーのあちこちを細かくチェックしていた。
ユキが壊れたランドローバーを見て小さく囁いた。
「うわ…結構壊れてたのね…車の事よく知らない私でも、良くここまで走ってこれたと思うわ…。」
「うん、俺もそう思うよ。
昔の設計でクラッシャブルゾーンと言う考えが無い時代の車だからね。
どこかぶつけても走り続けると言う点では最高の車かも知れないよ。」
ランドローバーのボンネットを開け、ガレージのジャッキで持ち上げたランドローバーの下からライトで照らしながら、深海オートの社長がメモを取っていた。
「ふふ、最初に停まっているパトカーを派手に弾き飛ばしたんだって?
パトカーって普通の車に見えて実はけっこうあちこち補強してあるんだ。
同じ型の普通の車よりかない重いんだよ。
今の車だったら最初にパトカーを弾き飛ばした時点で走れなくなっていたかもね。
なるべくオリジナルの部品を使ってくれと言う事なんだな?」
俺と明石が頷いた。
深海オートの社長はメモに書き込んだ。
「まぁ、結構売れた車だから意外と日本にもかなりオリジナルパーツがあるよ。
イギリスではかなりディープなマニアがやっているショップも有るから…時間が掛かるけど何とかなるね。
ただ、シャーシを引っ張って歪みなどを直さなきゃいけないし…2か月近くかかるかもね…お値段も掛かるよ、う~ん…250万円くらい貰わないと厳しいよ。」
乾は満足するなら安い値段だ、奴を怒らせたりしたら非常にヤバい。
「大丈夫、お金は即金で払うから直ぐに修理にとりかかってくれ。」
「ああ、判った。
あんたらはお得意様だからな。
最優先で仕上げるよ。
ところで…ダッシュボードの裏側に『キャサリン・ジョーンズ』と言う装飾が付いたプレートが張り付いていたけど何なのかな?」
ああ、そう言えば乾はこのランドローバーを『キャサリン・ジョーンズ』とこのランドローバーを呼んでいたな。
深海オートの社長が首を傾げた。
「キャサリン・ゼタ・ジョーンズの事かな?
彼女はもともとキャサリン・ジョーンズと言う名前だが、祖母のゼタと言う名前をミドルネームにしているんだ。」
圭子さんがあっと声を出した。
「あっ知ってる!
確か、映画『シカゴ』でアカデミー賞撮った女優さんよね~。」
「そう、あなた詳しいね!
最近はネットフリックスのウェンズデーでもお母さん役をやってたよ。今は妖絶な感じだけれど、若い時は凄い綺麗な人だったな。
あ、若い頃の彼女は少しだけ真鈴さんに雰囲気似てるかもな~!
顔を少し華奢にして眼もとを切れ長にしたら真鈴さんと言う感じかもね。」
俺達は深海オートの社長の話を聞いて顔を見合わせて成る程~!と思い笑いそうになった。
乾が真鈴に首ったけになったのが少しだけ判ったような気がした。
ランドローバーはトレーラに乗せられて深海オートに運ばれて行った。
その後、真鈴宛てに荷物が届いた。
熊の縫いぐるみが3つ。
圭子さんによると真鈴がこのぬいぐるみの顔の部分を切り取ってはなちゃんの着替え用にするとの事だった。
値段を見てびっくりした。
3つで36万円、ひとつ12万円だ。
だがまぁ、はなちゃんが念動力を発揮するにはこのぬいぐるみで作ったスーツが必要だし、今のぬいぐるみスーツは結構あちこち擦り切れて来ていたり中々落ちない汚れが染みついているからな。
はなちゃんの戦闘用装備と言えば安い物かも知れない。
それにしても結構出費が多い…。
家賃収入が順調なのと『ひだまり』の売り上げが好調なので助かっているが、悪鬼討伐の活動を続けるのはなかなか大変なんだ。
午後に四郎が戻って来て料理を作り始めた頃、リリーがやって来た。
リリーは『みーちゃん』が焼けた事を自分の様に残念がって『みーちゃん』ママを慰めたが、『みーちゃん』ママは笑顔でまた一からやり直すわ!と言ってリリーを安心させた。
これから新しい『みーちゃん』候補の店を見に行くと言うので、四郎とリリーもついて行く事にした。
俺達はレガシィとボルボで新しい『みーちゃん』候補の店に来た。
前の『みーちゃん』よりカウンター席が多くてボックス席も広いスペースに余裕をもってゆったりと置かれていて前よりも良い具合だった。
ママは特に居抜きで残っていたカラオケ機材を気に入ったようだ。
前の『みーちゃん』よりもアンプもマイクもスピーカーも数段高級品だと言う事だった。
賃料も安く、何か曰く付き?と疑ったが、店にはそれらしい死霊も無く、不動産業者によると前の店主はかなり長く営業を続けていたが、寄る年波に勝てずに引退して今は老人ホームにいると言う事だった。
カウンターの隅にかなり高級な銀製のカクテルセットが置いてあり、リリーが興奮している。
「きゃあ、これ、有名メーカーじゃ無いけどかなりの職人が力を入れて作った物よ!
