吸血鬼ですが、何か? 第11部 地平の彼方編を始める前に 加奈メモリアル2
さて、ではなぜ、加奈が質の悪い悪鬼に対して激しい憎しみを持つようになったのか?
そして、加奈が真鈴達と出会った時になぜあんなに喜んだのか?
喜朗おじと明石が、加奈の過去を語ります。
以下 第6部 狩猟シーズン編 28話より
以下抜粋
「うん、恐らく加奈にとってはリリーから同じ境遇にいる者達が他にもいて、悪鬼と戦っている事を知ってな。
少し孤独を紛らわせることが出来るかも知れない。」
明石が加奈の後ろ姿を見ながら呟き、喜朗おじもうんうんと頷いた。
「景行、加奈に壮絶な過去がある事はわれでも薄々は判るな。」
「うん、そうだな四郎、俺達悪鬼はある程度人間の心情を読めるからな。」
「わらわもじゃの。
加奈のあの底抜けの明るさの裏には泣きそうな辛い出来事が潜んでいるじゃの。」
「景行…私達、もう少し加奈の事を知りたいの。
いいえ。決して興味本位じゃないのよ。
何か加奈に寄り添えるヒントになればと…」
真鈴の言葉に明石と喜朗おじが顔を見合わせてため息をついた。
「はぁ、話しても良いが、だが、これは決して加奈に話さないでくれ。
俺達から聞いた事も内緒だぞ。
君ら約束できるか?
約束を破ると…」
「…判った、絶対に約束は守るわ。
私の命に掛けて。」
「俺もだよ、絶対に秘密だ。」
「よし。」
明石は圭子さんに目配せした。
圭子さんは司と忍を連れてダイニングに向かった。
その時に圭子さんはジンコをちらりと見た。
「圭ちゃん、ジンコは良いだろう。
俺達の事を包み隠さずに言うと決めたからな。
ジンコも約束は守ってくれるよな、絶対に。」
「はい、絶対に他言無用で。」
ジンコは顔を引き締めて頷いた。
「よし、何から話すか…真鈴は加奈の身体を見ただろう?」
「ええ、あの背中にあるとても大きな傷と、それと尋常じゃない、病院でずっと入院しそうな傷が沢山ありました。」
「うん、あの背中の大きな傷は真鈴が想像している通り。悪鬼によって付けられた傷なんだ。
だが、その他の傷の大多数はな…加奈が志願した訓練でできた傷なんだ。」
「え…」
「え…」
「うむ…」
「加奈はな、6歳になる直前にな、悪鬼の襲撃を受けたんだ。
その時に加奈の家族は皆殺しになったんだ。
加奈の父親、母親、祖母、そして加奈の姉、全部殺されてしまったんだ。
加奈の背中の大きな傷だが、本当はあの時に加奈も死んでいたはずだった。
加奈の姉がな、悪鬼が振るう刃物で切り付けて来た時に加奈に覆いかぶさった。
姉の身体は無残に真っ二つにされたが、加奈は庇った姉の体のおかげで何とか命を取り留めた。
喜朗おじが必死の治療をして何日も昏睡状態だったがな。
何とか命を取り留め懸命のリハビリをして体は運動機能を損なわずに済んだ。
俺達はたまたま加奈を襲った悪鬼の集団に気が付いて討伐の機会をうかがっていたのだが、加奈の父親も元勇猛なグルカ兵でな、あのククリナイフは見ただろう?」
「うん。」
「かなり重いし、破壊力がありそうだよね。」
「そうなんだ、実物の加奈の父のククリナイフは喜朗おじが大切に保管している。
今加奈が持っているククリナイフは喜朗おじが加奈にどうしてもとせがまれて作った、やや小振りで加奈も扱えるものだ。
実は加奈の父親も何匹かの悪鬼を倒していてな、俺達とも多少の接触があったんだが、あの晩襲ってきた悪鬼の集団は加奈の父親でもとても対抗できないほどだった。
加奈の父も人間ながら何匹かの悪鬼を仕留めたんだが、集団の中に強い奴がいてな
、やられてしまったんだ。」
「…」
「…」
「…」
「俺達が異変に気が付いて駆けつけた時には加奈の家族は全滅していた。
瀕死、と言うより仮死状態に近い加奈を残して、全部殺された。
