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必死に怒りを抑える乾はあまりにも恐ろしくて俺は久々にお漏らししてしまった…だが今回は俺だけじゃない…けけけ。

俺は顔に白々しい笑いを貼り付けたまま立ち尽くす他無かった。

脚はぶるぶると震え、今、身を翻して逃げようとしてもきっと足がもつれて無様に転がるだろう。

簡単に乾の餌食になってしまう。

逃げちゃ駄目逃げちゃ駄目逃げちゃ駄目…。


ランドローバーのドアがギギギガギギギィ~!と嫌な軋み音を上げて開くと、真鈴が非常に気まずそうな顔をして降りてきて乾の顔を見つめた。


「あ…あの…乾?」


真鈴の問いかけに答えず、乾は笑顔を顔に張り付けたままそっと足元のもげて転がって来たヘッドライトを拾うと優しく頬ずりをした。

その目から涙が一筋…恐ろしい事に赤い血のような涙が一筋零れ、頬を伝った。


「…ああ!あああああ!乾!恭介!

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!ごめんなさい~!」


真鈴が地べたに這いつくばっておでこを地面にすりつけて土下座をした。

俺も何かしてこの場を何とか収めようと思ったが、真鈴同様に土下座してごめんなさい!と叫ぶしか無かった。


俺と真鈴は土下座してごめんなさい!と連呼する中を乾はランドローバーのヘッドライトを愛する赤ん坊の様に抱いてゆっくりと歩いて来る。

もう…駄目だ!


乾が真鈴の前に立った。


「あはは~、真鈴…顔を上げろよ。

 彩斗…お前も顔を上げろ。」


俺と真鈴が恐る恐る顔を上げた。

乾は笑顔のまま、血の涙を流したまま。

真鈴を見下ろしている。


「真鈴…昨日は凄い現場に遭遇したみたいだな…大丈夫…俺は…怒ってないよ~あはは~。」


乾が今の表情に似つかわしくない優しい声で言ったが、乾の手はプルプルと震え、肩も震えている。

怒っている怒っている絶対に怒っているよ必死にその怒りを抑えているよもし怒りを抑えるのに失敗したらダムが決壊するみたいに怒りが吹きだして俺も真鈴も木っ端みじんに吹き飛ぶよ四郎や明石やジンコもその他ワイバーンメンバーも簡単に皆殺しにされるよ怖いよ怖いよ怖いよ今ここに来ているユキも『みーちゃん』のママも巻き添えで殺されるよごめんねごめんね~!


「あのな~たかが車じゃないか~このランドローバーシリーズⅡ俺がつけた愛称キャサリン・ジョーンズが真鈴を守る為に頑張ったと言う事が判ったから、俺は気にしないぜ~!

 俺は全然気にしないぜ~!俺は!俺は全然!気にしないぜぇ!しないぜぇえええええ!

ぜぇええええええ!うおおおおおおお!キャサリン・ジョーンズ~!」


昔々、今は大御所になったお笑い芸人で俳優の竹中何とかとか言う男がデビュー当時に大笑いしながら激怒すると言う芸を、俺はテレビを見て大笑いした記憶があったが、乾が血の涙を流して怒りを圧し潰した笑顔で必死に真鈴に話す様子は一瞬それを連想させた、が、政府のお偉い奴が憎らしいどや顔で異次元のなんとかとか自慢するよりも遥かにずっと異次元の恐ろしさだった。

話しているうちにだんだんと口調が早くなる乾は抱いたヘッドライトを握りしめてメキメキペキぺキとひん曲がり丸めていった。


ひゃぁああああ!怖い怖い怖い!

俺は土下座したまま固まってしまい、真鈴は引きつった顔で乾を見つめたまま動けなかった。


乾がプルプル震える手でくしゃくしゃに丸められたヘッドライトの成れの果てを真鈴の前にそっと置いた。


「真鈴、修理はお前に任せるよ完璧にキャサリン・ジョーンズを治してやってくれ…。

 オリジナルのパーツは中々手に入らないだろうが…可能な限り元通りにな…。」

「ははー!恭介様ぁ!必ず!必ず真鈴が責任をもってこの…キャサリン…プッ…キャサリン・ジョーンズを治しますですでございますぅ~!」


真鈴がそう言うと又地面におでこを擦りつけた。

キャサリン・ジョーンズと言う名前に真鈴が一瞬噴き出した時はそのまま真鈴の頭が消し去るのではないかとひやひやした。


「よし、よしよし…よしよし…よしよ~し!返す時は満タン返しでね~!

 じゃ、俺は帰るよ。

 屋敷に逃げ込んだ奴らにも安心しろ、俺は怒っていないと伝えろ。

 彩斗もこの場に残った根性は誉めてやるぜ。」


乾はそう言い残してハコスカGT-Rに歩いて行った。

乾がハコスカに乗り込む時に俺を見た。


「そうだ、言い忘れていた、彩斗、今度の奴らは化けるぞ。

 俺達悪鬼は心もある程度読めるからそう簡単に胡麻化されないがな、お前ら人間は気を付けろよ。

 ぱっと見に騙されるな。

 注意深く見つめるんだ。」

「ははぁ!乾様!ご助言ありがとうございます!」


俺がそう答えると乾のハコスカGT-Rは死霊屋敷から出て行った。

俺は体の力が抜けた、その途端に盛大にお漏らししてしまった。

だが、これは仕方ない。

うん、仕方ない事だよ、シャワー浴びて着替えようっと。


俺は立ち上がった。

盛大に漏らしたらしく、靴におしっこが大量に入り歩くたびにガジョガジョゴポゴポと鳴った。

俺は土下座したまま固まっている真鈴を見た。


ああ!漏らしてる!漏らしてる!真鈴も漏らしている!

