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俺達は死霊屋敷に辿り着いた…『みーちゃん』は焼け、ママは泣いている…ランドローバーはぐちゃぐちゃになりながらも走りぬいた…が。

「裏で火の手が上がってる!

 みんな外へ!早く!」


俺はそう叫んで客達に外に出るように促した。

常連でよく話す初老の客が俺のUMPサブマシンガンを指差した。


「よ、吉岡ちゃん…それ、本物かい?」


説明するのが面倒くさいので俺はポケットから警察庁の身分証を出してかざした。


「そう!今まで黙っていたけど俺は警察です!

 表に俺のチームがいて皆を守ります!

 早く外へ!」


客達がどやどやと外に出て行く中をママがカウンターに入った。

もう、店の奥から火がチラチラ見え始めていた。


「ママ!早く!急いで!」

「待って吉岡ちゃん!これだけは!」


ママはカウンターの棚に手を伸ばして一番上段のあの『紅』の美佐子ママと一緒に撮った写真と美佐子ママが入れたグレンリベットのボトルを取って重要書類が入ったカバンに押し込んだ。


「早く!急いで!」


俺とユキでママを抱きかかえるように店を出た。

多少暴徒の数は減ったようだが何人かがまだこちらに物を投げたり罵声を浴びせて襲い掛かろうとしていた。


「彩斗!

 皆は乗れないよ!

 どうする!」


普段は大人しそうな陰キャと言った感じの若い男が目を吊り上げて襲い掛かるのを木の棒で叩き倒した真鈴が叫んだ。

四郎が商店街の先を指差した。


「彩斗!

 あの先に警官隊が到着したようだ!

 ユキとママとその足がご不自由な女性をランドクルーザーに乗せろ!

 先鋒は凛!あの警察の線まで他の客達を先導しろ!

 凛!悪鬼が来たら容赦するな!

 その時は撃て!

 真鈴はランドローバーを運転しろ!

 ジンコとクラは側面を援護!

 われは殿を守るぞ!」


四郎がランドクルーザーの後ろに回り迫りくる暴徒に向けて近づくな!と一喝して両手を開いて立ち塞がった。

その片手には木の棒が、もう一方にはUMPサブマシンガンが握られていた。


「皆!あそこまで行きます!

 私に付いて来て!

 大丈夫!皆は私が守る!」


凛が警察の警戒線を指差して叫びながらランドローバーの先に立ち、客達は凛の後ろに一塊になった。

横道から何かが飛び出してこないかジンコとクラが脇を固めていた。

凛は木の棒を振り回しながら商店街の先の警察が急遽作った警戒線に向かって進みだした。


その時、『みーちゃん』のドアから火が吹き出した。


「あああ!店が!店が燃える!

 私の店が!燃えちゃう!」


ママが後ろの窓から『みーちゃん』を見て悲痛な叫びをあげて、顔を逸らし、バッグを抱えて泣き出した。

無理も無い、もう何十年も店の2階に住んで店を切り盛りしてきた、ママの人生のような所だったのだから。

俺が振り向くと、あの『紅』の美佐子ママが泣いているママを抱きしめて共に泣いていた。

死霊だからママには見えないだろう事に俺は少し切なく感じた。


後ろでは四郎が木の棒を捨て、迫り来る一組の男女にUMPサブマシンガンを連射した。

男女は一度銃撃を受けて倒れたが、悪鬼の形相で立ち上がり四郎に襲い掛かっていた。

四郎はUMPサブマシンガンから手を離すと腰の後ろに差していたサーベルを抜いて悪鬼の男女に逆襲を掛けた。


俺は前を向いて凛が暴徒を叩き倒しながら進むのについて行く客達の足の速さに合わせてランドクルーザーを進めた。

その時横道からレンガが飛んで来てランドクルーザーのボディに当たった。


「あぶない!みんな頭を伏せて!」


俺はそう叫びながら車を進めた。

先を行く真鈴のランドローバーにもレンガや大き目の石がガンガンと当たっていた。

あ~乾は悲しむだろうな。

サイドガラスが割れ、ボコボコに凹みつつあるランドローバーを見ながら俺はそう思った。


凛を先頭にした一行は進んでゆき、警官隊に収容された。

真鈴のランドローバーと俺のランドクルーザーも警戒線を越えた。

俺はランドクルーザーから飛び降りて警戒線に戻った。

俺は警察庁の身分証をかざして叫んだ。


「もう一人いる!

 もう一人俺達の仲間がいてもうすぐ来る!