俺達はその悪鬼どもと戦ったんだが、中々手強くてな。
その内の1匹は図体がでかくて、真鈴は見ただろう喜朗おじの変化した姿を。」
「ええ、ハルクみたいな大男…物凄い力だった。
それにグリフォンの姿に。」
「あの晩、大きな奴は真鈴が言うようなハルク状態の喜朗おじと戦っても。危うく喜朗おじが力負けしそうな奴だった。
そしてもう1匹、見た目はきゃしゃな感じなんだが、物凄い剣さばきの奴がいてな。
当時の俺でも気を抜いたら真っ二つにされそうな奴だった。
俺達は…今でも悔いが残るんだが…その2匹の悪鬼を取り逃がしてしまった。」
「喜朗おじが力負け…」
「景行が真っ二つにされそうな…」
「うむ、強い奴らだな。」
「…」
「加奈は意識がもうろうながら、その2匹の事はしっかり覚えていたようだった。
人間の時の顔も、悪鬼となった姿も鮮明に覚えていると言っていたな。
それ以来、加奈は家族皆殺しにした悪鬼に復讐を誓ったんだ。
その後一応喜朗おじの養子扱いと言う事で加奈は育ったのだが…加奈は背中の傷が癒えると同時に物凄い鍛錬を始めたんだ。
俺達が見てもとても無茶だと言う程の訓練をな、ある時など…喜朗おじ。」
「ああ、加奈が9歳の誕生日を過ぎた頃だが、あいつはよく俺の目を盗んで訓練をしていて何度か縫わなきゃいけない傷をこしらえて俺が傷を縫ったものさ。
恐らくそれを見て加奈は傷の縫い方を覚えたんだろうな。
ある日、仕事から帰って来た俺は救急箱の蓋が開いていた事に気が付いた。
そして、庭でナイフの練習している加奈の太ももに新しい包帯が巻いてあることもな。
俺は加奈を呼んで太ももの包帯の事を問いただしたんだ。
何と、加奈は学校から帰って来てナイフの練習をしている時に自分の太ももを深く切り裂いてしまった。
そして、救急箱を取り出し、俺がした縫合を見よう見まねで自分で傷を縫合したんだ…麻酔無しでな。」
「…」
「…」
「…」
「俺はひとしきり加奈を叱った後で縫合跡を確認したんだ。
まぁ、へたくそながらちゃんと9針縫合されて消毒もしていたからほっとしたよ。
奥の方の動脈も切れていなかったから安心した。
俺はこんな危ない事をしてと、思わず加奈をひっぱたきそうになった。
今まで加奈を叩いた事など一度も無かったけどな。
加奈はじっと歯を食いしばって俺の手を待っていた。
俺の手は止まったよ。
君達、考えられるか?
9歳の子供が映画のランボーじゃあるまいし麻酔無しで自分の傷を縫って、そしてナイフの練習を続けたんだぞ。
俺と景行があの2匹を始末出来なかったばかりに…。
俺は思わず加奈を抱きしめて泣いてしまった、声を上げてな。
加奈が不憫不憫で…泣いてしまった。
そんな俺の涙を加奈は袖で拭ってくれたんだよ。
…加奈は…優しい子供なんだ…とても…そんな優しい子が今も家族を殺した悪鬼に復讐するために人間離れした訓練を続けているんだ。
朝に2時間、仕事を終えたら3時間かそれ以上、休みの日には山に行って登山やナイフの練習をしているんだ。」
「喜朗おじの言う通り、今も加奈は家族を殺した悪鬼を追っている。
俺達が取り逃がしたあの2匹の悪鬼をな。
1人であの悪鬼を探すと言う加奈を何度か止めた事も有る。
まだその時期じゃない返り討ちに遭うだけだとな。
あの廃ボーリング場で、もしも親玉の悪鬼が加奈の家族を殺した片割れだったら加奈は前後の見境無しに向かって行っただろうな。
勝てるかどうかなんて考えもしなかっただろう。
俺は、俺達が戦っていたでかい親玉が、加奈が追っている奴と違って、戦いながらも少しほっとしたよ。」
明石はそこまで話すと黙った。
そして加奈の育ての親の喜朗おじが話し出した。
「そして加奈はあの体にきつい人間離れした練習の毎日で当然と言えるかもしれないが友達が一人も出来なかったんだ。
