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俺は…俺は加奈が死んで初めて、加奈が死んでしまった事を実感した。



「彩斗、元気~?

 そちらでは何も起きていない?」


電話の向こうで真鈴が明るい声で尋ねて来た。

何やら電話の向こうではどこかの居酒屋の様な喧騒が聞こえてきている。


「こっちは今の所問題無いよ。

 真鈴、今何をしてるの?」

「あはは、調査部の田所さんと今井さんとあと、静岡県警の人が何人かで飲んでいる所よ。

 まぁ、初日の顔合わせ兼、はなちゃんが結構な証拠を掴んでね。

 そのお祝いってところかな?」

「はなちゃんが証拠って…県警の人って大丈夫なの?

 はなちゃんとやり取りしているのかい?」

「ああ、大丈夫よ。

 県警と言っても例のショッカー対策班の静岡支部の人達だからね。

 悪鬼や死霊についての知識は持っているわよ。」

「ああ、それならね…。」

「今回は岩井テレサの組織とワイバーンと日本警察の合同チームって感じなのよ。

 あと2~3日調査したらそっちに帰るわ。

 どうやらあいつらの本拠地は東京らしいのよね…詳しい事は帰って話すわ。」

 

スピーカー機能で周りで聞いていた明石が真鈴に言った。


「どうやら順調そうで何よりだな。

 あまり深酒するなよ。」

「あら?景行?

 大丈夫よ明日も調査があるから早めに切り上げるわ。

 お土産にうなぎパイと治一郎のバウムクーヘンとバリ…バリ…ねえ、お土産のお勧めってバリ何だっけ?」


電話の向こうで大勢の声でバリ勝男クンだよ~!と聞こえて来た。

かなり和やかに飲んでいるようだった。


「そうそう!バリ勝男クンも買って帰るね~!

 じゃあね~!」


電話が切れた。

スピーカー機能で聞いていた明石達がやれやれと言う感じで頷いた。


「どうやら順調らしいな。」

「しかし、こんな騒ぎなのに随分楽しそうだったわね。」

「まぁ、警察の中でも俺達の存在をかなり知ってる組織が一緒だしね。

 俺達はなんだかんだ言って今まで影の存在として動いていたからな。

 俺達の存在を受け入れてくれているって事で気が楽になっているのかもな。」

「そうね、今回は私達だけじゃないものな、それにしても、今度はわれもどこかに出張したいな。」

「私まだ北海道とか沖縄に行った事無いのよ。

 もう少し暖かくなったら行ってみたいな~。」

「沖縄も良いな~クラ、一緒に行こうよ!」

「凛、沖縄良いね~!」

「われはやっぱり、リリーと北海道に!」


 口々に気楽な事を言っているワイバーンメンバーだった。

 なんだかんだ言って日頃命の危険に直面する事をしているのでこんな時に弾けるのだろう。


「さて、少し気分を引き締めてトレーニングをしようか。」


俺はパンパンと手を叩いて立ち上がった。

俺達は2つに分かれ、一つはガレージ地下で射撃訓練、もう1つは屋根裏でやや実戦的なナイフトレーニングをする事にした。


「彩斗、私も見学じゃなくてトレーニングに参加したいわ。」


屋根裏に向かう俺にユキが声を掛けた。


「ユキ、さっき結構トレーニングしたけど体大丈夫?

 明日筋肉痛になったりするかもよ?」

 

加奈が笑顔で後ろからユキの身体を抱えた。

死霊が見えないユキで加奈の事を感じていない。


「良いじゃん彩斗!

 ユキちゃんもやりたいって言ってるしさ~!」


俺は苦笑いを浮かべて加奈の言った事をユキに伝え、同じく屋根裏でトレーニングをする

凛とクラ、圭子さんと喜朗おじも頷いた。


「まぁ、いいか。」


俺が言うとユキは笑顔で頷いた。


その後、屋根裏でコンビネーションを交えた集団戦のナイフトレーニングをみっちりとした。

クラは加奈のククリナイフの後継者としてめきめき接近戦の腕を上げているし、凛の素早さも磨きがかかっていて、さらに圭子さんが随分とナイフの扱いが上達していた。

狙撃専門だけじゃなくてフォワードとしても通用するかも知れない。

ユキもまだまだ素人ながら必死に凛たちの動きについて行こうとしていた。

近いうちに身を守る分には充分な実力を身につけるだろう。


俺と喜朗おじは顔を見合わせて頷いた。

うん、俺達はかなり強くなっている。


屋根裏のタンスの上に腰かけて脚をぶらぶらさせてトレーニングを見ている加奈も満足そうな表情だ。


「皆、かなり上達しているですぅ~!

 これで加奈が抜けた穴も充分塞げるですよ~!」


喜朗おじ、俺、圭子さん、凛の死霊と話せるメンバーが満足そうに頷き、クラやユキに加奈が言った事を伝えるとはぁはぁ息を切らせながらも笑顔で親指を立てて頷いた。


トレーニングを終えた俺達がシャワーを浴びるために屋根裏から出ようとしたが、加奈はそのまま屋根裏に立っていた。


「じゃあみんなまたね~!」

「あれ?加奈はどこかに行くの?」


俺が尋ねるといつの間にか加奈の隣に屋根裏にいた麦わら帽子にワンピース姿の死霊、あの、まだ『ひだまり』になる前の空き家にいた若い女性の死霊が立っていた。


「この人は玲ちゃんですぅ。

 加奈はこれから、玲ちゃんの彼氏とその友達と4人で夜の散歩に行くですよ~!

 えへへ!ダブルデートみたいな感じですぅ!

 いろいろこの辺りを案内してくれるですぅ~!

 加奈は何日かのんびりして仇探しは暫くお休みですぅ~!