 撃つな!仲間だぞ!」


俺はそう言って357マグナムを商店街に向けて構える警官達と並んだ。

やがて返り血まみれの四郎がサーベルを引っ提げて出て来た。

どうやら追ってくる悪鬼は始末したらしい。


「四郎!大丈夫?」


俺は四郎に駆け寄った。


「ああ、まぁ、小物だがあの男女の悪鬼以外にも何匹かいてな、目につく奴らは全部始末したぞ。

 後は警官達でも対処できるだろう。」


俺はにやりとした四郎にタオルを差し出した。


「それは良かった、やっぱり四郎は頼りになるよ!」

「リーダーからお褒めの言葉を聞いて光栄だぞ。」


四郎はそう言うと受け取ったタオルで顔を拭いた。

ランドクルーザーでは逃げおおせた客達が車の中のママに声を掛けていた。


「ママ!気を落とすなよ!」

「命が助かったんだからまた店を再建すれば良いさ!」

「そしたら俺達、また飲みに行くからさ!」

「今度も『みーちゃん』て名前で出してくれよ!」

「ずっとママを待ってるぜ!」


客が口々にママに声を掛けてママも泣きながら客達にお礼を言っていた。


俺達はママとユキを車に乗せて死霊屋敷に帰る事にした。

遅ればせながらショッカー対策班の機動部隊とカスカベルの混成チームが到着した。

俺は手短に状況を説明するとワイバーンはあとを任せて引き上げる事を告げ、車を出した。


その時俺は真鈴のランドローバーの前面を見て息を呑んだ。

やばいな…かなり…と言うか、相当壊れている。


「真鈴…これ…走れるの?」

「彩斗、さっきハンドルを左右に切ってもボディと干渉していない事を確認したし、深刻なオイル漏れとかも無さそうだしね。

 大丈夫、行けるよ!

 しかしこれは頑丈だね!」


そう言って真鈴は親指を立てて笑顔になった。

…いや…このランドローバーシリーズⅡ…乾の大事なコレクションを借りた奴なんだろ…。

そう言いかけて俺は言葉を飲み込んで頷くとランドクルーザーに戻って乗り込んだ。

後席にユキと泣いているママが座り、助手席に四郎が座っている。


「彩斗、まだまだ気を抜けないから助手席はユキじゃなく、われが座るぞ。」


異存は全く無かった。

帰り道にラジオを聞いていると遅ればせながら都内のあちこち何か所かで暴動が起きた事を伝えていた。

警察はショッカー事案と判断してショッカー対策班を出動させて鎮圧にあたっている事を発表しむやみに外出しない様に落ち着く様に、暴動が起きている近辺にいる人は設置した避難所へ避難するようにと呼びかけていた。


ママはずっとユキに肩を抱かれて、美佐子ママと撮った写真を入れたバッグを抱えて泣いていた。

切ない…あの朗らかで愛想が良くて善良なママに何の責任があると言うのだろうか…。

ママ以外にだって一所懸命に生きて生活している人達が暴動で大事な物を奪われ、焼かれ、どれほどの人達が悲しんでいる事だろう。

そして、今回のような事件がいつまた自分や家族や大事な人に降りかからないか心配しているのだろうか…。


平和な国日本と言う『神話』がガラガラと崩れ落ちたような晩だった。

町の景色がいつもの夜よりも暗く、寒々しく感じた。


俺達はママとユキをしばらくの間死霊屋敷に泊まらせて、すっかり気落ちしたママを休ませることにした。


翌日の朝、夜中からずっと特別番組で暴動の事を流し続けたテレビニュースは太陽が昇り、その被害状況が明らかになるさまを伝え続けた。

警察ではショッカー対策班の機動部隊と警察の機動隊でほぼ暴動を抑え込むことに成功したと伝え、国民に平静を取り戻すように呼び掛けていた。


俺達は朝のトレーニングと朝食を済ませ、昨日の晩の騒ぎで傷ついたランドクルーザーとランドローバーを調べた。


「やれやれ、ランドクルーザーも随分傷ついたよ、

 修理代…保険効くのかな?」


俺はため息をついた。

ランドローバーを見ていた真鈴もため息をついた。


「彩斗のランドクルーザーはまだ良いじゃん。

 ランドローバーシリーズⅡの方はパトカーを道からはじき出したり色々と無茶しちゃったからね…深海オートにとりに来て貰って修理を急がないとさ…これを見たら乾が悲鳴を上げちゃうと思うわ~。

 私、午後から『ひだまり』のシフトだから急いで深海オートに連絡しないとね。」


明石がガレージに来た。


「彩斗、真鈴、お客さんだぞ。」

「景行…それってまさか…。」

「真鈴は感が良いな、乾だ。」


俺と真鈴の顔から血の気が失せた。

やがて乾のハコスカGT-Rが入り口ゲートから入って来た。


俺と真鈴と四郎、明石、ジンコが玄関で乾を出迎えた。


「やあ、乾、昨日は情報をくれて助かったよ、ありがとう!」


俺は乾に笑顔で言ったが自分でも少し大げさな笑顔なのに気が付いた。

真鈴も同じなのか、弾けるような笑顔で乾に話しかけた。


「乾…恭介!