あの傷をあまり人に見られたくなくて、水泳や体育の授業も見学が殆どでな、修学旅行もついに一度も行かなかった。
幸い子供でも加奈の強さが判るようでいじめには合わなかったが、仲間外れにはなっていただろうな。
加奈は家に友達を連れて来たり、友達の家に遊びに行くなんて事が一回も無かったんだ。
加奈に友達は一人もいなかった。
もっとも、加奈と話があう子供なんて一人もいないだろうしな。
そして加奈は中学卒業と同時に俺と『ひだまり』を始めたんだよ。
高校くらいは行けと言ったんだがな
だから、真鈴と知り合った時に加奈は凄く嬉しそうだったよ。
店を閉める時に加奈が後片付けしながらずっと真鈴やはなちゃんの事を話していたな。
ピカピカの笑顔で話していたよ。
加奈のちょっとテンションが高すぎる日頃の態度は加奈の孤独の裏返しだと思う。
悪鬼の存在を知り、俺達の事も知ったうえで戦う事を選んだ真鈴は、加奈が初めて友達と言える存在になったと思う。
どうか仲良くしてやってくれ。
もう少し加奈の休みを増やしてやりたいんだがな、中々、アルバイトを普通に雇うと言うのも難しくてな…判るだろ?」
俺達は加奈の壮絶な過去を聞いて絶句してしまった。
人に歴史あり…。
俺は涙が出て来た。
真鈴もジンコも互いの手を握りしめてボロボロ涙を流していた。
そして加奈は、向上心の塊でも有りました。
明石や喜朗おじでも仕留めきれなかった家族殺しの悪鬼を倒す為に日々鍛えに鍛えてもまだまだ足りないと思っていたようです。
そして凄く負けず嫌いでもありました。
悪鬼の中でも抜きんでて近接戦闘力が高いリリーとの紙の棒を使ったナイフトレーニングに負け、リリーに人間でここまで戦えるものは見た事が無いと言われたにもかかわらず、加奈は悔し気でした。
以下 第6部 狩猟シーズン編
俺はキッチンに行って真鈴と加奈に声を掛けた。
ジンコとリリーも見学したいと言うのでみんなで屋根裏に行き、ナイフトレーニングを始めた。
「へぇ~ギャラリーが結構いるのね~。」
死霊を見えるリリーが家具の辺りを見て呟いた。
俺も見ると確かに結構な死霊が見物している。
四郎は9体くらいと言っていたが、俺には20体くらいの死霊が見えた。
ナイフトレーニングが始まると、加奈の物凄い動きにジンコは目を見開いていた。
「確かに加奈の動きは人間離れしているわ。」
リリーも呆れたような声を出していた。
1時間半ほどナイフトレーニングをした後で加奈がリリーに稽古をつけて欲しいと笑顔で頼んだ。
リリーも承諾し、紙の棒を手に持った。
果たして加奈はリリーに太刀打ちできるのだろうか?
床に這いつくばった俺と真鈴もジンコ同様に興味津々で見つめる中で加奈とリリーのエキジビジョンマッチが始まった。
それまで寛いで見物していた死霊達も座り直し、姿勢を正してやや緊張して見つめている。
ふと横を見ると四郎達もやって来ていて全員で加奈とリリーを見物する事になった。
加奈は両手に紙の棒を持ち、左手の方の棒をあの廃ボーリング場の時のように蛇のようにくねらせながらリリーをけん制した。
リリーは笑顔のままで無防備な姿勢で加奈を見つめている。
先に攻撃を仕掛けたのは加奈だった。
…それは俺と真鈴に稽古をつけていた時よりも数倍速かった。
廃ボーリング場での加奈の戦いぶりを見ていない真鈴とジンコは驚き息を呑んで固まっていた。
「凄い…速すぎるわ…」
「とても目で追えない…」
加奈の右手の攻撃をリリーは紙一重で躱したと思った瞬間に加奈の左手の棒がリリーの脇をかすめた。
リリーが転がりながら逃げて再び立つと自分の脇を見て、笑顔が消えて両手をやや広げて重心を落とし戦闘態勢になった。
「おお、リリーが本気になったぞ。」
