乾からランドローバーシリーズⅡを3日間ゲットした鈍感真鈴は意気揚々と死霊屋敷に戻って来た。
食事が終わり、これまた合格点のコーヒーを飲んでいる時に真鈴のスマホにメールが来た。
眼鏡屋から、注文の眼鏡が完成したとの事だった。
「さて、眼鏡屋さんに行くか!」
真鈴が元気よく立ち上がり、俺達は会計を済ませて乾と共に店を出た。
真鈴がブリティッシュグリーンでトップがライトカーキのランドローバーに乗り込むと乾が助手席から乗ろうとしていた。
「あれ?乾も乗るの?」
「真鈴ちゃん、当たり前だろう?
君の眼鏡姿を写メにとる約束したし、この車をしっかり運転できるか確かめないといけないからな。」
「ああ、そうか、そうよね。
乾、私達は基本的に呼び捨てで呼び合っているから、これから私の事、真鈴と呼んで良いわよ。」
乾の顔が赤くなり俯いた。
「ん?どうしたの乾?」
真鈴がきょとんをした顔で乾を見た。
端で見ている俺とジンコでさえ乾の気持ちが痛いほど判ると言うのに…。
乾は俯いて肩をプルプル震わせ、やがて小さく、真鈴、と呼んだ。
そして、真鈴からは見えないが俺とジンコから丸見えに小さくガッツポーズをして目を押さえた。
ひょっとして嬉し涙をこらえているのかも…明石が冷や汗まみれになるほど強い悪鬼の乾と、そのすがすがしいほど純情の乾がまるで結びつかなかった
「そうそう、乾、そんな感じで良いわよ。
早く乗って。」
乾のガッツポーズにもうれし涙にも気が付かない鈍感真鈴が言った。
乾が乗り込むと真鈴はシート位置などを調節し、いったん外に出てミラーの角度を調節した後でランドローバーシリーズⅡを発進させた。
「乾…ちょっと可哀想だよね…。」
「うん、ちょっとピエロっぽくなっているし…俺達も行こうよ。」
眼鏡屋に着き、真鈴が完成した5個の眼鏡を受け取り、掛け具合や見え具合を確認していた。
乾は真鈴が新しい眼鏡をかけるたびにふわぁ!ふわぁ~!とか、むふ~!など怪しい吐息を吐いて非常に不審人物のようだった。
そしてスマホを取り出して真鈴を撮ろうとして店員から店内での撮影は御遠慮いただきますと注意されていた。
なんだかんだで店を出ると乾は真鈴!約束だろ!と言ってランドローバーシリーズⅡの横に真鈴を立たせ、全ての眼鏡をかけポーズをとった真鈴を写メで撮りまくった。
「良いよ良いよ~!そんな感じ!
少し目線をこっちに!」
乾が色々と指示を出し、初めは恥ずかしがっていた真鈴もだんだん大胆に笑顔を浮かべてポーズをとり始めた。
恥ずかしい、非常に恥ずかしい…通行人が乾と真鈴を見てくすくすしながら通り過ぎて行き、俺とジンコはどこかに逃げたくなった。
まぁ、俺からしても眼鏡姿の真鈴は新鮮で可愛いとは思うが…。
やがて乾は満足したようだ。
「ふぅ、これでよし。
真鈴、サンキュー、ランドローバーぶつけるなよ。」
そう言って乾が駅の方向に歩き始めたのを真鈴が呼び止めた。
「待ってよ乾、あなた、蒲田でしょ?
帰り道だから送って行くわ。」
振り向いて足を止めた乾が真鈴を見つめた。
「え…良いのか真鈴…。」
「別に構わないじゃないのよ、さっさと乗って。」
真鈴にそう言われて乾は変なちょこちょことした足取りでランドローバーに近づいたが、助手席にジンコが乗っているのであからさまにがっかりした表情になり、気を利かせようと後席に乗ろうとするジンコと乾が体を左右に揺らしで奇妙な譲り合いを始めた。
「何やってんのよジンコ!
乾は後席で良いでしょ!