 こんなにのんびりするのは初めてかもですぅ~!」


そう言って加奈がニッと笑った。

ああ、なるほど。

加奈は死んだ後の方が随分プライベートが充実して交友関係も広くなったようだった。


「加奈は…こういっては変だが、死んだあとの方が生き生きとしているようだな…皮肉な事だ。」


階段を降りながら喜朗おじがぼそりと言った。

喜朗おじの少し寂しそうな横顔を俺はじっと見ていた。


皆の好意で俺とユキの2人で一階のジャグジーバスに入った。

大きな湯舟から出るあぶくに全身をマッサージされて俺もユキも湯船に横たわり、気持ちよく目を閉じていた。


「ねえ彩斗、さっき加奈と何を話していたの?」

「ユキ、加奈が新しい友達と夜の散歩に行くんだってさ…喜朗おじも言っていたけど…凄い皮肉な感じだけど…加奈は死んだ後の方がプライベートが充実してさ、友達も増えて…なんか楽しそうなんだよね…死霊が見える俺からしたら何か凄く複雑な感じだよ…。」


俺が言うとユキはまた目を閉じて天井を見上げた。


「そうなんだ~。

 ねえ、彩斗は複雑な気持ちなんだよね…私も加奈が死んで凄く悲しくて寂しいけどね…なんだろう?

 やっぱり加奈には生きていて欲しいけどさ…少しだけホッとしてるよ。

 加奈が幸せそうで。」


俺は顔をユキの横顔に向けた。

ユキはしばらくの沈黙の後に続けた。


「でもそれは何だろうね…加奈がさ、一生懸命必死に人生を生き抜いたからなのかもね…よく、こんな辛いなら死んだほうがましって、逃げるように自殺する人がいるじゃない?

 そう言う不幸な人達と加奈とは…なんて言うか、全然違うと思うのよ。

 勿論加奈だってまだやり遂げていない事が、家族を殺した悪鬼を討伐するって事を成し遂げないうちに死んじゃったと言う事も有ってまだこの世に居るんだろうけど…なんかうまく言えないけど…死ぬ事ですべてが終わりじゃないんだな~ってね…。」


俺はユキの言う事が判る気がした。

加奈の葬儀の時、岩井テレサが『死』に全てを終わらせる力は無い、と言っていた。

俺自身が死霊を見る事が出来るようになってそれは実感している。

『死』ですべてが終わる訳でも無いし、『死』に逃げる事で無条件に幸せになれる訳でも無い。

死霊が見えないユキもそんな事を感じているのかも…。


「ユキ、そうかもね。

 岩井テレサが言っていた事を覚えてる?

 『死』に全てを終わらせる力は無いって…まだまだ、死んだ後でもまだまだ人生は続くんだと思うよ…どうも、その、死後の人生のスタートを加奈は良い形で始められたのかもね…。

 一所懸命に生きて来たからかも。」


俺は加奈の壮絶な人生を喜朗おじや明石から聞いて知っていた。

加奈は必死に生きて来た。

加奈は孤独に抱きしめられながら必死に生きて来て、ある日、四郎や真鈴やはなちゃんやジンコや凛やクラと俺にとも知り合ってかなり孤独を癒されて、さあ、これからだ!と言う時に死んでしまった。


家族の仇を討つ事も出来ずに、志半ばで…だからその思いで現世にとどまっているのだろうが、さっき屋根裏で新しく出来た友達と散歩に行くと言った時の加奈の笑顔は輝いていた。

何かに解放された笑顔だった。

加奈の新しい人生が始まったのだろう。


加奈はあのまま1000年も経つとはなちゃんのような存在になるのだろうか…。


「彩斗、でも、あなたは簡単に死んじゃ駄目だよ。

 早く死なないでね、私がいるんだから。

 生き延びてね…。」


ユキがそっと湯の中の俺の手を握った。


「そうだね、ユキが言う通りだよ。

 俺はまだまだ死なないよ。

 加奈の様に一所懸命に…必死に…生きないと…死んだ後で…とてもあんな笑顔を…うっ!ううううう!」


俺は急に言葉に詰まった。

目から涙が溢れ出した。

嗚咽が止まらない。


「でも…でも!ううううう!

 加奈は早すぎたよ!

 まだ死ぬにはとても!とても早すぎたよ!

 皆!皆そう思っているよ!

 実は皆!うううう!

 加奈は早すぎたんだよぉ!

 加奈の死は!加奈の死はぁ!

 ううううう!うううう!」


俺はしゃくりあげながら何とか言葉を吐いた。

加奈が死んでから、初めてこんなに激しく泣いたのかも知れない。

初めて加奈が死んでしまった事が、今この時はっきりと判ったのかも知れない。


そんな俺の頭をユキは優しく抱きよせて頭を撫でてくれた。

俺はユキに抱かれ頭を撫でられながら暫くジャグジーの中で泣き続けた。


次の日、俺はユキと共に、他の皆と朝のトレーニングをして朝食を食べ、ユキを家まで送り届けた。

ランドクルーザーの中でユキは体のあちこちが痛くなってきたと言った。

ほうらやっぱり筋肉痛が来たな。

俺は真鈴と共に四郎の訓練を受け始めた頃に筋肉痛を経験した頃を思い出した。


死霊屋敷に戻り、いつもの仕事を四郎達とこなしながら真鈴達がどんな情報をもたらすのか待っていた。

今のところこの辺りは平穏で暴動などはすっかりと減って行った。

世界も落ち着きを取り戻しつつある。

だが、宗教の世界では神の存在とは?など色々な意見が溢れ出て結構な騒ぎになっていたし、日本のあちこちでも新興宗教が雨後の筍の様に増えた。

俺はなにか…別の意味で、きな臭い空気を感じていた。









続く





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