良い仕事してるわぁ~!」
リリーがうっとりとカクテルセットを手に取って見ていた。
「え?リリーさん、カクテル作るの?」
ユキとママが尋ねると、リリーは自慢げに鼻を鳴らした。
「うふふ、明治の頃に横浜のお店でかなり有名なバーテンダーをしていた時があるのよ~!
ここでお店をするなら、私時々カクテルを作りに来ても良いかな?」
ユキとママが笑顔を見合わせた。
「ええ!もちろんよ!
ぜひ時々、いや沢山遊びに来てカクテル作って!」
「おまかせ!美味しいオリジナルカクテル飲ませてあげるわ!」
リリーが頼もしい笑顔を浮かべた。
その後俺達は飲み屋街から商店街を歩いた。
夕方から夜にかけて、結構人手があった。
最近の暴動騒ぎを考えたら、今の所暴動とは無縁な感じのこの町は結構商売がしやすいかも知れない。
その後俺達は不動産屋に、かなり真剣に店を借りる事を考えていると告げて死霊屋敷に戻った。
その後、夜のトレーニング、四郎が腕によりをかけた夕食を済ませて俺達はリリーも交えて暖炉の間に集まった。
リリーのスコルピオは岩井テレサの施設を固めていて暴動の鎮圧には出動しなかったが、鎮圧に出動したカスカベルやタランテラの隊員からかなり情報を仕入れたらしい。
「今回で暴動を扇動する悪鬼を何人か生け捕りにしようとしたんだけど、あいつらははなから捨て駒要員だったようだわ。
殺されずに生け捕りにされると思った途端にみんな自爆してしまったのよ。
今のところ有力な手掛かりは無いわね~。」
「そうか…扇動に利用されたユーチューバーやインフルエンサー達もネットでどれだけの影響力があるかなんて誰でも調べられるしね~。」
真鈴が届いたぬいぐるみの顔の部分にハサミを入れながらぼやいた。
「あの扇動動画だってさ、特に特定な政治的な事を言っていないわよね。
なんだか、少し歪んだ奴らの不満を爆発させようとしているのが見え見えだったしね~。」
ジンコもぼやき、俺達も同感だった。
「まあ、それだけ特定の政治的発言をしなかったと言う事はな、ある意味で広い層に暴動を起こせと訴えるには効果的かもしれないな。
最近の奴らは主張の背後に特定の政治団体などがあるのを見抜くと途端に熱意が冷める奴らも多いと思うからな。
今回は特定の政治傾向を持つ奴らと言うよりも、ありとあらゆる社会に不満を持つ奴らの緩い集まりのような感じだったしな。」
明石が言う事も、もっともかも知れない。
特定の政治団体の主張と言うよりも名も知れぬ一般庶民の不満をぶちまけろと言う方向の方が日本の場合、より多くの人間が動くかも知れない。
その方が少々歪んだ奴らが暴動に参加するハードルはかなり低くなる。
渋谷でハロウィンだ!騒ごうぜ騒ぎを起こそうぜ!と言う感じか…。
おつむはお粗末な暴れたい奴らの集まりだから、扇動して暴徒化させるのにそんなに苦労せず済むだろう。
そして短期で騒ぎを起こさせるならば暴動に飽きた奴らは直ぐに解散するから効果的だ。
実際にただ騒ぎたい奴らの集まりだったから、少々強硬な鎮圧をしたらあっと言う間に逃げ散った。
「景行の言う通りだとすると、今回の奴らは中々侮れないわね。
結構人間を、社会を研究している頭が良い奴が中心にいるだろうと思うわ。
そして、末端の悪鬼が躊躇せずに自爆をするような強固な意識が隅々まで浸透している集まりよ…手強いわね…。」
「うむ、リリー、確かに今回の奴らは今までの奴らと少し毛色が違う気がするな。
今回は手始めだとして…奴らは一手、二手先…何手先まで読んでいるのか…不気味だな。」
はなちゃんが新しいぬいぐるみを真鈴に着せられながら言った。
「やれやれ、今のところ有力な手掛かりを掴む可能性は加奈の死霊軍団が一番近いかも知れぬじゃの。
そろそろ加奈達が戻って来るじゃの…おや?
数が足りないじゃの…なんじゃ?
加奈がかなり慌てておるじゃの!」
はなちゃんの声に俺達は緊張して隠していた武器を取り出し、それぞれの配置について死霊屋敷の周辺を警戒した。
2階にいたユキと『みーちゃん』ママも司や忍と共に暖炉の間に連れて来て、ジンコと凛とクラとはなちゃんが周りを固めて襲撃に備えた。
「うひ~!
ちくしょう!やられたよ~!」
暗闇の先から、加奈の悲痛な嘆きの叫びが聞こえて来た。
「見えた!彩斗!
加奈達が戻って来たよ!
追手は無いようだけど…かなり死霊の数が少ないよ!」
真鈴と共に鐘楼から周囲を警戒していた圭子さんの声が聞こえて来た。
続く