さっさと乗って!」
真鈴がジンコの襟を掴んで助手席に座らせ、悔し気な乾は後席に乗り込んだ。
「それじゃ彩斗、私、乾を送ってから少しジンコとドライブして帰るわ。
じゃあね~!」
真鈴が運転するグリーンのランドローバーシリーズⅡはごつく見える車体と裏腹に軽やかに駐車場を出て行った。
道路との段差をボディを大して揺らさずに乗り越えるところなど、やはり足回りが上質な車なんだろう。
俺は暫くランドローバーを見つめた後で死霊屋敷に戻った。
死霊屋敷の裏庭では休みのクラと四郎が銃剣術の練習をしていた。
「お帰り彩斗、首尾は上々か?
おや、真鈴とジンコが見えんな。」
「四郎、加奈とスケベヲタク死霊軍団は順調に捜索を始めたよ。
真鈴とジンコは…その、帰り道で乾とばったり出くわしてさ…。」
四郎の眉がピクリと動いた。
「うむ、なるほど、乾達、管理者と名乗る組織も、あの子供を追っているのだったな。」
「そうなんだよ、四郎、しかし、乾達も俺達とどっこいどっこいの捜査の進み具合らしいんだ。」
「うむ、まだ男の子の所在迄は突き止めていないと言う訳か…それと、真鈴とジンコがいない訳が関係あるのか?」
俺は四郎とクラ、屋敷から出て来た明石と圭子さんに、乾が真鈴の眼鏡姿を写メで採る引き換えに真鈴が乾のランドローバーシリーズⅡを3日間借りる事になった顛末を語った。
「…彩斗…真鈴は乾の気持ちに全然気が付かないのかしら…だとしたらかなり鈍感なのね~!」
圭子さんが呆れた顔で言うと、明石が人差し指を振った。
「いやいや圭子、真鈴は天性に鈍感なんかじゃなくてな。
過去にあった出来事、男がらみの出来事からそう言う方面の事への興味を封印しているかも知れないな。」
「成る程~!
景行さん、それもあるかも知れないですね~!
真鈴が自分で男女間のそう言う問題から遠ざけているかもって事ですか。」
「なんだクラ、そろそろ敬語を使わなくとも良いぞ。
まぁ、何百年も生きていると男女間のそう言う機敏も少しは判るようになるものさ。
真鈴はジンコほどでは無くとも感が鋭い女だから、今まで不思議に思っていたがな、そう考えたら当然の事かも知れないぜ。」
明石の言葉は説得力があり、俺達はうんうんと頷いた。
まぁ、400年も生きていればね…。
「しかし、惚れた女に大事なコレクションの車を貸すとはな…眼鏡をかけた真鈴の写メを撮る代わりにだろう?
惚れた弱みか…何やら乾が可哀想になって来たぞ。
われが震えるほど強い奴だが、何か憎めない奴だな。」
四郎の言葉にクラがふんふんと頷いてからため息をついた。
「成る程~確かに…しかし、ランドローバーですか…乾が『ひだまり』に来た時チラッと見たけど中々かっこ良いですよね。
俺も軽トラを買い替えようかな~!
小回り効くし荷物も乗るし、燃費も良いし気に行ってるんですけどね~!
少し遠出をする時はやっぱり小さすぎますよね~!」
成る程、足回りをいじって4輪駆動に改造してあると言ってもクラの軽トラックは些か草臥れているし、凛と遠出に行く時も明石のレガシィや俺のランドクルーザーや加奈のRX-7を借りたりしていたな。
「クラもそろそろ何か新車を買えば?
お金も随分溜まってているだろうしさ。」
俺が言うとクラは頭を掻いた。
「いや~最近、凛とも話しているんですけど。
車を買うか、彩斗さんみたいに死霊屋敷の敷地に家を建てるかどっちにするか話してるんですよ。」
「なんだ、クラ、早く言えば良いのにな。
家がもう一軒建つのも、車が増えるのもわれ達は大歓迎だぞ。
なあ、彩斗。」
「四郎が言う通りだよ。
クラ、遠慮してないで今晩でもその話を両方とも進めようよ。
今ならお金に余裕があるから相談に乗れるよ。」
「ありがとうございます!」
クラが頭を下げた時、入り口ゲートが開いて真鈴が運転するブリティッシュグリーンのボディにホワイトカーキのトップのランドローバーシリーズⅡが入って来た。
見慣れない車が入って来て司と忍も家から出て来て、俺達も停車したランドローバーに集まった。
運転を楽しんだのか、顔を上気させた笑顔の真鈴が降りて来た。
「ただいま~!
凄い調子良いわよこれ!
皆で試乗会する?」
続く




