乾と入れ替わりにさととまりあがやって来て、昨日の扇動動画について恐ろしい発見をした事を伝えて来た.
「やれやれ、今日は朝から忙しいな、今度はさととまりあが来たぞ。」
「ほんとほんと、なんか忙しいわね~まだ髪の毛が乾いて無いわ。」
明石がため息をつき、真鈴が髪にタオルを巻いたまま、他の連中と共にさととまりあを出迎えた。
「みんなお早う、昨日の騒ぎでどこかに出かけた?
それに関連して私達が感じた事を伝えようと思ってね。
来たのよ。
電話などでは伝えきれないと思ったから。
真鈴は朝シャンの途中だった?
早くに御免なさいね~。」
さとが笑顔で言った。
そう言えばまだ朝8時過ぎだった。
『ひだまり』の開店準備に出かけようとしている喜朗おじもさととまりあの話を聞こうと、朝の仕込みを始めているクラと凛、学校に行った司と忍、そして昨日の晩から『みーちゃん』のママが抱きしめて離さないはなちゃん以外の全員が暖炉の間に集まった。
さとがコーヒーを美味しそうに飲んで話し始めた。
「皆昨日のネットでの扇動を見たでしょ?」
「おお、われらも見たぞ、さと。
悪鬼が何人か紛れていたな。」
「その通りよ、四郎。
だけどね、動画で色々煽っていたユーチューバーなどの中に元々悪鬼でいた者は1人もいなかったわ。
そしてね、四郎達が人間だと思っていた奴らもね、巧妙に変化した悪鬼なのよ。
あの扇動動画を流した者達は全員悪鬼なのよ。
あの中の数人はね、四郎達でも悪鬼と見破れなかった程非常に巧妙に見た目は人間に変化した悪鬼よ。」
「…。」
「悪鬼のメンバーは考えてみてよ。
大体、目立つことを最も嫌う悪鬼がユーチューバーとか、インフルエンサーとか目立つ事をしようとする?」
明石が身を乗り出した。
「うん、確かにその通りだが、さと、しかしそれはどういう事だ?
混乱を起そうとした奴らに悪鬼にされたとか?」
「景行、そうじゃないわ。
急に悪鬼にされてあんなに奴らの都合が良い事をすらすらと自然に言うはず無いじゃないの。
脅されて言ったとしても、私とさとには胡麻化されないわ。」
「じ、じゃあどうして…すべて悪鬼が成り代わったと…どうやってあんな事が出来たんだ。
悪鬼に本人になり替わるような変化が出来るとは聞いた事が無いぞ。」
「ふふ、喜朗おじ、あの煽ったユーチューバーたちはね、間違い無く悪鬼が変化した者よ本物じゃ無いわ。
偽物なのよ。」
「え…私が偽物だと聞いた時はてっきりAIとかを使ったディープフェイクだと…。」
ジンコが呟くとまりあが答えた。
「ジンコ、最近のAI技術も発達しているからね…。
でも、私もさとも見抜いたわよ。
モニター越しに実在の悪鬼がリアルタイムで話していた。
つまりね…悪鬼がね、AIよりもはるかに高い次元で本物そっくりに変化してなり替わったのよ。
オリジナルの…もともとのユーチューバーなどはもう…殺害されていると思うわ。」
まりあの答えに俺達は固まった。
「え…それじゃ、オリジナル…本物のユーチュバーなどが殺されて…悪鬼が本物そっくりに変化してすり替わったと言う事?」
俺がかすれた声で尋ねると四郎がこめかみに手を当てて呻いた。
「まさか…まりあ、さと、確かにわれ達悪鬼は動物や架空の生き物に変化出来るが、実在の人間そっくりに変化できるなど見た事が無いぞ。」
「うん、四郎が言う通り、俺も400年生きてきたがそう言う話は聞いていないな。」
まりあがくすりと笑みを浮かべた。
「四郎、景行、確かにとても珍しい事でね。
岩井テレサも知らないかも知れないわね…本来は並みの悪鬼には到底できない芸当なのよ。
だけど、私達は一度だけそう言う事例を見た事が有ったわ。
江戸時代にある大名にね、ある大名を殺した悪鬼がその大名そっくりに変化して大名になり済まそうとした事が有ったのよ。
その悪鬼はかなり巧妙に変化したのだけれど、幼い頃からその守役から始まり長い間大名に使えていた家老や大名の側室に姿かたちは凄く似ているけれど中身は全くの別人だと、悪鬼だと見抜かれてね。
密かに討伐された事が一度だけ有ったの。
もっともその顛末全ては闇から闇に葬り去ったみたいだけど。」
「…。」
「私達の変化は思念に寄る力が大きいわ。
思念の力で細胞レベルまで変化できるけど、物理的な形での限界を念動力で補うから、本来は喜朗おじのグリフォンの翼の大きさやそれを支える筋肉ではとても空を飛べるレベルじゃないけど悠々と飛べるでしょ?
あれは姿かたち以外に念動力、イメージする力と言えば良いのかしら?