土下座している真鈴の下半身を中心におしっこの染みが広がっている。

うひゃひゃひゃ!漏らしやがった真鈴も漏らしやがった!そうだよそうだよ!あれだけ怖い思いをしたら誰だって漏らすよ!


俺はお漏らし仲間が出来て嬉しかった。

これでワイバーンでお漏らししたのは俺だけじゃないんだ!

真鈴だってお漏らしするんだよ!

恥ずかしい事じゃないんだよ!


俺は些か複雑な喜びの感情が湧いて真鈴に近寄って肩を叩いた。


「真鈴。

 真鈴。

 もう乾は帰ったぜ。」


真鈴の反応が無いので、俺はしゃがみこんで真鈴の顔を覗き込んだ。

真鈴は変な薄笑いを浮かべたまま失神していた。

無理も無い。

乾のあの恐怖の顔芸を至近距離から見たのだから。

脱糞せずに失禁だけで済んだのが幸運だろう。

俺は真鈴の肩を掴んで揺さぶった。


「真鈴、起きろ!起きろよ真鈴!」


真鈴の気が付いて顔を上げた。


「あ、彩斗、私…。」

「気絶してたんだよ真鈴。

 まぁ、無理も無いけどね。」

「そう…うん、あれは正直人生の終わりかと思うくらいに恐かったわ~!

 よっこいしょっと…あれ、あれ~!

 嫌だ~!私!私!漏らしちゃったよ~!

 ワイバーンでお漏らし野郎は彩斗だけだったのに!

 お漏らしおちびり小僧は彩斗だけだったのに!

 私までお漏らし!

 これじゃ、お漏らし美女真鈴とかおちびり妖精お嬢さん真鈴て呼ばれちゃうよ~!

 ひひ~ん!」


…こいつは、真鈴は本当にどさくさに紛れて俺をディスるよな…。


「まぁ、泣くなよ真鈴、俺も漏らしちまったよ。

 あれはしょうがないさ。

 誰だって漏らすよ景行達だって逃げてなきゃ皆でお漏らし大会だったはずさ。

 さっさとシャワー浴びて着替えようぜ。」


真鈴はじっと俺を見つめた。


「さすがに彩斗はお漏らし慣れてるから落ち着いているね。

 元祖おもらし小僧だけの事はあるわ~!」


…誉めてるのそれ?


俺は落ち込む真鈴を立たせて2人とも靴をおしっこでとガジョガジョゴポゴポ鳴らしながら死霊屋敷に戻った。

真鈴が靴をガジョガジョゴポゴポ鳴らして歩きながら言った。


「彩斗、それにしても…キャサリン・ジョーンズって何だろうね?」

「さぁ、何だろうね?」


玄関から明石、四郎、ジンコが緊張した顔を覗かせていた。


「大丈夫、乾は帰ったよ。」


俺がそう言うと密かに逃げた卑怯者どもがほっとした表情を浮かべてため息をついた。

玄関に入ると明石は江雪左文字を、四郎はサーベルと『加奈・アゼネトレシュ』を、ジンコはUMPサブマシンガンとオリジン12ショットガンを握りしめてへたり込んでいた。

明石は額の汗を拳で拭って呟いた。


「ふぅ、ここで死に物狂いで戦う羽目にならなくて助かったぞ…おや?

 彩斗…あ、真鈴まで…お漏らし…。」

「景行そこから先は言わないでくれよ。

 俺と真鈴はシャワーを浴びて服を洗濯…服と靴を洗濯するよ。」

「あ、乾が帰りがけに何か言ってたんじゃないか?」

「うん、奴らは化けるから人間メンバーは特に目に騙されるなと言ってたよ。

 詳しい事はシャワーを浴びてから。」


俺と真鈴はシャワーを浴びに行った。

しかし、化けるから見た目に騙されるなとは、何の事だろうか?

俺はシャワーを浴びながら考えた。

確かに悪鬼は修業にもよるが動物や架空の生き物に変化できる。

明石は犬や狼に、四郎はカラスやコウモリに、喜朗おじはハルクやグリフォンに、凛だって白馬や、最近はペガサスに変化できるし、圭子さんだって悪鬼になりたてだからまだ変化は出来ないがそのうちに何かに変化できるだろうが…。


シャワーを浴びて服と靴を洗濯して暖炉の間でコーヒーを飲んでいると、黒田が運転する濃いグリーンのジャガーがさととまりあを乗せて死霊屋敷にやって来た。

そして先ほど乾が帰り際に言った言葉に対する俺の疑問は解けた。





続く  

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