 おかげで助かったわ!

 ありがとう!」


乾の顔は真っ赤になって少しもじもじしているが、ランドローバーの事をどう説明するか頭の中でフル回転している真鈴は乾の様子に全然気が付いていなかった。


「よう、みんなお揃いだな!

 真鈴、そうか、それは良かった!

 俺も役に立てて…嬉しいよ…真鈴。

 ところでランドローバーシリーズⅡの様子はどうかな?

 中々ご機嫌な車だろう?」

「え…ああ!そそそ!そうね!

 頑丈極まりないタフな車で私!

 凄く気に入っちゃったわぁ!」


真鈴が不自然にはしゃだ声を上げた。

乾は真鈴の大げさな反応に不自然さを微塵も感じていなかった。


「そうだろう、そうだろうとも!

 …ん?頑丈…あの…なんか…タフな使い方したの?」


乾は戸惑うような笑顔で真鈴を見た。

…ああああ、やばいやばいやばい、乾は明石がおしっこちびりそうになるほど強い悪鬼なのを俺は忘れていた。

乾が今の状態のランドローバーシリーズⅡを見たら…。

俺の背筋を冷たい汗が流れた。

真鈴が慌てて手を振った。


「あ、ああ!ちょっとね!ちょっとだけ!その!少しタフな使い方をね!

 大丈夫よ!凄腕の修理屋を知っているからさ!

 私の方で直しておくから!

 大丈夫だよ乾!」


乾の笑顔が少しだけ引きつった。


「なんだ、少しぶつけたのか?

 仕方ないな~真鈴は。

 俺の方の修理屋でも板金が凄く得意な所が有るんだよ。

 俺の方で直しても良いぜ。

 ちょっと見せてくれる?」

「あ、あの~、良いわよ、私の方で直しておくからさ!」

「いやいや、真鈴に気を使わせたくないよ。

 いいから見せてごらんよ。」


真鈴は困ったように俯いた。

やばいやばいやばい。乾は惚れた弱みで大事なコレクションのランドローバーシリーズⅡを真鈴に貸したのに…。

あの前面とボディがぐちゃぐちゃなランドローバーを見せたら…。

真鈴が困ったようなすがるような目つきで俺を見た。

俺もどうしてよいか判らずに、後ろに立っている明石と四郎とジンコを見た。


………3人とも静かに姿を消していた…。


明石も四郎もジンコも静かに姿を消して安全な所に逃げたのだろう…お前ら真鈴とリーダーの俺に責任押し付けて逃げたな…だが、甘いんだよ弱虫どもめ。

乾は本気で怒って追ってきたら逃げ場所何て無いんだよ、必ず追いつかれるんだよ、だって地球は丸いんだからね。


やがて真鈴が顔を上げた。


「あの、乾、今持ってくるけど…ちゃんと自走できるしさ…本当にちゃんと直しておくから…。」


乾が笑顔で真鈴を見ている。


「なんだ真鈴、水臭いぜ。恭介と呼んで良いよ。

 ランドローバーもって来てごらんよ~。」


真鈴が言を決してガレージに歩いて行った。

俺と乾が玄関先に残された。

乾が笑顔を俺に向けた。


「なんだ彩斗、自走できるんじゃないか。

 じゃあ、大した事は無いよな。

 実はあのランドローバーはこのハコスカと同じくらい愛着が有るんだよ。

 ここだけの話、もう感づいていると思うけど…俺は真鈴だから大事なランドローバーを貸したんだよな。」


なんて答えれば良いか全然判らない俺はあいまいな笑顔を乾に向けた。 


その時ガレージからガギガギと変な接触音とギシギシと言う軋み音を鳴らしながら、あちこちが凹み傷つきフロントにパトカーを弾き飛ばした時の損傷があるランドローバーシリーズⅡがゆっくり走って来た。


改めて明るい所で見ると…これは酷かった…良く走って戻ってこれたな、ランドローバーすげぇ!と俺の脳の中の呑気な部分が叫んだ。


笑顔でランドローバーの方を見た乾が…笑顔のまま固まった。

ゆっくりと乾の前で走って来たランドローバーシリーズⅡが停まった。

停まった時の衝撃でランドローバーの特徴の寄り目のフロントライトの片方が外れ、道に落ちて細かい部品を撒き散らしながら乾の足の方へ転がって行き、乾の足の当たって止まった。

乾の笑顔が固まったままだった。


「ああ…うん…そうかそうか…うん…成程ね…。」


笑顔のまま呟いた乾は固まった笑顔のままで沈黙した。


俺は少しちびった。








続く



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