喜朗おじは無意識にそう言う力を使ってあのグリフォンの姿でも平気で空を飛べるのよ。
つまりね、精神力が強くてそう言う素質が高い悪鬼なら…こういう芸当も…誰か人間そっくりにすり替わる事も可能なのよ。」
そこまで言ったさとの顔が見る見る変化してまりあそっくりになった。
服装こそ違うが2人のまりあがソファに座って微笑みながら俺達を見ていた。
「おお!」
俺達は驚きの声を上げた。
明石が呆れた声を上げた。
「確かに、確かに心の中を読まなければ一見どちらが本物のまりあか判らんな。」
まりあの顔からさとの顔に戻ったさとがコーヒーを一口飲んだ。
「景行、その通りよ。
そして悪鬼と言えど、カメラなどのモニター越しには中々判る事は出来ないしわ。
ましてや人間ならば簡単に騙されると思うわ。
私もまりあも最初の数瞬間は何が何だか判らなくて違和感を感じて混乱したわ。
人間か元々悪鬼か、それとも本物そっくりに変化した悪鬼かね。
心の中を読める悪鬼はともかく、それと実際に間近に見た古い付き合いの人間なら動作は言葉の端々、ちょっとした心の動きから偽物だとばれるとは思うけど、そんなに深い付き合いじゃ無かったら…ばれないわね。
悪鬼でさえぱっと見には、心を読まないと見破れないかもね。
そして奴らはかなり前から標的のユーチューバーを決めてその話し方や動作所作などをかなり研究してすり替わる事を実行に移したと思うわ。
今の所、AIを使ったディープフェイクよりずっと見破られる危険は少ないわよ。」
真鈴が悲鳴のような声を上げた。
「じゃあ、やつらはかなり前からこういう事を計画して準備してきたと言う事じゃないのよ!
行き当たりばったりでは到底出来ない事よね!
なんて計画的!」
まりあが真鈴を見つめた。
「そうよ真鈴、その通り。
奴らは忍耐強く準備をして、じっくりと計画を立てて秘密に事を進めているわ。
侮れない連中だと思う…もしかしたら…あの富士の樹海の創始者たちも奴らの駒として動かされていたのかも…今回の事件は非常に奥が深いわよ。」
まりあの言葉を聞いて俺の中で乾が言った言葉に結びついた。
「そうか!乾が見た目に騙されるなと言ったのはこの事だよ!
こうしてはいられない!
岩井テレサにも伝えないと!
さと、まりあ、一緒に今の話を伝えてくれる?」
「そうね、その方が良いわ。」
俺はスマホを取り出して岩井テレサに電話を掛けた。
コーディネーターが出て符牒を言い、確認されてから要件を言うとしばらくお待ちくださいとコーディネーターに言われ、やがて岩井テレサが電話に出た。
「彩斗君おはよう。
昨日は大変だったようね。
カスカベルとショッカー対策班から話を聞いたわよ。」
「テレサ、昨日ネットで流された扇動の動画について話したい事が有るんだ。
とにかく聞いてくれる?」
そして俺達はさととまりあの説明も交えて今の状況を岩井テレサに伝えた。
岩井テレサは話が終わるまでじっと聞いていた。
そして俺達の話が終わると深いため息をついた。
「ふぅ、なるほどこれで謎が解けたわ。
私達の中でコーディネーターだけがあの動画などに違和感を感じると言っていたけど、今までは彼女が何を言っていたか判らかった。
実は昨日の夜の段階で、何人かの、夜明けまですべての扇動動画を流した者の居場所を特定してノリッピーやリリー達スコルピオと調査部の機動部隊に急襲を掛けさせたのだけど、全てのユーチューバーなどは全員人間ですでに何者かに殺害されていたわ。
画面を見た私達はそのうち何人かが別物、悪鬼だと見抜いたけれど結局すべて人間だったと判って混乱したわ。
初めは私達の感じた事が誤りで扇動動画を流したのは全部人間で口封じに殺されたとか…私達は色々と混乱したけどこれで…奴らの手口が判ったわ。
また彩斗君達に助けられたわね。
ありがとう。
私達も目線を変えて捜査を進めるわね。
さととまりあもありがとう。
それにしても…流された扇動動画は何十本もあったし殺されたユーチューバーも何十人も…人間そっくりに変化できる別物だけで何十人もいると言う訳か…奴らの組織は私達の想像以上にずっと大きいのかも…
また何か頼む事が有るかも知れないわ。
その時は協力をお願いしても良いかしら?」
「ええ、喜んで協力するわ。」
電話を切って俺達は考え込んだ。
圭子さんがため息をついた。
「やれやれ、見た目に騙されるな…か。
確かに奴らは気が抜けないし、今までの奴らよりも随分お利口さんな連中ね。」
「そうよね圭子さん、今までの奴らよりよっぽど手強いと思うし…」
ジンコがそう答えてから俯いて黙り込んだ。
そしてゆっくりと顔を上げた。
「そしてね…私が恐ろしいと思うのはあの富士の樹海の創始者とか、その他の組織化された悪鬼どもも実は奴らの手先でね…私達がそういう奴らを潰してきて遂に影の黒幕どもが本格的に動き出したかも、今までの個々の事件は実は裏で繋がっていたのかも、と言う事よ…恐ろしいわ。」
そう、確かにジンコの言う通りかも知れない。
そして今回の奴らは…何と言えば良いのか、スケールが、考え方のスケールが、その目標のスケールが今までよりずっと大きいと感じた。
奴らは遂に本腰を入れて人類と悪鬼の全てに対する深刻な挑戦を開始したのではないか…。
今までと違うスケールが遥かに大きい波が押し寄せてくるような嫌な予感がした。
もう、質の悪い悪鬼の討伐などとか全く違う次元の戦いになるのかも知れない。
俺は寒気がしてぶるっと身を震わせた。
『清算の日』
その言葉が俺の頭に浮かんだ。
ワイバーン全員が恐怖でお漏らしするような恐ろしい事態が近づいているのかも知れない…。
お漏らし程度で済めば良いが…。
続く