四郎が呆れた声を出した。
「そう来なくっちゃです~!」
加奈が笑顔で言い、左手でリリーをけん制しながら横に回り込もうとした。
リリーも加奈の居る場所に体を向けながら隙を狙っているまるで漫画のように空間が歪むほどの緊張した空気が満ちていた。
その後暫くじりじりと周り、隙を窺っていた二人はほぼ同時に、いや人間の俺には全くどちらか先に仕掛けたのか判らないほどの壮絶な攻防を始めた。
とても目で追えない。
果たして加奈が本当に人間なのか判らなくなっていた。
「うむ、凄いな。」
「見どころあるじゃの~!」
「加奈もすっかり上達したな。」
「真剣勝負でも負けていないかもな。」
四郎、はなちゃん、喜朗おじ、明石が口々に感想を漏らした。
目に見えない攻防がしばらく続き加奈とリリーは一度後方にとびすさった。
加奈の息が荒くなって笑顔が消えていた。
リリーは祈るように目を閉じ、両手をあわせて舞いを舞うように手を上に差しのべた。
その姿は見とれてしまうほど美しかった。
そしていきなり床すれすれに重心を落としてくねくねとした軌道で加奈に近づいた。
あれは俺達が最初に加奈とナイフトレーニングをした時に加奈が仕掛けた攻撃だ。
加奈はリリーがすれすれに近づいた瞬間に高く跳躍した。
まるでトランポリンで飛ぶ位に高く跳躍した加奈のすぐ後ろ、加奈と同じくらいに跳躍したリリーが加奈の肩口に紙の棒を叩き込んだ。
空中で姿勢を崩した加奈が落ちて床に転がるとリリーは加奈の上にマウントの態勢で加奈の喉に紙の棒を押し当てた。
「ぐぅううう!
勝負ありですぅ~!」
加奈が悔し気に言うとリリーは笑顔になって加奈の手を取って立たせた。
死霊達が拍手をしていた。
勿論俺達も拍手をして両者の健闘をたたえた。
「はぁ~!
やっぱりリリーはスコルピオの副長をやってるだけあって強いですぅ~!」
「何を言ってるのよ加奈。
あなた自分の凄さを知らないんじゃないの?
私が本気を出したのなんか凄い久しぶりよ。
スコルピオの人間メンバーで加奈に叶うのはいないわよ。
別物、悪鬼のメンバーだって加奈だったら何人か倒せるかも知れないわ。」
「ふひゅ~スコルピオの悪鬼メンバー全員倒せるように加奈はなりたいですぅ~!」
俺は加奈の言葉を聞いてあきれるほどの負けず嫌いだと思いながら、いつかは本当にスコルピオの悪鬼メンバー全員に勝つくらいになるかも知れないと思った。
加奈はまだ20歳なのだから。
抜粋終わり
そして質の悪い悪鬼に厳しい加奈も、後にワイバーンに加わる事になる凛を殺す事が出来ませんでした。
無抵抗な者は殺せないのか…それとも家族を悪鬼に殺され、自らも悪鬼にされた凛の人生が加奈の人生に被って感じたのか…
以下 第6部 狩猟シーズン編 39話より
以下抜粋
雑魚の女悪鬼が悲鳴を上げて駐車場に向いた窓を突き破り、外に飛び出した。
「加奈!真鈴!そっちに1匹逃げたぞ!」
「コピー!」
加奈の返事が聞こえ、俺とジンコも素早く立ち上がり、雑魚の女悪鬼の後を追った。
ジンコが素早くナイフを投げて雑魚女悪鬼の左足に突き刺さった。
悪鬼に似合わないかぼそい悲鳴を上げ、女悪鬼は網状のフェンスを掻き毟って突き破り、駐車場に出た。
四郎達はまだ弱々しく暴れるつがいの悪鬼に止めを刺していた。
俺とジンコは雑魚の女悪鬼の後を追って土砂降りの雨が降る駐車場に飛び出した。
駐車場に倒れた雑魚の女悪鬼は悲鳴を上げて足に刺さったナイフを引き抜いたが、その目の前に加奈と真鈴がナイフを構えて立ち塞がった。
「覚悟しろこの悪鬼がぁ!」
加奈は普段と違う闘志溢れる声で一喝した。
雑魚の女悪鬼は立ち上がろうとして、また駐車場に転がり雨に打たれた。
そして、意外な言葉を発した。
「殺して!
私を殺してよ!
こんな生活は終わりにしてよぉ!」
真鈴、加奈、後を追って飛び出た俺とジンコの動きが止まった。
「真鈴!
罠だよ!
油断しないで!」
加奈がククリナイフを構えたまま叫んだ。
「罠なんかじゃない!
殺して!
私を殺して終わりにして!」
雑魚の女悪鬼が震える体を起こして駐車場にひざまずいて頭を垂れ、両手の指を組み合わせた。
「私の家族はみんなあいつらに殺された!
私は無理やりあいつらと同じにされて人殺しを…もうこんな生活は嫌だよ!
人殺しは嫌だよ!終わりにしたいよ!
お願い!
私を殺してよぉ!」
可奈がククリナイフを構えたまま一歩前に進んだ。
雑魚の女悪鬼は雨に打たれて頭を垂れている。
生まれたばかりの小鹿のように無防備に見えた。
「お前、人殺しに力を貸していたんだろ?
助けると思うかい?
無駄だよ。」
加奈が押し殺した声で呟きさらに雑魚女悪鬼に近づいた。
「アイツは嘘は言っておらんじゃの。」
はなちゃんがジンコの肩で呟いた。
つがいの悪鬼の止めを刺した四郎達も家から駐車場に出て来た。
明石の肩は腕が千切れそうに裂けているが、徐々に傷が塞がりかけていた。
「加奈!」
ジンコが声を上げて前に出ようとしたのを四郎が止めた。
「ジンコ、止せ。
あれは加奈の獲物だ。
加奈が決める事だ。」
俺達は土砂降りの雨に打たれて加奈と雑魚女悪鬼をじっと見つめていた。
「…殺して…殺して…もう人殺しは嫌…嫌だよ…殺して…」
土砂降りの雨にかき消されながら、雑魚女悪鬼が祈りの言葉のように呟いていた。
「すぐ楽にしてやるよ。この人殺しの悪鬼が…。」
加奈がククリナイフを雑魚女悪鬼の首に当て、そして静かに上にあげて首を撥ねる態勢に入った。
雑魚女悪鬼は微動だにせず、頭を垂れて加奈の一撃を待っていた。
加奈のククリナイフが震えていた。
ねばつく様に時間が流れた。
「うわぁああああ!
この野郎!」
加奈のククリナイフが振り下ろされたが、雑魚女悪鬼の首では無く、雨に打たれた駐車場に叩きつけられた。
「チキショウ!
抵抗しろよ!
はむかって見せろよ!
この悪鬼!」
加奈が何度もククリナイフを駐車場に叩きつけた。
「殺せないよ!
こんなんじゃ始末できないよ!
チキショウ~!」
俺達はどこかホッとしながら泣き叫ぶ加奈を見た。
「くそ~!
他の悪鬼は!
他の奴はどこにいる!
他の悪鬼はぁ!」
喜朗が加奈に一喝した。
「加奈!
他の悪鬼はもうおらん!
俺達が始末した!
もう…始末する悪鬼はおらん!」
「…うわぁあああああああ~!」
加奈がククリナイフを落とし、膝から崩れ落ちて絶叫して泣いた。
「加奈!」
ジンコが駆け寄り、泣きながら加奈を抱きしめた。
「ジンコ~!」
加奈もジンコの体に縋り付き、共に泣いていた。
雑魚の女悪鬼もひざまづいて頭を下げたまま雨に打たれていた。
深夜の土砂降りの雨が俺達の体を打ち続けていた。
抜粋終わり
加奈はね…優しいんだよ…。
しかし、加奈は家族の仇討の執念は決して忘れませんでした。
そしてリリーに頼み込んで強力極まりないエレファントガンの撃ち方を習い、ついに免許皆伝、リリーから特製のエレファントガンを送られます。
以下 第7部 紛争編 12話より
以下抜粋
リリーが笑顔で四郎達を見ながらコーヒーを飲んでいていきなり声を上げた。
「あ!忘れてたわ!
ちょっと車に行ってくる!」
リリーが暖炉の間を出て行った。
「なにかな?」
「なんだろね?」
「なんだろうか?」
俺達が口々に疑問を現すとあほ兄弟がニヤリとした。
「恐らくあれですよ。」
「うん、あれだと思います。」
やがてリリーが細長い木箱と梱包された段ボール箱を持って来た。
「リリー、それは何だ?」
「うふふ、わたしから加奈に個人的なプレゼントよ。」
そう言ってリリーはテーブルを引っ張って来て木箱を乗せた。
「ふわぁ!加奈にプレゼントですかぁ!
なんですかなんですかぁ!」
加奈が飛び跳ねながら木箱に近づき、俺達も木箱の周りに集まった。
「加奈の合格祝いよ。
免許皆伝のしるしに作ったのよ。
開けて見なさいな。」
「ええええ!
リリー!ありがとう!
ありがとうございますぅ~!」
加奈が泣きだした。
どうやら木箱の中身を加奈は知っているようだ。
「加奈、泣いていないで木箱を開けてよ!」
「早く早く!じらさないで!」
「加奈!早く開けて!」
加奈が木箱を開けた。
そこには鮮やかな紅の布が敷かれた上に置かれた、あのエレファントガンが横たわっていた。
木箱を覗き込んだ俺達はふわぁ~!と声を上げてしまった。
重厚なダブルバレル頑丈極まりない薬室周り恐らく厳選されたであろう木材から削り出されたストックが上品な輝きを放っている。
そして、よく目にするあのベレッタの超高級品のライフルやショットガンの様に見事極まりないエングレーブ、彫刻が施されていた。
加奈が恐る恐るエレファントガンを手に取った。
バカでかい銃口と肉厚の銃身。
絶対にこれを向けられたくないと思った。
始めに廃ボーリング場でリリーがこれを構えた時に明石が慌てて俺達に気を付けるように叫んで物陰に隠れた事を今、実感として感じた。
「ふわぁ~!」
加奈はうっとりとエレファントガンを見つめていた。
「練習に使ったエレファントガンより400グラムくらい重くなっているわ。
加奈にはそれくらいの方が反動を制御できると思う。
弾も500発持って来ているから練習は続けてね。
500発のうち50発はアーマーピアシングと弾の後部が炸裂する特殊弾だから実戦で使う時はあくまですごく厄介な奴相手にしてよ。
雑魚相手ではもったいないからね。
そして、うちの拘りとして着剣装置が付いているわ。
着剣するとかなり重くなるけど加奈ならいつか使いこなす事が出来るかもね。」
確かにダブルバレルの銃口下側に銃剣を付ける突起が付いていた。
リリーが紅の布をめくると凶悪極まりない刃の銃剣が顔を見せた。
こちらにも見事なエングローブが施されている。
「もっともこれを食らった奴に止めの必要も無いかと思うけどね。」
リリーが段ボールの蓋を開けて600ニトロマグナム装弾の弾を一つ取り出してテーブルに置いた。
ごとりと音を立てて置かれたエレファントガンの弾はばかばかしいほど巨大だった。
加奈は練習でこんなでかい弾を撃っていたのか…。
「あれ?
リリー、ここにKANAって彫ってありますぅ!そして次に…読めないですぅ!」
バレルの薬室周りの部分に流麗な筆記体KANA・ATSINILT,ISHと彫ってあった。
「ほほ、それは加奈・アゼネトレシュと発音した方が良いかな?
私のアポイエル族の西隣の部族、ナバホ族の言葉で雷と言う意味よ。
つまり『加奈・アゼネトレシュ』加奈の雷と言う意味ね。
加奈がエレファントガンの練習を始めた頃に私がね、とっくに退社したベレッタの腕利き彫金師を探し出してもらってね頼んで彫ってもらったのよ。
大事に使ってね。
ちょっと酸化成分が強い厄介な火薬を使ってるから手入れはこまめにね。」
「ふぁい!ありがとうございますぅ!
加奈は『加奈・アゼネトレシュ』を!加奈の雷を大事に扱いますぅ!
加奈は!加奈は大感激ですぅ!」
加奈は再び目から涙が溢れ、俺達はエレファントガンを見つめてため息をついた。
今まで四郎達が武器に名前を付けるのをふ~んと言う感じで思っていた俺でさえも愛用の武器に名前を付ける意味を素晴らしく思ってしまった。
抜粋終わり
こうして加奈は強力極まりないエレファントガン『加奈・アゼネトレシュ』の使い手になりました。
近接戦でのククリナイフ、狙撃でのエレファントガン、加奈は無敵の存在になりつつあります。
…すみません、もう1話だけ(汗)